プロローグ
これは大きな戦争が終結してから五十年後の話である
パイプが張り巡らされた通路を青い肌の女が駆けてゆく。眠る娘を抱えながらにも関わらず、その速度は音速を超えていた。
いくつか丁字路を超えた先、彼女が目指していた場所へと辿り着いた。長距離転移装置の佇む港である。彼女は辺りを見渡して、沢山並んだ貨物船の中に目的物の小型艇を見つけて駆け寄った。
幸い小型艇は起動していた。小型艇の後部ハッチを開き、抱えていた娘を乗せて呟いた。
「いつか必ず迎えに行くからね」
女は眠る娘に軽く口づけすると、ハッチを閉めて小型艇を自動操縦に切り替えて発進させた。
小型艇が長距離転移装置に飲み込まれていくのを、只々眺めていた。
見えなくなるまでまで、ずっと、ずっと。
目覚めたとき最初に目についたのは自身の青い肌の腕と、腕越しに見えた縞模様の猫だった。どうやら寝ている最中にベットからずり落ちたらしい。
「おはようキャミー」
猫はにゃあと一鳴きした後に起用に扉を開けて何処かへ行ってしまった。
ルーチェは身体を起こして辺りを見渡した。床には脱ぎ捨てられた服と読み終えた雑誌が散らばっていた。棚の上にはお気に入りの猫のキャラクターのグッズが並んで鎮座していた。
「凄い音がしてたけど大丈夫かしら……?」
ドアを開けて入ってきたのはシスターマリガンだった。よほど大きな音だったのだろう。眼鏡の奥の黒色の瞳が若干潤んでいた。
「大丈夫。痣とかも出来てないみたい。」
「それなら安心です……ルーチェはよく怪我をするから……」
「あたしだってもう子供じゃないんだからそんなに心配しなくても大丈夫よ」
「そう言ってこの間は膝を擦りむいて帰ってきたじゃないですか。その前は――」
「わかった、わかった。あたしが悪かったです。ところでその手に持った封筒はどうしたの?」
「あぁ、そういえばルーチェ宛てに手紙が来ていたのですが、宛先しか書いてなかったので……」
ルーチェは、このままでは小言地獄にさらされると思い、話題そらしで質問してみたのだが、自分に宛てられていたと聞いて妙な話だなとおもった。差出人の見当が全く付かなかったのである。封筒を受け取り開けてみた。
それは生き別れた母親からの、約十二年越しの手紙だった