プロローグ
彼こと、佐伯純一郎を一言でいえば平凡な学生だった。
家の近くのそこそこの高校に入学し、そこそこ友達にも恵まれた。
友人達とはテストの点数がどうだーとか、親がうるさくてどうだーとか他愛のない話で盛り上がった。
部活には入らず、帰宅部だった。
いつもと同じ毎日、いつもと同じ日々。
そんな毎日の中で自分が生まれた意味、生きていく意味を考えることもあったが、それでも嫌な毎日
でもなかった。
なんとなく続いていくのだろうと思った。
そんなある日である。
通学の最中、いつもの交差点で信号待ちをしていた時に事件は起こった。
幼稚園児が赤信号の車道に飛び出したのだ。
純一郎は正義感がとびぬけて強いわけでは無かった。
それでも体が勝手に動き出していた車道に飛び出し園児を突き飛ばした。
そして純一郎は走ってきたトラックに跳ね飛ばされてしまった。
地面に転がり、止まった。
今自分がどこを向いているのかも判らなかった。
純一郎はそのまま死んでしまった。
視界は光に包まれていた遠くに誰かの声が聞こえていた。
その声はだんだんと近づいてきた。
多分自分は死んでしまったのだろう。
眩しかったが純一郎は目を開いた。
天井があった。
背中に妙な感触があった。
恐る恐る体を起こし下を見てみると紳士服に身を包んだ人がいた。
まるで潰れたカエルの様にうつ伏せで倒れていた。
「すげぇ音したけど何かあったのかボス――」
凛とした声が聞こえた。
振り向いてみるとパーカーにショートパンツ姿で銀髪の、縫い傷塗れの美少女が立っていた。
「誰だお前」
「佐伯純一郎です……」
名乗ったのと同時に少女は純一郎の両頬を両手でそっと包んだ。
ふわりと石鹸の香りが誠一郎の心臓は脈打った。
一瞬後、少女の両手に内蔵されたスタンガンを食らい、純一郎は気絶した。
「それでお前は誰なんだよ」
グレートジェントルマン号の作戦室。縄でグルグル巻きにされた純一郎にスリーは問いただした。
「だから佐伯純一郎ですって」
「名前を聞いてんじゃねぇよ。そもそも佐伯がファーストネームなのか?」
「ファーストネームは純一郎の方です!」
「で何してるんだよ。スパイか何かか?」
「平凡な高校生ですよ!」
「どこの」
「日本の宮城県の仙台市ですよ!」
「だからそこは何処なんだよ」
「何処と言われても……それ以上答えようがないですよ」
「じゃあどうやって入って来たんだよ」
「分かりませんよ、気付いたらここに来てたんですよ」
質疑応答は堂々巡りだった。スリーは苛立つように言った
「とにかくお前はうちの艦に無断侵入した挙句、うちのボスに攻撃し、感電もさせた。この罪は重いぜ」
「感電させたのはお姉さんじゃ」
「ああん?また痺れてぇか?」
「すいません、俺が悪かったですだから勘弁してください」
「スリーそろそろ良いのではないかい?彼も現状を良く理解してないみたいだしな」
「それに僕、日本ってどこかで聞いた事があるんデスヨネ」
「本当かい?」
「はい。間違いなくアリマス」
「そんじゃアビーの情報待ちだな」
「そうだねそれじゃぁアビー、よろしく頼むよ」
「ええと……この縄は……」
「済まないがもう少しつけててもらうよ。君が安全かどうかも分からないからね」
「そうですか……」
純一郎は肩をがっくりと落として答えた。キジヌは元気付ける為に言った。
「安心したまえよ。情報屋に君の事を調べてもらっている。直ぐに分かるようになるさ」
そう言ってる最中に通信機に連絡が来た。情報屋のロンリースミスからだった。
「やあスミス。彼の事は」
『サッパリ分からん。その少年に関しての情報は恐らくこの宇宙には存在してない。だが一つ分かったことがある。日本の事だ。日本はかつて地球に存在した国だ。以上』
「あぁだから聞いた事があったんデスネ」
アビーの明るい声と反比例して純一郎を除く一同の雰囲気が重くなった。
「今縄を解こう」
「え?外してもらえるんですか?さっきまでは……」
「君には心して聞いてほしい」
「え?」
「地球は千年前に消失している。故に君を家に帰すことは恐らく出来ない」
その言葉に純一郎は立ち尽くすしか無かった。そんな少年にキジヌは言った。
「とにかく君の身柄はデイビットという人物に預けてみようと思うが、良いかね?彼は刑事だ。君にも良くしてくれるだろう」
その言葉に純一郎は頷いた。一行は中央ギルド領域に向かう事となった。




