表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/18

10 岬君アンケート

3日ぶり(?)の投稿です。

実は書き溜めが底を尽きまして、投稿のペースが落ちそうです。すみませぬorz

4月19日、水曜日。時刻は5時きっかり。

天気は晴天なれども波高し。まぁ、海行ってないから知らないのだけれども。たぶん高波なんじゃないか?


「……という訳だ」


5畳もない狭苦しい教室に、俺の声が響く。

柳田の誤解。昨日の放課後、それを解いたこと。そして、クラスメイトとして打ち解けることが出来たこと。

いつもの空き教室で、俺は昨日の事の顛末――柳田との和解――について、夕凪に話していた。


「ふふふふ……」


それらを聞いた夕凪は、不敵な笑みを浮かべた。何故だろう、とても腹がたつ笑いだ。


「……なんだ」 

「そちらは上手く行ったようだね……」


そちらってどっちだ。俺か、俺なのか?


「それで夕凪、今日の反省会なんだが……」

「まぁそう急ぐな、私も昨日のことで話がある。ふはは」

「なんだ? 夕凪はカラオケに行ってたんじゃないのか」

「渚君。まさか、君が必死になって柳田さんを追いかけてるのに、私がカラオケで遊び呆けてると思っていたのかね?」

「あぁ」

「それは心外! 正直過ぎるよ!」


不敵な笑みは瞬時に剥がれ、ぴーぴーと抗議する夕凪。いや、抗議よりわめくという表現がしっくりくる。

よかった。10秒で化けの皮が剥がれる辺り、いつもの夕凪らしい。


「それで、結局お前は何をしたんだ」


さっきの不敵な笑みが気になって、問いかける。

すると夕凪は、待ってましたと言わんばかりに表情を明るくした。

だが……


「それが人に聞く態度かな?」


また、ふざけた口調。

だからそのキャラはなんなんだ。教えてくれ。


「……教えてくれ、頼む」

「ふふふ……聞きたいか?」


ぶっちゃけると腹がたつ態度だが、話がある以上、反抗する訳にもいかない。ここは素直に、彼女に従うことにする。


「あぁ、聞きたい」

「ふふふふふ………やっぱりひ・み・つ」


……は?


「………」

「ふふふ……うぇっ!? やめて、回転しないで! 私は駒じゃないよっ!」


この前と同じように、脇を掴んで回転しようとしたが………すんでのところで振り払われた。

息を荒くした夕凪が、俺から逃げるようにして元の椅子へと座る。そして、俺を抗議の視線で睨む。


「私のこと、回すの禁止! あと持ち上げるのもダメっ!」

「じゃあ焦らすな。早くしてくれ」

「ぐっ……仕方ないなぁ。じゃーん! 『同級生3人に聞きました!岬君の印象アンケート その1』!」


高々と掲げられるノート。B5サイズの、どこにでも売っている、ブルーのノートだ。

というか、その1て。2もあるのか?


「……なんだそれは」

「言葉通りの物だよ。一緒にカラオケへ行った女子達に、それとなく岬君のことを聞いてみたの」


夕凪はペラペラとページを捲り、その内容を読み上げていく。


「まず1つ目。『顔はイケメンなんだけど、表情が怖い。絶対人殺したことあるよね。殺人犯』……だそうです」

「ぬっ……」


恐らく……というか、絶対に推測なんだろうけど、実際に人を殺したことがある以上、なんて反応すればいいのかわからない。思わず反応に詰まってしまう。

それを悟られないよう、平然を装って窓の外に視線をやった。

今日は部活動が休みらしく、校庭には人っ子一人見えない。


というか、殺人犯は余計じゃないか?

表情のことだけでいいだろ。くそう。


「そして2つ目!『めっちゃ勉強できるけど、ちょっと天然入ってるよね』とのこと!」

「天然……? 俺は文化人だぞ。天然なんかじゃない」

「そういうところが天然なんだけど……まぁいっか。気を取り直して3つ目!」 

「???」


疑問に思う俺をよそに、ペラリ、とページを捲る夕凪。


「『あいつ絶対神奈のこと好きだよね』……だそうです! どうですか岬君。照れなくてもいいんですよっ! 白状しちゃいなさいっ!」

「あぁ、好きだが」

「ほれほれ、どうした岬―――ふぇっ?」

「? 聞こえなかったか」

「い、いや、そういう訳じゃ――」

「好きだと言ったんだ」


何故か夕凪は動揺しているが、嘘などついていない。

これは嘘偽りない、俺の本音だ。

ただのクラスメイトだった俺に、放課後の時間を割いてまで面倒を見てくれる。わざわざ同級生と遊んでいる時ですら調査を行ってくれたんだ。

いくら現代に疎い俺でも、この行動が当たり前のことじゃあないぐらい、考えがつく。

弱者に対して救いの手を差し伸べる。それは、未来で俺が出来なかったことだ。命令のまま、弱者であるレジスタンスの命を奪ってきた俺は―――彼女に、夕凪に、憧れているのかもしれない。


好きになる理由はあれど、嫌いになる要素は0だ。


「う、うぅ……それはズルいよっ!」

「本音を言ったまでだ。ズルどころか、正々堂々としているだろ」

「そうだけど……そうじゃないんだってば!」


どっちだ。これも、俺と彼女の価値観の差が生じさせるエラーなのか。

いくら考えても、答えは尻尾すら見せない。なんとも気持ちの悪い感覚だ。


「そうじゃない……? じゃあなんだ、教えてくれ」

「あ、あーっ! もうこんな時間、帰らなきゃ!」


勢いよく立ち上がる夕凪。古びた椅子が、ガタリと音をたてた。


「時間……? まだ4時代じゃないか」

「今日は用事があるの!」

「へぇ、そうか。それじゃあ、俺も帰るとするか」



――



「方面同じってこと、忘れてた……」

「ん、何か言ったか?」

「別にっ。何も言ってないしっ!」

「そうか……」


幻聴だったか。もしかすると、現代にきてからストレスが溜まっているのかもしれない。


学校を出た俺たちは、京浜東北線で秋葉原駅に向かっていた。この時間帯になると仕事上がりの人間が増えるのか、スーツに見を包んだ人間がかなり見受けられる。それでも、朝の混雑に比べればなんてことない量だ。

運良く空いていた座席に、俺達は並んで座っている。


「それにしても――」 


夕凪が口を開く。しかし、彼女の視線は車窓に投げられていて、どことなく距離を感じさせる。心ここにあらず……の一歩手前みたいな感じだ。


「君には、恥じらいって物が無いのかなぁ」

「人並みにはあるつもりだが」

「はぁ……」


呆れたようにため息をついた夕凪は、こちらに視線を向けてくる。

やはりその視線には、呆れが籠もっているような気がする。


「だってさ……躊躇いもなく『好き』とか言える高校生、あんまりいるもんじゃないよ?」

「……そうなのか?」

「そうなのっ。平凡な高校生っていうのは、みんなに嘘をついて。時には自分にすら嘘をついて生活してるの」

「……理解できない」


自分に嘘をつくなんてこと、俺には想像が出来ない。


「……それはきっと、君が強いからだよ」


強いって……肉体的な意味で、か? 確かに俺は、苛烈な戦場で暮らしてきてた。肉体の鍛錬も怠らなかったし、生き抜く為に身につけられる術は全て身に着けた自身はある。

それらが、『平凡』を理解できないこととどんな関係があるのだろうか。


「あ、筋肉とか、肉体的な意味じゃないよ」


俺の心象を感じ取ったのか、夕凪が訂正する。

やはりエスパーか。


「心……そう、君の心」

「心が、強い?」

「うん。付き合いの短い私でもわかるぐらい、岬君の心は強い。そう思う。じゃないと、柳田さんのことを追いかけて、誤解を解くなんて一日じゃできないもん」

「それは普通の――平凡な高校生とは、違うのか?」

「だいぶ違うかな……ふふっ」


夕凪は目を細め、可笑しそうに笑った。そこに侮蔑的な意味合いは感じられない。人当たりの良い、彼女らしい笑みだ。

なのに、釈然としない感じがあるのは何故だろうか。

気のせいかもしれない。ただ、今の彼女の笑みは、何かを懐かしみ、その何かを悲しんでいるような。その笑みは、俺に向けられたモノではなくて、まるで彼女自身に向けられているような。

そんな気がした。


「お前は……」


秋葉原駅の付近まで来た電車は、機械的なアナウンスと共に速度を落とす。レールの奏でる単調なリズムが、息を吐き出すように細くなっていく。


「夕凪は、どっちなんだ。強いのか?」

「……私は、普通の高校生だよ。みんなに嘘をついて、その嘘を隠す為、また嘘をつく。本当の心を厚いメッキで上塗りして、そのくせ息苦しそうにしている。どこにでもいる、女子高生」


そう言った彼女の瞳は、さっきと同じく車窓に向けられている。そこには、なんの変哲もないホームがゆっくりと流れているだけだ。なんの意味も持たない、代わり映えしない景色。

それを眺める夕凪は、どこか悲しげで―――


「秋葉原、着いたよ。降りなきゃ」 

「……お前って、詩人の才能あるよ。メッキて」

「こういう時は茶化さないのっ、もうっ!」


失礼な感想に抗議する夕凪に、さっきまでの雰囲気は感じとれなかった。いつもの明るい『夕凪神奈』がそこにいて、さっきの姿は欠片も見えない。

彼女に引かれるようにして、俺は電車を降りた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ