407.メガネ君、リッセのブッチギリにニッコリ
「――魔力色だと思う」
騎乗訓練二日目の夜、また四人でサジータのテントに集まり対策会議が開かれた矢先のことだった。
昼からずっと魔術師として考えてもらったリオダインが辿り着いた答えは、ちょっと聞き慣れないものだった。
魔力色。
魔力の、色?
「属性を決定づける要素だね?」
「はい」
俺とリッセはピンと来ていないが、サジータの知識にはあったようだ。
「深く考えなくていいよ。要するに、魔力が土属性を含んでいたら四足紅竜に乗れるんじゃないか、って話だから」
ふうん……
「理解できるかわかんないけど、一応聞いていい? 魔力色って何?」
リッセは、リオダインの言っていることが気になったようだ。
俺も気になる。
理解できるかわからない、という部分も含めて同じである。
「簡単に言うと、得意な属性を調べるための要素だよ。
魔力は人によって大小の差異があって、それは色や種類に出るんだよ。
で、とある魔術師の研究成果なんだけど、多くのデータを集めた結果から割り出された類似点があって、カテゴライズできるようになったんだ。
魔力の差異……つまり『色』を調べることで、その人の得意な属性、使用に向いている属性がわかるようになっているんだよ」
……ふうん……
「エイル、わかった?」
リッセのやや不安そうな顔は、彼女はいまいちピンと来なかったようだ。
「魔術に使う燃料が魔力だと考えて、燃料の色や種類で向き不向きがあるって話かな。魔力の傾向で、その人に向いた属性を調べるための表現だと思う」
だから魔力色。
魔力の色によってどんな魔術が使えるか、向いているかわかるという、才能の傾向を測るためのものだろう。
「あくまでも例として挙げるけど、魔力色を調べて、魔力が赤色なら火が得意、青なら水が得意とか、そんな風に割り出すための定義付けだと思うよ。
――あってるかな?」
「うん。それでいいよ」
リオダインが頷くので、この解釈でいいようだ。
「そっか……じゃあ私の場合は『聖』辺りの魔力色になる感じ?」
うん。「闇狩り」はそうだね。
詳しい理論や理屈を言うと結構ややこしくなりそうだが、難しく考えることはない。
人が持つ魔力には色が付いていて、それでその人の得意属性が割り出せる、と。
本当にそれくらいの認識でいいと思う。
俺は……「メガネの物理召喚」は、何属性になるんだろう。物理属性ってことでいいのだろうか。
まあ、どうでもいいか。
「竜人族の身体には、ドラゴンの特徴があるよね? 部位とか表面化した範囲は人それぞれで違うけど」
傍目には竜人族の特徴が見えない人もいれば、一目瞭然の人もいる。
アヴァントトのように角が生えていたり、サキュリリンのように片目がドラゴンのようになっている人もいる。
クラーヴなんて両手両足がドラゴンっぽいし。
「でも、それらはある種全部共通した特徴なんだ。ベースとなっているドラゴンが一緒なんだと思う。
よく見ると、鱗の大小や色違いはあっても、形が大きく違うことはないみたいだし。
そのベースとなっているドラゴンだけど、きっと土属性だと思う。
だから竜人族は、全員土属性の魔力色を持っているんじゃないかな。
で、四足紅竜の持つ魔力色も、きっと土属性だ。
――魔力色の共鳴と同調で、四足紅竜に異物だと認識させない……それが騎乗の仕組みなんじゃないかな。
同一魔力で錯覚を起こし、一体化……あるいは同種同類の仲間だと誤認させるんだ」
…………
そうか。
リオダインの「素養」は「大功の魔術師」……簡単に言えば全属性対応という非常に珍しいものだからな。
四足紅竜と共鳴・同調できる魔力色も持っていた、と。そういうことか。
これまでに乗れた人がいた、というのも、土属性を持つ魔術師だったという共通点があった可能性は充分ある。
答えは、土属性の魔力色を持つ者なら乗れる、か。
「しかし魔力色を調べるには、専用の魔道具が必要なはずだ。君は持ってるのかい?」
俺とリッセがすでに納得顔になっている横で、サジータがそんな突っ込みを入れた。
そしてリオダインは驚愕の反応を見せる。
「……すみません。その辺の確証はないんです。ただ、そう感じるからそうなのかなって思うくらいで……」
あ、そう……
そうなんだ。あくまでも推測なんだ。
「もしかしたら違うかもしれません。竜人族の持つドラゴンの特徴こそが、四足紅竜に乗るカギかもしれない。そして僕なんかは理由がわからないけど偶然みたいな感じでしかないかもしれないです」
いや、まあ、もう仕方ないだろう。
元々問題さえわからない問題の答えを探している最中なのだ。
言われた通り魔術師として理論立てて考えてくれたリオダインを、誰が責められる。
「というか、これがはずれていたら、僕にはもうわかりません。いろんな可能性を考えた末に出た結論がこれだったので……」
――うん。
「明日やってみよう。それでダメなら、今度は魔術師寄りで全員で考えよう」
これもまた、試さない理由がないだろう。
自信があろうがなかろうが、思いついたなら試せばいい。
レースまでの時間はあまりない。
もしかしたら、乗る方法を割り出すことができないかもしれない。
だからこそ、今はとにかく、思いつく限りの方法をやってみるしかないと思う。
…………
でも、リオダインの推測は、あまり外れている気がしないな。
推測通りで乗れるといいけどな。
「――でね、一応こういうものを用意してもらったんだ」
と、リオダインは囲んでいる俺たちの真ん中に、革袋を出して広げた。
中身は……魔法陣の刻まれた石が三つ入っていた。セリエが用意したものだろう。
「『表面保護』という、土属性に寄る護りの魔法陣が入っています。今回は魔法陣の効果ではなく持続時間のみに特化してもらったので、二、三日は土属性の魔力色が出っぱなしになるそうです」
準備がいいな。
昨日に続き、先に風呂を貰った俺たちと入れ替わりで、レースに参加しない者たちは今頃風呂に入っているだろう。
朝いきなり魔力を使わせると、セリエのその後の予定に障るかもしれないので、今日の内に頼んでみたわけだ。
「じゃあ、これを持って明日試してみよう。各々でほかの方法も考えてみてね」
サジータから解散の合図が出たので、俺たちはそれぞれのテントに帰るのだった。
結果として、リオダインの読みは正解だった。
俺たちは土属性の魔力色で偽装することにより、初めて四足紅竜に乗ることができた。
それはもう感動したし、爆走もした。
「あーはっはっはっはっはぁ!! 遅い遅い遅ぉーーーーい!!」
へらへらしながら乗れない俺たちをバカにしていた子供たちをぶっちぎってやった時のリッセの悪い笑顔が忘れられない。あれには俺も溜飲が下がった。
だがしかし――
「……こっちも難しそうだね」
「……いや、方法さえわかればあっちは簡単でしたよ」
子供の四足紅竜は優しい。
だからこそ、里内に置いておくことができるんだと思う。
でも、大人は気難しいようだ。
近づくだけならいいし、後ろに乗るならまだ許してくれるみたいだが。
一人で乗ろうとすると唸られる。明らかに威嚇している。
子供の四足紅竜で練習する理由が、よくわかった。
大人の四足紅竜は、本当に乗り手を選ぶようだ。




