最後の一年
「スリー!体元に戻したんだね!」
『ダークマター』事件から三か月後。
スリーはルーチェに会いに惑星エンディオに来ていた。
治した体を店に来ていた。ルーチェは中に入りなよと言いスリーはそれに従った。
ルーチェはお茶を出すと興味深々で聞いてきた。
「で?で?新しい体はどんな感じ?」
「どんな感じって言われてもな……ロケット弾やスタンガンを仕込めなくなったから少し不便だな」
「もー!またそんなこと言う!ほかにもあるでしょう!」
「……んな事言われてもな」
「だったら……はい!」
ルーチェはスリーの手を取り両手で包んだ。
「……どう?」
「どうって……あったかいな」
「それが生身のいい所だよ。スリーはそれを取り戻したんだよ」
「ぬくもりってやつか。……悪くはないな」
「素直じゃないんだから」
そう言うとルーチェはスリーの両手を温め続けた。
スリーがこのぬくもりを二度と忘れないように。
キジヌ達は『マックスボビー』に来ていた。
テーブル席でそれぞれ座って飲食しているとアルフレッドとクリス、マスターグレイのリモンと出会った。
お互いに軽く手を上げあいさつをした。
「奇遇だな!特にスリーよ!生身に戻したと来たぞ!レンキを学ばぬか!」
「遠慮しておきますよ。しかし珍しい組み合わせですね」
スリーの言葉にアルフレッドは答えた。
「依頼を受けたんだけど、ちょうど開いていたのが僕たちだけでね。今仕事を終えて報告に来たのさ」
「もう本当にくたびれちゃった。スリーは体の調子はどう?」
クリスが髪をいじりながら言った。
「大分いい感じだぜ。スタンガンとロケット弾を失ったのは痛手だがな」
「もう!そんな野蛮な物なんていらないのよ。戦士は身一つ、拳で語れってね」
「おっとそろそろ報告に行かなきゃ。僕はカウンターに行ってくるよ」
「では我々もついて行こう。行くぞリモン」
「押忍!」
そう言うと四人はカウンターの方に向かって言った。入れ替わりでデイビットが現れた。
「やあ皆元気かい?」
「お陰様で元気だよデイビット。何かあったのかい」
「いや君たちのおかげで『ダークマター』CEOを捕まえることが出来たからね。僕の方からもお礼を言
わせてくれよ。本当にありがとう」
そう言うとデイビットは頭を下げた。デイビットの顔には喜びの色が見えた。
「それであいつらはこれからどうなるんだ?」
「暫くは事情聴取だね。何せ相手は『ダークマター』の中核の人物だからね。僕も今から彼らが確保され
ている七宝帝帝国領域全域警察の方に向かうところさ」
「そうか忙しいのだな気を付けて向かってくれよ」
「ありがとう。君たちも気を付けてくれよ『ダークマター』の中核は抑えたけど末端はまだ生きている可能性が高いからね」
デイビットはそう言うと駆けて行ってしまった。
キジヌ達はそんなデイビットを見送った。
キジヌ達はしごと終え惑星ミジトでの仕事を終え、エルバラドの街に買い出しに来ていた。
スリーとキジヌは買い物を終え、荷物を両手に抱えていた。
この街に来た時にキジヌはゴルドーの事を思い出していた。
白騎士事件。この街で遭遇した事件をまじまじと思い出していた。
物思いにふけっていると目の前に二人の人影が見えた。
キジヌのレンキの師匠、レンジュウロウと兄弟弟子のロングゥだった。
「師匠、一体何の様ですか」
キジヌは抱えた荷物越しにレンジュウロウを睨みつけた。
レンジュウロウはカラカラと笑っていた。
「いやなにな、そこの娘が生身になったと聞いてな、レンキの弟子にならんかと思ってのう」
「スリーちゃんならレンキ使いの才能があるよ。だから勧誘に来たんだ」
ロングゥが優しく微笑みながら言った。彼はいつもそうだった。スリーは荷物を下した。
「残念だけど断るぜ。マスターグレイにも勧誘されたけど断ったしな」
「そうかいそうかい、そりゃ残念じゃ。だがもしレンキを使いたくなったらわしらの所に来ると良い。キ
ッチリ伝授するぞい」
「それじゃ二人共元気でね」
そう言うと二人の体が霧の様に消えた。彼らには既に肉体は存在していないのだ。
レンキに魂を乗せた超越者達だった。キジヌとスリーは溜息をつくと、荷物を抱えて歩き始めた。
スリーがグレートジェントルマン号のブリッジでくつろいでいると来訪者たちは突然現れた。アルフに
ラングースにドーグス、『宇宙人』の三人とそれぞれの観察員たちが急に現れた。
「びっくりするから入り口から来いよ」
「済まないねつい便利だからワープしてしまうんだ」
星のような瞳に笑みを浮かべてアルフは答えた。
「そういえば君には観察員はまだ就いていないのかい」
「ああ、どうも人手不足らしくてな。今はうちのボスが代理でやってるよ」
「そうだったのか。けれどもそろそろ就くだろう。どんな人物か楽しみだね」
「あんた等ん所みたいにダンマリ決め込むタイプならいいんだがな」
スリーの言葉にアルフは声を上げて笑った。
「実は僕の観察員は良くしゃべるよ。人前では静かだけどね」
「私の方もそうです」
「……私は……静か……」
「三者三様って感じなんだな。てっきり観察員は喋っちゃいけないもんだと思ってたぜ」
「そうですね。スリーの観察員はどんな人か楽しみですね」
ラングースは微笑みながら言った。四人の談話は朗らかに続いた。
「ほらそこは隙だらけだよ」
グレートジェントルマン号のトレーニングルームでグランマとスリーは手合わせをしていた。
この手合わせはスリーがグランマに生身でも戦えるようにと頼んだものだった。
スリーの拳をいなしながらグランマは言った
「蹴りは使うんじゃないよ。敵は鋼鉄の様に固い場合もあるんだ。足が折れちゃ逃げられやしないよ」
スリーの拳を躱し掌底でスリーの腹を打った。スリーは体を九の字に折り曲げて倒れた。
「今日はこんなところにしとくかい」
スリーは倒れたまま、おうと答えた。そんなスリーにグランマは飲み物を差し出した。
「筋は大分いいさね。あとは慣れの問題さね」
「慣れか……」
「……話は変わるけどあんたあたしの養子にならないかい」
唐突な提案にスリーは体を起こした。
「急にどうしたんだよ」
「いやなに、スリーのままじゃコレからやりづらいだろうからさ。家名は必要だろう?」
それはグランマのやさしさだった。スリーは正面から受け止めた。
「分かった。グランマの養子になるよ。スリー=フェイ。悪くねえな」
グランマは皺を深くして笑った。スリーもつられて笑顔になった。
「私の名前はミルキー=ウェインですよろしくお願いします」
とうとうスリーの観察員が来た。背筋のピンと伸びた女性だった。
「スリー=フェイだ。よろしく頼む」
それから二人の間に会話は無かった。どうやらダンマリ型の観察員だったらしい。
スリーは自分から話しかけてみた。
「あんたは戦闘とかできるのか?」
「観察員はみな星越者クラスの人材で構成されています。故に私もその程度であるとお思いください」
「そうかつまり強いんだな」
「……それはそうとそれはにゃんキューブですか?」
ミルキーは猫の人形を指さした。スリーは余りに意外だったので一瞬硬直してしまった。
「あ、ああ、にゃんキューブだあんたも好きなのか?」
「勿論です!猫の可愛いさを残しつつ完成された形。素晴らしいシリーズと言いようが
ありません」
「よく判ってるじゃねえか!にゃんキューブはこの尻のラインがな……」
二人の話は夜まで続いた。
どうやら気の合う観察員らしかった。
運命の日は来た。スリーがキジヌ達の元を離れる日だ。
スリーは準備していた高速艇をグレートジェントルマン号に接舷させた。スリーは口を開いた
「じゃあもう行くぜ」
キジヌが帽子を脱いで答えた。
「そうか。寂しくなるが仕方ないな。体に気を付けるのだぞ」
グランマがスリーの頭を撫でながら言った。
「格闘の基礎を忘れるんじゃないよ、バカ娘。元気でやりな」
アビゲイルが宙に浮きながら言った。
「体には気を付けてくださいね。もうサイボーグじゃないんですカラ」
スリーは高速艇のタラップに乗ると振り向いた。
「長い間色々お世話になりました。この御恩は忘れません……じゃあ、またどこかでな!」
スリーは手を上げて高速艇に乗り込んだ。そしてハッチは閉じられた。
高速艇の通路の中でスリーは呟いた。
「……そろそろ出てきたらどうだ?」
「ばれてましたか」
廊下の奥から二本のアームの付いた小さな球体が現れた。
「僕はミニです。アビゲイルとは何も関係ありません」
球体のバレバレな嘘にスリーは溜息をついた。
「まあいいさ。仲間は多いに越したことはないからな」
それから高速艇は発進し、グレートジェントルマン号から離れて行った。
光る星々のその先へと。
それから三日後、スリー達とキジヌ達が同じ仕事を受けることになるのは、またべつの話である。
完
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