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442.メガネ君、お似合いだなぁと思う





 うん、いきなり名前を呼ばれるという気になる点もあるが、それよりもっと気になる点がある。


「なんで死んだと思ってたの?」


 まさか顔を合わせた途端「生きとったんかワレ」なんて言われるとは思わなかった。俺死んだと思われてたのか? なぜ? 理由は?


「うちがナスティアラに行ったからじゃ! われぁ帰る言うて消えたくせに帰っとらんかったじゃろ! 心配したわ!」


 あ、そう。……そう。一応根拠はあったのか。


「ごめん。半年以上掛けてゆっくり帰ったから」


 夢を確認するため、獣人の国から大帝国を回って、それからナスティアラ王国へ帰還したのだ。

 なんだかんだで旅は半年くらい掛かった。

 フロランタンが来たのは、その間のことだったのだろう。


「でも一年は王都に……取り込み中だった?」


 懐かしさもあり、俺もこのまま雑談してしまいそうな勢いだったが、一旦ストップをかける。


 まだ俺を案内してきた男も傍にいるし、そもそもフロランタンは何やら書類仕事をしていたようでデスクに座ってペンを持っていた。


 だが、言った途端持っていたペンをペン立てに納めた。


「構わん構わん! うちにとってはそっち(・・・)が優先じゃけぇ! おう、早う茶ぁ

持ってこんかい! 茶菓子もじゃ!」


「はっ! 失礼します!」


 …………


 いや、まあ。

 二年前からすでにあった気はするけど。


 二年ぶりに会ったフロランタンは、貫禄のボスっぷりを見せつけるのだった。





 というかだ。


「本当にボスになってるの?」


 カジノの奥にあるこの部屋は、きっとオーナー室というやつだろう。経営者が詰める場所に違いない。


 広いし、家具も豪華だし、透き通ったガラス戸のついた棚には高そうな酒瓶が並んでいるし。

 田舎者の俺でも、どれもこれもが高級品であることがすぐにわかる。


 こういう時のためにあるのだろう、接客用のローテーブルを挟んで革張りのソファーに座り、改めてフロランタンと対峙する。


 二年を経たフロランタンは……………何も変わってない気がするなぁ。


 いや、見た目じゃないか。

 二年前もあったけど、なんというか、妙な凄味みたいなものが増している気がする。


 元々器が大きい奴だとは思っていたが、それに見合う己の中の何かが成長した結果なのかもしれない。


「いんや、代行じゃ。どうしてもと頼まれて一時的にやっとるだけじゃけぇ」


「あ、そうなんだ。本物(・・)ではないんだね」


 ちょっと安心した。


 さすがに、かつての友人が二年後は裏社会のボスになっていました、なんて言われたら、距離を置きたくなる。というか置かざるを得ない。


「うちはボスの器じゃないけぇのう。そういうんはなろう思うてなるもんじゃのうて、気が付けばなっとるもんじゃ。周りが下って支えて押し上げての」


 ふうん。そんなもんなんだ。


「――失礼します」


 さっきの男が紅茶とパウンドケーキを持ってきた。


「ボス、ダフネ婆さんが店の屋根の雨漏りをどうにかしてほしいと」


 そしてテーブルに置きながら、指示を仰ぐ。


「若いもんに様子を見に行かせぇ。ひどいようなら大工呼んだれ。払いはうちじゃ」


「わかりました」


 男が出ていった。


「すまんな、やることが多くてのう。それで――」


 言いかけたところで、またドアが開いて違う男が顔を出した。


「――失礼します。ボス、この指輪を担保にチップを回してくれって客が来てます。宝石は本物のようですが、詳しい値段まではわかりません。いくら分回しましょう?」


「――アホ抜かせ。うちに来たなら確実に盗品じゃけぇ、ぶん取って追い返したらんかい」


「――わかりました。失礼します」


 …………


「忙しそうだね」


「本当にすまんな。うちはここに来て日が浅いけぇ、やることも多いんじゃ。でも最優先はこっち(・・・)――」


 またまた言いかけたところでドアが開き、ぼたぼた鼻血を流している男が顔を出した。


「――ボス! ケンカです!」


「――さっきからやかましいんじゃボケぇ! ケンカくらいわれどもで片づけんかい!」


「――でも今人が出払ってて……相手は六人もいて……俺たちだけじゃ……!」


「――まったく……すまん、ちょっと行ってくる! それ食って待っとってくれ!」


 はい、いってらっしゃい。

 ケーキを食べながら、大人しくボスを待つことにしよう。





「――待たせたな。人払いも頼んだけぇしばらくは大丈夫じゃ」


 ちょうどケーキを食べ終わった頃、怪我一つ負っていないフロランタンが戻ってきた。


「俺もボスって呼んだ方がいい?」


「やめぇや。好きでやっとるんちゃうわ」


 いやあ、すごいイキイキしてるけどね。向いてると思うよ。本当に。似合ってもいるし。


「で……本当に悪いんじゃが、ゆっくり話したいけんどこの有様でのう。カジノを閉めた深夜なら、まとまった時間が取れるはずじゃけぇ。そん時でええか?」


 どうやらシュレンと同じく、今はフロランタンも話ができる状態ではなさそうだ。

 シュレンは今何をしているかわからないけど、フロランタンは完全に仕事中みたいだしな。俺は完全に邪魔だろう。


「仕方ないよ。仕事は大事だから。夜また話そう」


 俺もナスティアラで、仕事を片付けてから来たからな。仕事を優先したい気持ちはわかる。


「ただ、これだけは今答えてほしい。――ハイドラの安否と現在の状況、どうなってる?」


 まず確認するべきことは、これだろう。

 彼女の状況如何で、俺たちがやるべきことは大きく変わってくる。 


「ハイドラは無事じゃ。定期的に安否確認はしとるけぇ間違いない。居場所はバルバラント王都の廃坑の一つ。犯罪者に金を掘らせとるらしいわ」


「金? 出るの?」


 確かバルバラントの建国は、金鉱脈からって話だった。もう出ないって話じゃなかったかな。


「微々たるもんじゃけど出るらしいわ。工夫の人件費を払ったらマイナスになる程度じゃけぇ、無償奉仕で使える犯罪者にやらせれば得なんじゃろう。罰も与えられるしの」


 そうか。なるほどね。


「わかった。じゃあ続きは夜に」


「おう。――ああそうじゃエイル。われ今どこで寝泊まりしとる? うちが世話したるけぇ引き払ってけぇや」


 …………


 こりゃシュレンがまず会いに行けと言うわけだ。恐らく彼も今はフロランタンの世話になっているのだろう。


 物資や寝床の調達をしてくれる者。

 欠かせない大切な存在である。


「ボス頼もしい」


「はっはっはっ。だからそれやめぇや」





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― 新着の感想 ―
「気が付けばなっとるもんじゃ」 さすがボスわかってらっしゃる!
[一言] 代行だと思っとるんはワレだけやぞw
[気になる点] ハイドラ救出なぁ… 正直今まで仲良しエピソード処か厄介な一面しか描写されてないから助ける義理てあるの?て感じなんだよなぁ 同期だけでは犯罪者を助ける動機には弱すぎるしね
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