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411.メガネ君、毒対策を考える





 一本目の矢は当たった。

 次の矢は躱され、避けた先を先読みして放った三本目は当たり。


 決着はすでについている。

 だが、四足紅竜(ラウジオ)は構わず突っ込んでくるし、俺もそれを予想して射ることを止めない。


 勝負は決しているが、それはそれ。


 ここから先は実力勝負。

 それも、あっという間に終わる力比べだ。


 ――やはり、弓と「一秒消失(ロスト・ワン)」の相性は非常に良い。


 「素養・一秒消失(ロスト・ワン)」の持ち主である大帝国のカルシュオク・シェーラーは、「行動を一秒飛ばす」という力で、近接戦闘で比類なき猛威を振るった。


 あれはあれで恐ろしい使い方である。

 少なくとも俺は、「霧化(ミスト)」で実体を霧にする以外で、あれに対抗する方法が見つからなかった。


 だが――俺の「一秒消失(ロスト・ワン)」に対する最適解は、近接ではなく飛び道具にあると思う。


 「俺のメガネ」による劣化版では、「一秒」も飛ばすことはできないが、それでも非常に強い。


 何より、利点に対するリスクがあまりにも低いことだ。

 もう「とりあえず使っておけばいい」というレベルで、使い勝手が良すぎる。

 

 俺の個人技量がモロに出る早撃ちで使用すれば、「抜き手」が「構え」まで飛ぶ。

 撃つ直前なら「矢が飛び、次の矢を掴む」まで飛ぶ。


 つまり、弓を引き、構え、放つ動作の「一つが削れる」ことになる。

 

 そして副産物として、放たれた矢の「速度と距離の時間」も飛ぶ。


 四足紅竜(ラウジオ)は、初手の矢の目算を誤った――のではなく。

 むしろ正確に捉えていたからこそ、「一秒消失(ロスト・ワン)」で「短縮した時間」に反応できなかったのだ。


 避けるつもりだったが、いつの間にか当たっていた。

 それが真相だろう。


 感覚的には一秒ほどの間を置き、「一秒消失(ロスト・ワン)」を繰り返し使用することができる。

 もしくは俺の魔力の限界まで。


 近接戦闘で「行動どころか自分の意識まで一秒飛ぶ」のはかなり怖いものがあるが、だからこそ遠距離攻撃のリスクの少なさが際立つのだ。


 繰り返し「一秒消失(ロスト・ワン)」を使いながら放たれる矢は、三分の一くらいは当たっただろうか。


 目の前まで迫った四足紅竜(ラウジオ)は……最後の一本を構える俺の目の前で止まった。


 ――やはり賢いな。普通の魔物とはまったく違う。


「俺の勝ちでいい?」


 弓を下げながら問うと、……目の前で俺を見降ろしていた四足紅竜(ラウジオ)は、四肢を折って身を伏せた。


 じっと俺を見詰める瞳が語る――「おまえ面白いな! でも油断したら丸かじりな!」とでも言っているかのようだ。


 ちょっと悔しくはあるが約束は守る、と。

 誇り高いな。


 ――ああ怖かった。


 こんな馬よりでかいのが、真正面から猛スピードで迫ってくるのだ。怖くないはずがないだろ。





 これで準備は整った。

 「戦士の儀式」を済ませた俺とリッセは、無事レース出場権を得た。まあ俺はリッセの介護的な立場でしかないが。


 そして副産物、というわけでもないが、これで「四足紅竜(ラウジオ)に乗る方法」は完全に判明したことになる。


「――要するに、ドラゴンを手に入れるのは難しいってことがはっきりしたね」


 もはや恒例となっている、夜の集まりにて。


 サジータのテントに集まった俺とリオダインは、今後の話をする。リッセ? あいつは長々と遠乗りして、ついさっき帰ってきところだ。今頃は風呂に入っているはずだ。


 まあ、調査対象の一つが完了したので、居ても居なくても問題ない。


「そうですね……まず勝たないといけないってところが、万人向きじゃないですね」


 サジータの意見には、概ね同意である。


 王族や貴族なんかでは……金品や権力では絶対に手に入らないものだと考えると、それだけで求める先は半分くらい減るのではなかろうか。


 竜人族の戦士は、強いはずだ。


 全員が四足紅竜(ラウジオ)に認めさせた猛者たちである。

 それはそんじょそこらの腕自慢なんかじゃ、絶対に不可能なことだと思う。


「僕はなんで乗れるんだろう」


 そういえば、リオダインは「戦士の儀式」をしなくても最初から乗れていた。子供にも大人にも。


「あの儀式の形式から察するに、君と四足紅竜(ラウジオ)はとても相性がいいんじゃないかな」


 サジータの意見はどこまで本気なんだかわからないが、俺も結構同感である。


「もしくは、儀式なんてするまでもなく、リオダインには力があることがわかるんじゃない?」


 肉弾戦はともかく、破壊力とか大規模攻撃とか、そういう意味でなら俺たちの中の誰よりもリオダインは群を抜いている。

 俺たちの中では、彼が魔術師として優秀なことは周知の事実だ。


 少なくとも、魔力色で乗れる乗れないが判断されているのであれば、魔力に関する相性……魔力の大小の差とか、好みの魔力だったりとか、そういうのは関係ありそうな気がする。


「そう言われても、あまり実感ないんだけど……」


 だろうね。

 その辺はむしろ儀式をやった方が実感が湧きそうだ。理由のわからない他者の好意って警戒しちゃうしね。俺はする。


「で、君らはレースに出るのかい?」


「僕は出ません。いいですよね?」


 リオダインは、レース云々の解釈を正しく理解していたようだ。


 そう、レースはあくまでも四足紅竜(ラウジオ)周辺の調査をするための口実だった。出る必要はない。


「もちろん。僕らの目的はそっちじゃないからね。――でもエイルは出るんだよね?」


 言うまでもない、か。


「もしもの時は言ってね。リッセにはしばらく寝ててもらうから」


 しかも出る理由も察せられていたようだ。


 まあ、俺が儀式に名乗り出たタイミングがタイミングだったしね。わかりやすかったかな。

 リッセの付き添いあるいは監視として出るんだろう、と。


 その直前に「レースには出ない」とも言っていたし。


「あ、そういう意味なら、僕も出た方がいいのかな」


「いや、リオダインは出なくていいよ」


 彼が近接戦闘が得意なら、もしもの時のために同行してもらってもよかったかもしれないが。

 でもそうじゃないので、リッセを押さえるだけなら、俺一人で充分だ――人が少ない方が俺もやりやすいし。


「それよりすごいね。子供も乗りやすかったけど、大人の四足紅竜(ラウジオ)の安定感は一味違うね」


「だよね。僕、陸竜には乗ったことがあるんだけど、それとも全然違うよ」


 ――そんな「初めての四足紅竜(ラウジオ)体験」を語り合っていると、


「ごめん、お待たせ」


 速度に魅せられた女リッセがやってきた。


「ど、どうも……」


 カロフェロンを連れて。





 初めて集まりに参加したカロフェロンの存在に疑問の目を向ける――までもなく、疑問はすぐに解明した。


「想像以上に毒が危険だったよ」


 四足紅竜(ラウジオ)とともに風になったリッセは、あれから狂ったように森中を走り回り続けたという。


 その結果、リッセは毒沼の脅威を肌で感じてきたという。

 というか、それが俺が呼ばれた理由なんだけどね。


 遠い昔から存在する四足紅竜(ラウジオ)だけに、森には彼らが走れる道というものができているらしい。

 いわゆる舗装された獣道である。


 元はただの獣道だったが、そこを何年も何年も掛けて何度も何度も踏みしめてきたおかげで、固い地面となり、走りやすくなっているという。


 俺もリオダインも、まだ竜人族の目が届く里のはずれくらいまでしか行ったことがないので、外の情報は貴重である。


「竜人族は、毒が目に来るって話だよね? でもそれは竜人族だけの話だから」


 ――あ、そうか。


「俺たちは呼吸もまずいのか」


 竜人族は、いろんな耐性が強い人たちだ。

 俺たちのようなただの人では、耐えられないようなことも平気である。


 逆に言うと、目以外は彼らは毒に耐えられるが、俺たちは目以外も毒に弱いということだ。


 つい先日、俺は致死量以下で薄く薄く薄めた毒液を少量身体に入れただけで、本当に死ぬかと思うほど体調を崩した。

 森で活動している時、いきなりあの状態に陥ると考えると……


「私はまだ自浄効果が高いからいいけど、それでもきつかったよ」


 リッセの「闇狩り」は聖属性だ。

 毒や呪いのような不浄の力には耐性がある――が、それでもきつかったと。


 じゃあ俺はダメだな。

 森を走るには、何らかの対策が必要だ。いや、リッセもきついのであれば必要か。


 ……あ、だからカロフェロンか。


 彼女に任せっきりの毒の研究はしっかり進んでいて、解毒薬ができているから。

 俺は飲んだことがあるし。


「よ、ようするに、毒を吸い込まなければ、いいんだよね。もしくは、毒を吸い込む前に、毒を中和すれば……」


 ――毒対策の話し合いは、深夜にも及ぶのだった。






感想で読まれまくった「一秒消失(ロスト・ワン)」登場です!

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