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05.メガネ君、ナスティアラ城から姉を探しに





 数日は待てと言われた以上、数日は王都から動けないわけだ。王命だし。果たしてどの程度のジジイの命令なのか知らないが。どれだけの苦労しか知らないジジイの命令か知らないが。


 なんにせよ、どうせ動けないし、この間にやるべきことはやっておこう。


 まず、姉・ホルンを探すか。


 「メガネ」のことを調べるのは後でいいだろう。

 集約された技術はすごいけど、シンプルな構造なのは見ればわかるし、調べたところで大した情報が得られるとも思えない。

 きっと専門的な分野になっていくと思うから、調べるとなれば時間だけはやたら掛かりそうだし。


 姉は、王都で冒険者になったと手紙にはあった。


 俺の村にもたまーに冒険者が来ることがあったので、冒険者がどんな職なのかはなんとなく知っている。


 村の人たちの話を統合すると、確か、魔物を狩ったり薬草を摘んだり実力がありそうな新米冒険者に絡んで上下関係を叩き込んだりする、態度と身体は大きいくせに心は狭い犯罪者予備軍みたいな連中、らしい。


 これと言って決まった仕事はなく、その都度その都度で、日雇いで仕事を請け負い小銭程度の生活費を命懸けで稼いでいるんだよな。あと拾い食いをしたり、よく酒で失敗するらしい。賭け事で破産もするし、借金で首が回らなくなると危ない仕事もするとか。


 まさに我が姉にぴったりの職業と言えるだろう。

 ホルンは、小さい頃から、普通だの安定だのと言った常識の範囲に収まる器じゃなかったからな。


 基本的に拾い食いもよくしてた。

 肉を食べたあとは骨までかじってた。

 骨を地面に埋めて「肉の木がなるかもよっ」と言い出した時は正気を疑った。

 そのあと、骨を掘り起こした犬と姉が骨の奪い合いをしていたのを、他人のフリして見なかったことにしたのはいい思い出だ。


「すいませーん」


 方針は決まった。

 警戒心露わに厳めしい顔で俺を見ている門番に、冒険者の巣窟がどこにいるのか聞いてみよう。


「……」


「すんませーん」


「…………」


「すいませーん聞きたいことがあるんですけどー」


「…………」


「すい」


「しつこい! 職務中だ、声を掛けるな!」


 うわこわっ。怒ったよ。


「てっきり仕事中だから声を掛けられても無視してたのかと」


 微動だにしないし。つい一歩一歩声を掛けるたび近づいちゃったよ。もう手が届く距離だよ。


「本当にその通りだよ! あえて無視してたんだ! あえて! わかっているなら察しなさい!」


「あ、そうですか。それで冒険者ってどこにいるんすかね?」


「職務中に話しかけるな!」


「あっち? こっち?」


「……正面の大通りを行った、城門の近くにある冒険者ギルドへ行け」


 舌打ちしながらも、門番は俺の質問に答えてくれた。よかった。都会の人は冷たい印象があったけど、そうでもないみたいだ。


「どーもー」


 礼を言うが、さすがにもう何も言わなかった。きっと照れ屋さんなんだろう。


 よし。必要な情報は得た。

 冒険者ギルドか。これも聞いたことあるな。行ってみよう。





 教えられた通りに大通りを行くと、剣だの斧だの鎧だのと、やたら武装した姿が目立つ連中が出入りしている店を見つけた。


 すぐにわかった。

 ここが冒険者ギルドだ。

 看板にもそう書いてある。これ見よがしに。


 でも、人が多いな……あんまり行きたくないな。

 それにあれだろ? 心の狭い中堅辺りでくすぶっているハゲの冒険者が絡んでくるんだろ? 嫌だなぁ。


 ……しかし行かないわけにもいかないしな。二年会っていないホルンのことも、気にならないわけじゃない。


 仕方ない。こそっと紛れ込むか。


 俺はその辺で少し待ち、見るからに冒険者って感じの、がちゃがちゃ鎧を鳴らしてギルドに入店しようとする大男のすぐ後ろに着き、気配を絶って一緒に侵入した。


 そのまま何食わぬ顔で中を行き、何人か座れるテーブルではなく、一人客用のカウンター席にするりと着席した。


 見られなかった。

 誰一人として、視線を感じなかった。どうやら侵入には成功したようだ。


 ――いや。違う。


 一人、見ているな。背後から視線を向けられている。


 ……うーん……強いな。視線の人。単純に俺より強そうだ。

 もし野生動物なら、俺にとっては獲物ではなく、俺を狩る側の魔物だな。武装集団がひしめく中に、俺だけを見ている目。俺の個人的な感情は抜きにしても、あんまりよろしいことではなさそうだな。

 

「……あれ? いらっしゃい……?」


 いつからそこに、みたいな不思議そうな顔で、エプロン姿の女性が俺を見た。これがウエイトレスさんか。俺の村にはいなかったな。


 店と厨房を行き来し料理や飲み物を運んでいたウエイトレスは、カウンターの奥にある瓶を取りに来たところで、ようやく俺に気づいた。カウンター越しに目が合っている。


 この人からすると、俺はいつの間にかそこにいたって感じだろう。

 さっきすぐ横をすれ違ったんだけどね。全然気づかなかったみたいだ。


 特に注文はないのだが……そういえば朝飯を食べてない。せっかくだし、ここで食べとこうかな。


「パン的なものとスープ的なものをください」


 ここには何があるのかわからないので、適当に注文した。


「パン、的な……?」


 出入りする冒険者は、そこまでお金があるとも思えない人もいるので、そんなに高いメニューはないはずだ。任せて大丈夫だろう。でもぼったくりには気を付けねば。高いと思ったら逃げよう。


「ああ、えっと、朝食のセットでいい? パンとスープと果物が付くけど」


「あ、じゃあそれで」


 さて。

 とりあえず注文もしたので、姉を探すか……言いたいところだが、今この場にはいないみたいだ。


 前を向いたまま、気配を探る。


 ギルド内には、今二十人の冒険者がいる。テーブル席が六つ、五つが利用されていて、出入りは激しい。

 壁に張ってある紙を眺めては、仲間と相談したりギルドを出て行ったりしているので、あの紙が日雇いの仕事の依頼書みたいなアレなんだろう。


 やはり姉の気配はない。


 あと、相変わらず一人だけ、俺を見ている者がいる。どういうつもりかはわからないが、俺より強そうだから、あんまり関わりたくないな。


 ちょっとこっちに来ている感じだが。


「――少年」


 なんか女性が声を掛けてきた気がするが。まあでも俺のことを呼んでいるとは限らない。


「――なあ、少年」


 なんか隣のカウンター席に座って、じっとこっちを見ているが。


 いやいや、まだまだわからないぞ。


 俺に声を掛けているとは限らない。向こう側にいる誰かに話しかけている可能性もある。……向こうに「少年」が当てはまる者は誰もいないけど。


「――お待たせ」


 我関せずを貫いていると、ウエイトレスが料理を運んできた。お、うまそう。パンは村で食ってたのとあまり変わらないが、スープのこの香りは初めて嗅ぐ。知らない香辛料が入っているのかな? それと肉が入ってるぞ。朝から豪勢だな。いただきまーす。


「――あらロロベル。どうしたの?」


 早速スプーンを取り上げる俺は我関せずを貫くが、ウエイトレスが俺の隣の女性に声を掛けた。


 さりげなく耳だけ傾けておく。


 どういうつもりで俺を見ていて、どういうつもりで声を掛けてきたのか。その理由を知りたい。それに、やっぱり俺に用があるわけじゃないかもしれないし。……さすがにそれはもう無理か。隣に座っちゃってるもんな。


「あ、わかった。ナンパでしょ? でもナンパするには年下すぎない? 確かに可愛い子ではあるけど」


「いや違うから。ちょっと気になることがな」


 気にしないでほしいんだが。


「この子、知ってるか?」


「いや。初めて見る顔ね。ねえ、はじめてよね?」


 ウエイトレスが俺を見ている。

 だが俺に話しかけられているとは限らないので、何も言わず見向きもせずスープをむさぼる。うーん……都会のスープはうまい。何が入ってるんだろう。やっぱり未知の香辛料かな?


「……声を掛けてもこの調子でな」


「あんまり人と関わりたくないんでしょ。干渉を望まない冒険者なんて珍しくもないじゃない」


 そうだそうだ。干渉を望まない冒険者は珍しくないんだぞ。俺は冒険者じゃないけど。


「あー……一応聞いてはいると思うから、用向きだけ言っておきたいんだが」


 俺が聞く気がないことは察したようだが、隣の女性は、俺に話しかけた理由を教えてくれるみたいだ。


「少年の、その、メガネがな。どこで手に入れたかと思ってな」


 めがね?


 ……メガネか。


 そうか、「メガネ」に用があるのか。


 しばし隣の女性とウエイトレスの視線を受けつつ、少し考え、俺は横を向いた。


「『メガネ』が何か?」


 面倒ごとは嫌だけど、「メガネ」に用事があると言われれば、少しだけ聞く気になってしまった。


 どっちにしろ、姉の情報を誰かから聞く必要もあるのだ。

 この隣の女性――確かロロベルと言ったかな? この人に色々聞いてみよう。






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