最終話.二年越しの返答
「――あ、やっぱり」
あ。
「絶対またこっそり消えると思った」
第一王子帰還と国王回復の報に王都中がバタバタしているだけに、出入り口をすり抜けるのは簡単だった。
まだ朝も暗い内なので、尚更である。
しかし。
問題なく城門を出たところで、問題に直面した。
そこで待ち受けていた赤毛の女たちに捕まってしまった。
ついさっきまで飲んでいて、別れたばかりなのに。
全員かなり酔っていたように見えたのに、今見るとそうでもなさそうだ。
「今回はさすがに仕方ないと思ってよ。俺はここにいないことになってるから」
非難げなリッセたちに、俺は言い訳だが本心を言う。
何せまだ女装中だ。気は抜いていない。
俺にとっては、この国を離れるまで、この仕事は終わりではないのだ。
やるべきことはやった。
そしてやり遂げた。
だからもう、この国にいる理由はないのだ。
二年ぶりなので皆の顔は見ておきたかったが、ハイドラがすでにバルバラントを離れていると俺も思うので、この際皆に会うのは諦めた。
何より、今回の一件で思い知った。
俺たち同期は、たぶん、誰かに呼ばれたら基本集まる連中なんだろうな、と。
だったらこの先もいつか会うことがあるだろう。
そう思ったから。
「それにしたって黙って行くか?」
こちらも、かなり飲んでいたと思うが……サッシュも地面にしっかり立っている。
「国が落ち着いてからじゃ脱出が面倒だし、君たちはまだエオラゼルに付き合うつもりかもしれないし。俺の予定で左右したくないよ」
「うえぇい! えい! ……おらぁ! どこいくだぁ! おれをほうってどこいくだぁ! めがねおらぁ! おまえびじんだにゃぁ!」
ハリアタンはちゃんと酔っているようで、逆に安心だ。……安心か? やばいくらいにべろべろだけど。
「まあ、積もる話は移動しながら聞こうか」
「え?」
「二年前、獣人の国で消えたあの日、私がエイルに言おうと思っていた言葉を、二年越しに言うよ」
リッセは、目を逸らしたいほどまっすぐに、俺を見る。
その目を見た瞬間、「まずい」とは思ったが……
「――私たちと来てよ。もう少し一緒に色々やろうよ」
どうしてか、目が逸らせなかった。
二年越しの言葉、か。
「……わかった。少しの間だけ付き合うよ」
二年前のあの日、ここまでまっすぐに誘われていたら――たぶん一緒に行っていただろう。
だから俺も、二年越しの返答をした。
あの時の気持ちと、同じ返答を。
「あ、でも一度ナスティアラに帰らないと。色々放ってきてるから」
「付き合うよ」
「でも時間が掛かるかもしれないし」
「付き合うって」
「悪いよ」
「逃げんにゃてめーおらぁ! ぜってぇ逃げんらろおらぁ!」
…………べろべろの奴にまで見抜かれるとは。
「わかったよ。じゃあ全員で行こうか」
やっぱり逃げられないようだ。
――まあ、いいか。
面倒も多そうだけど、それ以上に、きっと楽しいだろうから。
だから、もう少しだけ。
もう少しだけ、この騒々しい連中に、振り回されてみようかな。
完