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425.メガネ君、祭りのあとで





 不思議な生き物である。


 速度だけで考えたら、リッセと「黒鱗」が必ず勝つと思っていたが、結果は三頭同着だったらしい。


 しかも、最後に大きく出遅れたオーシンも、前を走る三頭に追いつこうとしていたそうだ。

 残った距離がもう少しだけ長かったら、結果は大きく違っていた……いや、はっきりしていたかもしれない。


 四足紅竜(ラウジオ)

 騎乗者と意志が繋がり、そして恐らくは騎乗者の想いの強さで身体能力を上げる生き物。


 ドラゴンだからなのか魔物だからなのか、それとも四足紅竜(ラウジオ)とはそういう生き物だからなのか。

 なかなか興味深い存在である。


 …………


 なんで押すんだよ「丸かじり」。


 え?

 これで終わりは寂しいから構え?


 やめろよ……俺には(ネロ)という伴侶がいるんだよ、君とは付き合えないよ……君とは、その、一時的なアレというか、雰囲気で一緒になっただけだよ……


 ゴール地点を少し過ぎた先。

 レースを駆け抜けてきた戦士たちが溜まっている場所で、俺も四足紅竜(ラウジオ)から降りた。


 グイグイ身を寄せて押してくる「丸かじり」を押し返しつつ、ジジュラの一声にざわつく周囲の成り行きを見守っていると――ん?


「――エイル! エイ……おっ!?」


 突如飛び掛かってきたリッセを反射的に避ける。


 そしてリッセは、顎を開いて待ち構えていた「丸かじり」の口の中に頭を突っ込んだ。カポッと。


 こいつ本当に丸かじりが好きだなぁ。


「――エイル! エイル!」


「――うわやめっ……!」


 くっ、速い! 逃げ切れなかった!


 何事もなかったかのように「丸かじり」からガボッと頭を抜いたリッセは、なんかだらぁっとした唾液的なものを飛び散らしながら、あらためて俺に抱き着いてきた。うおぉ……近接戦闘の得手不得手の差か、反応できたのに逃げられなかった……


「無事!? 無事だよね!?」


 見ての通りだし触っての通りだから触るなよ……


 一旦離れてガシガシ身体を掴まれて確認し、リッセは再び逃げられない速度でだらぁっとしたのが付いたまま抱き着いてくる。……一回されてるからもう俺は諦めたよ。顔とか髪にびちゃっとしたのがついてるからもういいよ。好きにしろよ。


「そこまで危ないことはしないよ」


 だいたい戦士と接触して怪我とか死亡なんてことになったら、どんな理由があれ、客として呼んだ長老、ひいては竜人族全体の責任が問われかねない。

 

 まあ、そもそも怪我を覚悟してまでリッセを勝たせたいとも思わないし。


 あくまでもできる範囲でできることをやっただけだ。

 それ以下はあってもそれ以上はない。


 ……まあ、傍目には結構な事故に見えたかもしれないが。


 四足紅竜(ラウジオ)に蹴られたり踏まれたりしたのは事実だし、対策してなければ死んでもおかしくなかったと思うし。


 そう考えたらリッセのこの心配ぶりも、わからなくもない。


「私のために……!」


 あーはいはいうんわかったわかった。ネロに誤解されるからいいかげん離れてくれないかな。この光景をくわっと目を見開いてじっと見ている女性戦士たちにはもう完全に誤解されてるっぽいけど、俺は知らないから。そっちで処理してください。





 出場者と、準備に出ていた者たちが全員帰ってくるのを待ち。


「――勝者は、外から来た客人リッセである!」


 長老からの発表で、正式にそういうことに決定した。

 ジジュラの一声で結構揉めていたが、これで公表された形となる。


 個々人には不満も文句もあるだろうが、それでも決定だ。


 まさかの初レースで余所者リッセが勝利するという完全なる番狂わせに、竜人族の里にはどよめきと戸惑いと不満と文句と、とにかく微妙な空気が蔓延したが。


「――あっはっはっ! なあ、風になったなぁ一緒に!」


「――ああそうだな。……酔うと面倒臭いなこいつ」


「――親父さえ邪魔しなければ……おまえらもう一度勝負しろ。同年代に負けてたまるか」


 トップ争いをした三人。


 公表されてざわざわしている中、関係ないとばかりにさっさと酒と料理にありついていたリッセ、サキュリリン、アヴァントトの様子から。


「――勝負事は何が起こるかわからねぇから楽しいんだろうが。いいじゃねえか、若い層が育ってるんだぜ。俺もしてやられたしな」


 そしてジジュラの「小せえことは気にすんな」とばかりに、料理や酒に手を伸ばす態度から、徐々に準備していた祭りの雰囲気へと移り変わっていった。


 まあ、微妙な空気なのは、戦士じゃない人たちだけである。

 実際走った戦士たちは、もっとはっきりしている。


 特に隔たりがあるわけではないが、里の民は里の民で、戦士は戦士で固まって飲食を楽しんでいた。


 今は同志であり競争相手への慰労の感が強いのだろう。

 たぶんもう少したら、混ざっていくはずだ。


「――納得いかん! もう一度勝負しろ!」


 好戦的な性分からか、負けず嫌いな者が多いらしく、この場で再戦を望む声がそこかしこで上がっている。


 勝利したリッセは大人気だ。

 半分くらいは彼女への再戦を望んでいるのではなかろうか。


「だから言ったのに。みんなぶっちぎりますよ~、私と黒鱗号には勝てませんよ~って。なのにムキになって挑んでくるからさぁ~。で? あんたら風になれたの?」


 酒の後押しもあって煽る煽る。……味方でも腹が立つな。


 リッセは、酒が入るといつも以上に面倒臭くなるタイプのようだ。

 まあ、俺よりはマシだけど。俺が飲むと大変なことになるから。


「――なあ、俺の『ゴーグル』も仮面みたいにしてくれよ。一番目立つ色でよ」


 俺も戦士たちの溜まり場でなんかずっとジジュラに絡まれているが……


「――あ、すいませんちょっとトイレ」


 まあ、そろそろ逃げてもいいだろう。






 なんだかんだあったが、これでレース周辺の話は終わりである。

 あと一ヵ月もすれば、春が来る。


 始めに想定していた調査期間は終わりに差し掛かっているが、どうなるのかな。


 …………


 もう一回くらい「丸かじり」に乗れるかな?





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― 新着の感想 ―
[一言] リッセが大衆の面前でさも既成事実のように大声でツバつけアピールは良いな 丸かじり、現地に置いといて時々召喚に応じる契約ならいけそう
[一言] リッセとエイルみたいな関係性すき
[一言] リッセからは逃げられない!
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