魂の光
何の因果か神のいたずらか。
結局レンジュウロウとロングゥグレートジェントルマン号と行動を共にすることとなった。
キジヌにはレンジュウロウ達、特にロングゥに聞きたいことが沢山あった。
方や指名手配犯、片や死人。聞きたい事が無いわけが無かった。
先ずはロングゥに話を聞くことにした。
ロングゥと離れてからは十年以上経っていた。
しかしロングゥは長髪に痩身と子供のころの印象とあまり変わらなかった。
この十余年、何にをしていたのか。
ゴルドーとは何があったのか。結果死に至ったのではないのか。
聞きたい事は山ほど在った。
こうしてグレートジェントルマン号のミーティングルームでを目の前にしてもキジヌは何から聞けば良いのか判らなかった。
口火を切ったのはロングゥの方だった。
「背が伸びたね、キジヌ。それに逞しくなった。あのあと軍に行ったみたいだったけどそこで鍛えられたのかい?」
「あ、あぁ、軍では大分鍛えられたよ。ロングゥ、君はあの後、師匠の下から別れてから、一体何をしていたのかね」
一度話し始めればすらすらと口から言葉が出るモノである。
ロングゥは昔の様に優しく微笑んだ。
「僕はあの後もレンキの修行をしていたよ。山にこもってね。自給自足で生活を続けていたよ。僕には軍に限らず、仕事をするのが向いてなかったからね」
「そうだったのか。ではなぜゴルドーと対峙することになったのだ?そんな生活をしていれば世俗の情報に疎くなるはずでは?」
「それは師匠から聞いたんだよ。『ゴルドーがレンキ使いをさらっとる。貴様はどうする?』ってね。それを聞いたら居てもたってもいられなくなってね。師匠から潜伏場所は聞いていたから、すぐにゴルドーに会えたよ。そして野蛮な事はやめるように説得しようとしたんだけどね、どうやら逆効果だったみたいでね。彼を救う事は僕には出来なかったよ」
「私にもゴルドーを救う事は出来なかった。……それからはどうなったのだ?君は彼の手に掛けられて死に至ったのではないのかね?」
「その通り。僕は肉体的にはすでに死んでいる身だ。けどレンキの修行をしていたころから気が付いていたのだけれども、魂をレンキに乗せることが出来るようになっていたんだ。」
「レンキに魂を乗せる?それは一体……」
「そのままの意味さ。人の魂とは基本肉体に乗って依存しているんだよ。だからその依存先をレンキに切り替えることで、レンキの体を得ることが出来たんだ」
「それはもしかして……」
「そう、僕はこれから戦うケイオスと同じモノに成ったんだ。だからこそケイオスにも立ち向かえる様になった」
そう言うとロングは霧の様に消えた。
気配のする方に向くとそこにロングゥが立っていた。
「こんなことも出来るようになったんだ。驚いたかい?」
「あぁ、正直驚いているよ。君の話自体にもね」
「出来ればこれからケイオスと立ち会う前に、君にもコレを会得してほしいんだ。肉体は足かせになりかねないからね」
「もしかして師匠も同じ技を?」
「可能だよ。僕がレンキ体になった時点で師匠は直ぐに僕にコンタクトを取ってきたからね。……ゴルドーにもこの極意を伝えることが出来ればよかったんだけども。彼はもう僕の話を聞いてはくれなかったんだ。それだけが僕の後悔だし、君には同じ目には遭ってほしくはないんだ。だから今からこの技を無理やりにでも覚えてもらうよ。それが出来なければ君には今回の件からはおりてもらいたい」
ロングゥの目は本気だった。
「魂をレンキに乗せるのはどうすればいいのかね」
「キジヌ程のレンキ使いなら簡単に出来るはずさ。レンキを感じるのと同じように魂を感じるんだ」
「魂を感じる……」
キジヌは目を閉じて集中した。
心がまるで大いなる海の中に漂っている様だった。
水を掻いて潜り続けると光が見えた。
「それが魂だよ。手に取って感じるんだ」
ロングゥの声が遠くから聞こえてきた。
キジヌは光に手を伸ばした。
それは暖かく輝いていた。
「魂を感じたらどうすれば良いのかね?」
「それを感じ続けるんだ。そうすればいつでも魂を認識できる。……今回はここまでにしよう」
その声でキジヌは体が引っ張られる様に感じた。
目を開けるとそこはいつものミーティングルームだった。
ロングゥは優しく微笑んだ。
「初めてなのに魂を見つけるなんて大したものだよ。あと数回こなせば完璧に会得できると思うよ」
「あれが魂なのかい?光って暖かかったが」
「そうさ。あれが魂さ。その感覚を忘れないようにね。あ、艦内を探検しても良いかい?こういう船に乗るのは初めて何だ」
ロングゥはさっきとは打って変わって子供の様にはしゃぎ始めた。
昔から感情の切り替えが激しかったことをキジヌは思い出していた。
「あ、あぁ、ならアビーに案内させよう。アビー、聞こえているかい?」
アビゲイルは直ぐに来た。
球体状の体についた日本のアームをワキワキしながら現れた。
「はい、大丈夫ですよ。さぁロングゥさん、僕に付いてきてくだサイ」
「わぁ、かわいらしい子だね!よろしく頼むよ!」
アビゲイルとロングゥは直ぐに打ち解けたらしい。
和気あいあいとしながら廊下の奥へと消えて行った。
二人が居なくなった後、キジヌは再び魂を感じる為に集中した。
周りから音が消え去り、体の感覚が無くなっていく。
大海の中に心をうずめ、光を探す。
光は直ぐに見つかった。それに触れるとやはり暖かかった。
「修行中によいかの」
突然の声に、キジヌの心臓は跳ね上がった。
体を一気に引き上げられる感覚の後、目を開けると、そこにはレンジュウロウが突き立てたレンキの槍に胡坐をかいていた。
老人はカラカラと笑っていた。
「あの事件以来じゃのう。ロングゥからは大体話は聞いたかの?」
「師匠、貴方には聞きたいことがあります」
「何じゃ、ゴルドーの事か?」
「ええ、何故彼が死ぬと分かっていて彼を止めなかったのですか」
「それは単純じゃ。奴があれを望んでおった。だから止めなかった」
「あんな死に方が彼の望んだ結末ではないのは貴方もご存じだったはずだなのに何故!」
「奴には才能が無かった。ロングゥやお前さんとは違ってな。だからせめて好きなようにさせたのじゃ。親心というやつじゃな」
「彼は死を望んではいなかった。それなのに貴方は死に至る儀式を止めなかった。彼を殺したのは貴方だ」
「何じゃそんな事で悩んどったのか」
老人は溜息を一つついた。
「そんな事だと!?ゴルドーの死を!そんな言葉であんたは片づけるのか!?」
「お前さん何か勘違いしとらんか?ゴルドーに手を掛けたのはお前さんじゃろう。いつまでそれを受け入れぬつもりなのじゃ?」
「それは……」
「そのままではこの先の戦いでは役には立たんの。せいぜいがタクシー代わりにしかならぬわい。もう少し考えるとよい。そして折り合いを付けろ。そうでなければあっさりと死ぬぞい」
老人はそう言うと部屋から出て行った。
キジヌは行き先を失った怒りを、椅子を蹴りぶつけた。




