追憶と決別
「俺は絶対に強くなってやる!」
それは少年の口癖みたいなものだったが、少年は本気だった。
「お前いつもそれ言ってるな」
「うるせ-!キジヌは黙ってろよ!俺より少しレンキが使えるからって調子に乗りやがって!」
「まあまあ落ち着きなよゴルドー」
憤慨する少年を長髪の少年が宥めた。
「なんだよロングゥ、キジヌの味方するのかよ」
「違うよ皆仲良くしようってことだよ。師匠だってそう言ってたじゃないか」
「へん、なんだい、一番レンキを使えるからってカッコつけやがって」
「そういう訳じゃないけど……」
「とにかく俺は一番強くなってやる。誰よりも!」
そう言うとゴルドー少年は腕を上げて叫んだ。
これからどうするか。
グレートジェントルマン号のブリッジで一同は沈黙していた。
「まずあのレンジュウロウという老人は何者なんですか」
最初に口を開いたのはデイビットだった。マスターグレイが答えた。
「わしの兄弟弟子だ!尚且つキジヌのレンキの師匠でもある!」
「レンジュウロウ=ヨモギダってもしかして戦下十五勇士のレンジュウロウ=ヨモギダかい?」
グランマは驚きながら言った。
戦下十五勇士とは『五十戦争』において、勢力に関わらず人々を救った人物の中で今尚存命である者達の総称である。
「わしもその一人だがな!今わそんな事はどうでもよい!奴らの場所は探れんのか!」
「今キャットに後を探らせています。今までに比べれば情報は出て来るでしょう」
「今回は私の沽券も関わっているからねぇ。いつも以上に全力にゃ」
マスターグレイはデイビットとキャットの言葉を理解しつつも落ち着きが無かった。
自分の弟子が囚われたのである。落ち着かないのは当然のことだった。
「師匠は間もなく全てが整うと言ってました。つまり何らかの計画がもう直ぐ成就するということでしょう。問題はそれが何かですが」
「だからと言ってこのままぼうっとしていろということか!そんな事出来るか!」
「かといって今は待つしかありません」
「もう我慢できん!わしは一人で探しに行くぞ!」
そう言うとマスターグレイはブリッジから飛び出していった。
再び静かになったブリッジで今度はマリガンが口を開いた
「あの爺さんは一体どんな戦い方をするんだい」
「基本はレンキで形成した槍を用いて戦う人だ。最大で何本出せるのかは分からない。ただあの槍は師匠が槍をふるうように動かす事が出来るらしい」
「つまりあの槍一本一本が見えない爺さんが振り回してるってことか?」
「あぁ、その通りだ。私も最大で三本までしか見たことはないがね」
「あの場では六本出ていたね。……場所が分かったとしてあんなのに勝てるのかい」
「恐らくマスターグレイなら勝てるかもしれないが我々ではほぼ不可能に近いだろうね」
一同は黙ってしまった。
相手の居所が判ってないのに、判明したとしても対処が出来るかすら危ういのだ。
「人数が必要だな」
「安心してくれ。全域刑事の他にも他の賞金稼ぎにも依頼を送っている。もうしばらくしたら来るだろう。それまでは体を休めていよう」
デイビットは言った。キジヌは答えた。
「いや、私は少し情報収集をする為に街に出ようと思う。」
「だったら、俺も出るぜ」
スリーの提案にキジヌは返した。
「いや、私一人で行こうと思う。スリーはネットを使って情報を集めていてくれ。グランマとアビーは連
絡が入り次第、動けるようにしててくれたまえ」
そう言うとキジヌはブリッジから出て行ってしまった。
「……一人で大丈夫なのかよ」
「少しそっとしといてあげな。師匠と兄弟弟子が関わっていたんだ。平常心ではいられないだろうさ。あたしらはあたしらで対策を練ろうさ」
情報収集といえば人の多い酒場だった。
キジヌは一軒のクラブに来ていた。音楽が鳴り響く賑やかなクラブで、客も多かった。
カウンターに座りウィスキーの入ったグラスを傾けた。
酒を嗜んでいると一人の男が隣に座った。その男の顔を見ずにキジヌは呟いた。
「なんとなく来ると思っていたよ、ゴルドー」
キジヌの隣に現れたのは白い騎士ことゴルドー=ロウだった。
シャツにジーンズのラフな格好だった。右手には包帯が巻かれていた。
「なぜ俺が来ると分かった?」
「言ったろう?なんとなくだと。彼女はどうした?無事なのか?」
彼女とは捕まったリモンのことだ。
マスターにウィスキーを注文しながら、ゴルドーはこたえた。
「安心しろ、殺してはいない。上質なレンキ使いだからな。丁重におもてなしさせてもらってるさ」
「腹に槍を指しておいて、とんだ冗談だな」
「ふん、何とでも言え」
「……いったい何故あんな事をしている?」
「それに答えるつもりは無い」
「ほかの捕まったレンキ使いは無事なのか?」
「殺してはいないさ、一人もな」
「……何をしに今私に会いに来た?」
目の前に置かれた酒をちびりと飲みながらゴルドーは答えた。
「……昔話をしたくなってな」
「昔話?こんな状況でかい?」
「ああそうだこんな状況だからこそかもな」
ウィスキーを飲み、ゴルドーは続けた。
「……昔はよく喧嘩したもんだったな」
「あぁ、大体は君が起因だった。一番強くなると言いながら、私やロングゥに良く突っかかって来ていたな」
「あぁ懐かしいな。特にお前は俺の方が強いというもんだから余計に喧嘩になっていた」
「あの頃は君も私も子供だった。喧嘩になったのはしょうがなかった」
「それでよく師匠にも怒られたもんだ」
「師匠の拳骨は痛かった。それでも君と私は喧嘩をやめなかった」
「俺は本気だったんだ。」
「私も本気だった。だがもう子供の時の話だ」
「……俺は今でも本気だ」
「何?」
「本気だからこそ師匠の元を離れた時に軍に入った。お前とは違う惑星の軍だったがな。それからもずっとずっと力を求めていた」
「だからレンキ使いをさらっているのか?その力を求めるという事の為に?」
「俺はあれからもずっと変わってない……キジヌ、お前に一つ言っておきたいことがある」
「何かね?」
「……俺はロングゥを殺した」
キジヌは立ち上がり叫んだ。
「何故だ!?彼は兄弟弟子だぞ!何故彼を殺す必要がある!?」
「奴はいち早く計画に気付いていた。それで俺の前に立ちはだかった。だから殺した。だから俺はもう止まらない。今日はそれを言いに来た。」
ゴルドーは立ち上がり、酒を一気に飲み干し、グラスと紙幣をカウンターに置いた。
「次会う時はキジヌお前を殺す。その時は間もなく来る。それまで待っていろ」
「ゴルドー……!」
キジヌが振り向いた時にはゴルドーは姿を消していた。
入った時と変わらず、店の中は音楽と雑踏に塗れていた。




