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75.メガネ君、本気で乗り出す





「いいか? 『素養』ってのは大きく二種類に分けられるんだ」


 ザントの話は至極わかりやすかった。


「実技系か情報系か、だ。

 実戦にそのまま投入できるリッセの『素養』は実技系、そうじゃない坊主は情報系になる」


 実技と情報……ね。


 ここまでくれば確認する必要もないけど、ザントや教官役たちは、俺の「素養」も最初から知っているんだよな。


 俺の「素養」は「メガネ」。

 正確に言うなら「メガネの物理召喚」。


 自分でもまだ詳しくはわからないが、「メガネ」を通した視覚から情報を得る力がある。ザントの分類で言えば、典型的な情報系と言える。


 実戦にそのまま適用することはできない。

 あくまでも「情報」を得るだけの力で、俺自身が情報を扱うことになる。


 そして逆に、姉やリッセもわかりやすい実戦系。

 特に魔物に対して有効な「素養」を持っているってことになる。


「その分類だと、魔術師なんかはどっちになるの?」


 リッセの質問に、ザントは「実戦系だな」と答える。


「魔術師は情報系も扱えるかもしれないが、実戦系と考えている。情報系は、一切実戦に使えない分類のことだ」


 なるほど。


 俺の「メガネ」はやはり情報系だろう。

 直接実戦の役に立つ方法はあまり思いつかないし。


 これを、応用が効かないと判断するか、実戦系とは違うやり方があると判断するか。

 その辺が一つのポイントかもしれない。


「リッセの場合、使う場面が来れば嫌でもバレちまうからな。

 それに対して情報系は、『使用しても誰にもバレない』ってメリットが非常にデカく、また知られた場合のデメリットも大きい。


 『占い系の素養』とか、準備や道具が必要なものは隠しようもないが、坊主の場合はそれに該当しないしな。


 坊主はその辺がよくわかってる。だから言いたくないんだよ。自分からアドバンテージを捨てるどころか、弱点を晒すことにも繋がるからな」


 そういうことである。

 話さなければ誰にも知られないなら、俺は一生誰にも、自分から明かすことはないと思う。


 だがしかし。


「しゃべりすぎ」


 「占い系の素養」じゃない、なんて言い切って。俺に関する情報を漏らしてもらっては困る。


「ははは、こんくらいいいだろ。付き合う理由はないが、リッセはおまえに『素養』を明かしたんだ。あまり一方的な知り方は相手への心象も悪いぜ」


 心象とかどうでもいいですけど。……いや、嫌われすぎると邪魔とか嫌がらせとかされそうだし、可もなく不可もなくの関係が一番いいかも。


「ま、どんな『素養』にしろ、最初はとにかく『使い慣れること』が肝心だ。それこそ息を吸って吐くように、自然と使えるようにしろ。

 いちいち『使う』だのなんだの意識しないと使えないようじゃ、咄嗟の時にほんのわずかな躊躇いや迷いとなり表面化する。


 敵が強ければ強いほど、己と実力が拮抗しているほど、その『ほんのわずか』の差が勝敗を決めることがある。


 強い奴、デキる奴ってのは極限までいろんな無駄を殺いでるもんだぜ」 


 それはわかる。


 無駄を削っていった先にある強さを、俺は自然や野生動物から学んだ。無駄がないってのは機能の追及で、能力の研磨でもある。そして美しさでもあると思う。ザントも見た目はアレだが、動きだけは非常に美しい。見た目はアレだが。


 ザントの目から見れば、俺なんかもまだまだ無駄が多いんだろうと思う。咄嗟の動きとか判断力とか。


「というわけで、リッセはもうやってるよな? どれくらいできるようになった?」


 え?


「維持だけなら半日は大丈夫」


「そりゃなかなかだな。で、その状態で素振りすれば?」


「……朝から昼まで持たない」


「じゃあまだまだだな。使い方がなってねえんだよ」


 「なんの話だ」と聞けば、リッセは日常で「闇狩りの力」を行使して、それを維持したまま生活する訓練をしていたそうだ。


 全然気づかなかったな。そんなことしてたのか。


「じゃあおまえは向こうで素振りしててくれ。俺はまだ坊主と話すことがある」


「『素養』の話?」


「そうだ」


「教えなさいよ」


 答える気にもならないので無視したら、「なんだよ……」とつまらなそうにぼやきながら向こうへ行ってしまった。

 言われた通り、剣を抜いて素振りし始める。お、さすがに剣筋いいな。


「あんまり嫌うなよ。競争相手がいた方が自分の益にもなるし、他人との摩擦が自分にない発想を生んだりするんだ。リッセは絶対に敵じゃねえからよ」


 …………


「理屈ではわかってるんだけど。今朝色々あって」


 だいぶ受け入れがたい存在になってしまった。近くにいてほしくないというか。


「典型的な経験不足、だろ?」


 まさしくそれだ。

 リッセは魔物を討伐することだけ考えていて、その前も後も全然考えていなかった。街道に血をまき散らしたり、解体のことを失念していたり。


 典型的な経験不足という言葉がよく似合う失態の数々だった。


 もしかしたらザントは、薄々何があったか察しがついているのかもしれない。あるいは、起こりそうなことが思い浮かぶとか。


「あいつはまだ、基盤しか仕込んでねえんだよ」


「基盤?」


「身体能力に運動能力、判断力、基本的な剣の腕。応用を活かすための基礎しかない。これから応用を含めて経験を積んで、やっと一端になるんだよ。


 ――俺から見りゃおまえもそうだぜ」


 ん?


「リッセはそういう風に育てたからな。そうなるのは当然だろ。だが、そうじゃない育て方をされたわりに、坊主もでっけえ基盤してやがる。

 そりゃこの道に誘われもするってもんだぜ」


 ……基盤か。基礎のことだろうけど……


「俺はもう、色々積んでると思うんだけど」


 俺は基礎だけじゃなく、狩人として経験を積んできている。まだまだ経験豊富とも一人前とも言えないが、経験不足ではないと思うけど。


「俺らのやり方は一般から見りゃ積み方が違うからよ。坊主もわかってんだろ? おまえの積み上げたものと俺たちが積み上げたものは、一緒に積める(・・・・・・)んだ。


 だから基盤なんだよ。


 どっちか捨てるとかケチなことしねえで、どっちも身に付けていけ。それができるだけの基盤がおまえにはすでにできているからよ」


 …………


 まあ、暗殺者の諸々が狩人の諸々と似ているとは、よく考えるけど。


「とまあ、精神論めいたもんはここまでにしとくか。おまえが欲しいのは理屈じゃなくて火力だもんな」


 はい、その通りです。ザントの理屈は、俺なら無理なく身に付けられるってだけわかれば十分だし。





「おまえのその『メガネ』、いわゆる視覚の力だろ?」


 あ、すごい。


「よくわかったね」


 俺の力は、話の流れで知っている人には「メガネを生み出す素養」としか伝わっていない。


 それ以上にできることがあるのを、俺しか知らない。

 俺も誰にも話していないし、話す気もないし。


 しかしザントは、それを言い当てて見せた。――ここで変にごまかしても俺が得るものが減るだけなので、素直に受け入れて話を進めたいと思う。


「視覚から情報を獲得する。これは他に同じような『素養』があるんだよ。


 『邪眼』、『魔眼』、『真眼』、『竜気眼』、『護国眼』に……ああ、一番有名な『鑑定眼』なんてのもあるな」


 邪眼なんかはおとぎ話で聞いた気がするけど、ほかは知らないなぁ。あ、「鑑定眼」はわかる。よく商売人が持ってるやつだ。……いや、「鑑定眼」があるから商人になる人が多いのかな。


「結構あるんだね」


 俺の「メガネ」は特別だと思っていたけど、「視覚から情報を得る素養」ってたくさんあるようだ。


 意外というより、俺が物を知らなすぎるんだろう。

 自分の「メガネ」のことも含めて。


「坊主の『メガネ(それ)』も、それらに近いことができるんじゃねえの?」


 うーん。どうだろう。


「さっきも言った通り、まず『使い慣れる』んだ。日常的に使え。ごく自然に使いこなせ。そうやってる内にわかってくることもあるだろうからな」


 うん。それは意識してやってみよう。


「で、これから俺が知る限りの『視覚による情報収集の素養』を教えるから、どれができるか一つ一つ試してみろ。


 情報系の『素養』は、とにかく『何ができて何ができないのか』を知ることから始まる。

 可能性を追求するんだ。徹底的にな。


 それがおまえの力に、おまえの欲しがっている火力にも関わってくるからよ」


 ……よし。


「やろう」


 色々とやることがあって後回しにしてきたが。

 そろそろ本気で、「メガネの本当の力」を探ってみよう。






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― 新着の感想 ―
[良い点] こういう何が出来て何ができないか分からないから虱潰しに実践、考察してくの好きだわ
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