エルダーワンズ
グレートジェントルマン号のブリッジで純一郎は物思いにふけっていた。
こちらの世界に来る前の事を思い出していた。
そもそも自分は車にはねられ死んだはずだった。
あの時の痛みは今でも鮮明思い出せる。それほどまでに現実感があった。
もしかすると自分はもう死んでいるのではないかとも時々思う。
だがこの世界もそれに負けず劣らず現実感がある。
――考えれば考えるほど、訳が解らなくなって、なんだか笑えてくる。
少なくとも今の自分は確実に存在している。
現実にいると思える。
そういえばエルダーワンズ領域で自身の秘密が分かったとしてその先はどうするべきなのだろうか。
そんな事を考えているとスリーが現れた。
「何してたんだ?」
「少し考えていたんだ。自分の秘密を知った後どうしようかなって」
「気が早ぇな、何か算段でもあんのか?」
「いや、全く。どうしたらいいんだか全く分からないよ」
「……だったらうちに居りゃぁ良いんじゃねぇか。ボスもノーとは言わないと思うぜ」
「けど俺が出来ることなんてなにもないよ?」
「雑用係とかで良いんじゃねぇか?いや、雑用事はアビーが全部やってんな」
「そうなの?」
「ああ、あいつはうちの艦の殆どを担ってるからな。俺らのやることはあんまねぇんだ」
「そうだったんだ。確かに誰かが家事やってるのを見た事無かったな」
「まあな。それじゃ戦闘装甲服の扱いでも覚えるか?そしたら立派な戦力だぜ」
「俺にそんな事出来るかな」
「練習用のシミュレーターが艦内にあるからな。それで練習すりゃあ良い」
「……ありがとう。何だかスリーには励まされてばかりだな」
「けっ、別に励ましてるわけじゃねぇよ。ただしおらしい奴が近くにいると錆びちまうからな。それに働かざる者食うべからず、だ」
「……本当にありがとう」
「へっうるせぇよ」
そう言うとスリーはブリッジから出て行ってしまった。純一郎はまたこれからの事を考え始めた。
虹色の幕が漂う宇宙。
グレートジェントルマン号はとうとう目的地に着いた。
問題は何処の惑星に船を降ろすかだった。キジヌ達は悩んでいた。
「さて何処に降ろすべきか……」
「誰か知り合いは居ないのかい」
「顔の広いグランマが居ないのなら誰も居ないのではないデショウカ」
「こんなところで壁にぶつかるとはな……」
「どうすればいいんでしょう」
一同が困惑していると唐突にそれは起こった。
『こんにちは、皆さん……』
「……何か変な声聞こえたけど俺だけか?」
「いや、私にも聞こえたぞ」
「なんだい、こんなところに来て集団幻覚にでもかかったのかい」
『幻覚ではありませんよ、ミセスメイガン』
「僕にも聞こえてマスヨ」
「俺もです」
『皆さん私が案内します……声の方に艦を進めてください」
どちらにせよ何かの策がある訳ではない。
グレートジェントルマン号は声の方に進むことになった。
暫く進めていると、一つの機械的な建物が建っている小さな星にたどり着いた。
そこには二体の何かが立っていた。
円錐状の体の頂点に四本の触手が生えており、そのうち二本が鉤爪、一本に目の付いた球体がありもう一本は袋状になっていた。
彼らこそ『イスの偉大なる種族』だった。
彼らから少し離してグレートジェントルマン号を着陸させた。
『この星には空気があります。生身で降りても大丈夫ですよ』
彼の言う通り外には十分な空気が存在していた。
グレートジェントルマン号から降りてきた一行を見て彼らの内一人が目を細めた。
『ようこそ。皆さん……狭いですがゆっくりしていてください』
「ありがとうございます。私は……」
『大丈夫ですキジヌさん。皆さんの名前は把握させてもらっています。私はヴァル=ヴァヴェリエ隣の彼はハワードです』
『こんなところに何をしに来た、凡骨共めが』
『失礼。彼はひねくれていて口が悪いのです。立ち話も何ですから中にどうぞ』
案内されるがまま機械的な建物に入ると、中は外観からは想像できない程に広く、壁一面に書物が並んでいた。
キジヌ達は言われるがままに中に入った。
『皆さんこちらへお掛けください』
ヴァルの指す方には椅子の様な物が宙に浮いていた。
キジヌ達は言われるがままに椅子の様な物に腰かけた。
『それでは話を始めましょう。まず純一郎さん、あなたはれっきとした『人間』です。』
「それはどういうことですか」
問いかけた純一郎に、ヴァルは眼を細め優しく答えた。
『あなたは遥か過去の地球から、それこそ地球が消失する遥か前から、何らかの出来事が理由で未来であるこの世界に来ました。』
「そんなことがあり得るのですか?」
キジヌが聞いた。
『はい、理由は私にもわかりません。しかし純一郎さんの細胞は遥か過去の地球人 の細胞と一致するのです。』
「つまり純一郎から見れば俺たちの方が『人間』じゃねえってことか?」
『残念ながらそういう事になります。今の人類はケイオス粒子に適合した人類なのです』
「ケイオス粒子?」
『主にキジヌさんの使うレンキや、魔法等に使われているこの宇宙に満たされた粒子です。過去には『ダークマター』とも呼ばれていました。人類はその粒子さらされて大いに変化したのです』
「粒子に適合できなかった人類はどうなったんだ?」
『彼らは地球に残りました。ケイオス粒子は適合できなかった人類にとっては猛毒だったのです。故に適合出来なかった人類たちは、自分たちの遺伝子を守るために地球ごと自分達を凍結させ、新天地へと旅立って行ったのです。その過去は後の『五十年戦争』で忘れ去られてしまったのです』
「にわかには信じられないね」
グランマが言った。アビゲイルも頷きながら言った。
「確かに突拍子も無い話デスネ」
『ですがそれが真実なのです。確かめなければならないことがあります』
「一体何を確かめなければならないのですか」
『純一郎さんがケイオス粒子に適合しているかどうかです。もしも適合出来てなければ、純一郎さんの体は徐々に破壊されてしまうでしょう』
「それをどうやって調べるんだい」
『我々の施設で可能です。適合出来れば何らかの能力に目覚める可能性もあるでしょう』
「それは直ぐに出来るんですか?」
『はい、すぐに可能です』
「じゃあお願いします」
「そんな簡単に決めて大丈夫なのかよ?」
スリーの問いに純一郎は頷いた。
「うん、もしかしたら何か能力に目覚めるらしいからね。そうなれば皆の役にも立てるようになる」
「お前がそう言うなら止めはしないけれどもよ……」
『それでは早速始めましょう。純一郎は此方へ』
ヴァルに促され純一郎は奥へと進んだ。キジヌ達は心配そうに見送った。




