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406.メガネ君、試行錯誤する





「――やってるか?」


 ドラゴン騎乗訓練二日目。


 試験的に付き合ってもらった里の女の子三人を帰し、なんとなく「物理的ではない理由で乗れない」ということがわかってきた時だった。


 集まって対策を話し合おうとしていたら、一人の竜人族の男が近づいてきた。


「やあ、クラーヴ」


「ようサジータ。色々器用なおまえでも乗れねえんだな」


 格好を見れば一目瞭然だ。

 今日もまた、すでに何度か転んでいる状態である。


 普段は里の外でグレーゾーンの運び屋をやっているクラーヴァエ……クラーヴがやってきた。


 彼は、俺たちを里に送ってきて、そのまま里で生活をしている。

 こっちに来てからは、俺はほとんど会っていないが、調査隊メンバーは割と会っているようだ。


 特にリッセとベルジュ辺りは、何度か一緒に飲んだとかなんとか。


 なんでも、獣人の国以外での冬は非常につらいので、この時期になるとこっちの国に帰ってくるらしい。


 今年は俺たちを里に送るついでとばかりに、冬の間は故郷にいることにしたとか。


 なお、俺たちが里から出る時に送ってくれて、その足でまた仕事に出る予定だと、いつかの朝食の時にベルジュが言っていた。


 ちなみに彼の「ゴーグル」はすでに渡してある。一応戦士でもあるそうだから。ほとんど里にいないみたいだけど。


「難しいね。何か方法はないかって話し合ってるんだけどね」


「ふうん。で、どこまで考えてるんだ?」


「さっぱりわからないよ。逆にどこまでだと思う?」


 果たしてサジータは答えを誤魔化したのか、それとも本音なのか。


 でも、確かに、正解がわからないどころか問題さえわからないのだから、応えようもない気はする。


 俺たちは正解に近づいているのか、むしろ離れていっているのか。


 それがわかれば、もっと推測も立てやすいと思うのだが……


「――言っとくが」


 クラーヴは、周囲に聞かれないよう声を落とす。


 今日も付き合ってくれているサキュリリンは、少し離れたところで子供たちを見つつも、じゃれつくように突っかかってくる四足紅竜(ラウジオ)に押し倒されたり蹴られたりしている。痛そうだ。でも仲いいなぁ。


 近くにいる竜人族は彼女だけで、今かなり取り込み中みたいなので、聞かれることはないだろう。


「――物理的な問題じゃねえぞ」


「――それはわかってる」


 サジータも声を落として答える。


 何しに来たかと思ったが、クラーヴはヒントをくれにきたようだ。


「――意識して鞍にしがみついていても、気が付けば振り落とされているからね。不可解な力が働いているとしか思えない」


 昨夜の話し合いでも、握力の問題ではないという結果が出ている。


 言えないが、それは間違いないと思う。

 何せ「素養・怪鬼」で掴まっていても落とされているのだ。


 「怪力で鞍を壊した結果落ちる」のならわかるが、「鞍は無事だけど振り落とされる」のでは理屈に合わない。


 それだと、絶対に振り落とされない怪力でしがみついているのに落ちる、という矛盾が生じるから。 


「――不思議だろ? 昔、外の人間がどうしても四足紅竜(ラウジオ)に乗りてえからって、四足紅竜(ラウジオ)の身体と自分をロープで縛ったことがあるんだ。どうなったと思う?」


 つまり、「強引に絶対に落ちないようにした」わけだ。その方法は俺も考えた。今日辺り試そうとも思っていた。


「――ロープが切れて落ちたとか?」


「――いや。ロープから人だけ抜けて落ちた。何度やってもな。な? 不思議だろ?」


 不思議っていうか、不自然だね。


「――彼だけ乗れるみたいなんだけど、それに関して君はどう思う?」


 と、サジータが一人綺麗なリオダインを指さす。今日もすでに肩身が狭そうだ。


「――魔術師だろ?」


「――えっと……はい」


 一瞬誤魔化そうとしたリオダインだが、ずばり言われただけに、素直に認めた。


「――これまでに何人か乗れる奴がいた。その共通項が『魔術師』だったんだ。まあわかってる範囲で、だがな。全員確かめられたわけじゃねえからよ」


 魔術師が共通項……魔術師だけが乗れる、か。


「――俺が話せるのはここまでだ。答えなんて知らねえしな。ま、役に立たないかもしれないが参考にしてくれよ」


 言いたいことを言ったようで、クラーヴはさっさと去っていった。





 魔術師だけが乗れる、か。


「今の話を踏まえて、何か気づいたことは?」


 サジータが、改めてリオダインに意見を求める。


 今度の質問は、ちょっと意味合いが違う。


 「なぜか乗れる人」ではなく、「なぜか魔術師だけが乗れる」という条件下である。

 似ているようで、まるで違う。


「うーん……とは言われても、魔力が働いているわけではないんですよね……」


 うん。

 俺も一応「メガネの物理召喚」という魔法を使う魔術師だから、魔力の動きくらいはわかる。


 四足紅竜(ラウジオ)に乗る時、乗った時、魔力は動いていない。

 ついでに言うと、里の戦士たちも魔力を通じて操作している、というわけでもないようだ。


「魔術師だから特別乗れる、というわけでも、ないんじゃないかと思います。竜人族の人たちはほとんど魔術を使えませんし」


 ……うーん。


「魔術関係は専門外なんだよな……僕にはさっぱりだよ」


 サジータのこの感じだと、「彼の素養」は魔術関係ではなさそうだ。自分も使うものなら必然的に詳しくもなるからね。


「じゃあ、ひとまず魔術師関連のことはリオに考えてもらって、私たちは別口で試しましょうよ。やってたら何かわかるかもしれないですし」


 リッセの建設的な意見は、即採用となった。


 そう、考えてもわからない専門的なことは専門家に任せて、俺たちは俺たちで試行錯誤した方が効率的である。


 そして、昨日の今日で、各々いろんな方法を考えてきた。

 クラーヴが持ってきた情報から魔術師関係が騎乗のヒントだと括ると、ちょっと的外れとなってしまうが、しかし試さない理由もない。


 一つずつ試していこう。





「僕もロープで四足紅竜(ラウジオ)に固定して、って考えたんだけど」


 クラーヴとの会話で出てきた事例ではあるが、サジータは念のためにと、ロープ固定法を試してみたいようだ。


 結果、ロープをすり抜けるようにして落下。派手に地面を転がった。





「私は、いったんサキュの後ろに乗って二人で騎乗して、走ってる途中でサキュに飛び降りてもらうって方法を思いつきました」


 リッセは、なかなか乱暴な案を考えてきた。


 ――そう、俺たちは四足紅竜(ラウジオ)の後ろには乗れるのだ。そういう形でなら乗ったことがあるとも言える。


 操縦できる人が前に乗れば、乗れない者でも同乗は許されるようだ。


 リッセの考えでは、そのまま勢いで乗れるのではないか、ということらしい。


「なんだと。私に途中で飛び降りろと言うのか。言っておくが、四足紅竜(ラウジオ)から落ちるのは戦士の恥なんだぞ」


 サキュリリンに協力を求めると、案の定渋った。……でも恥とかはもういいんじゃないかな。さっき思いっきり四足紅竜(ラウジオ)にぶつかられたり蹴られたりしてたよね。俺たちに負けないくらい泥でドロドロになってるよね。


「お願いお願い! サキュにしか頼めないから! お願い!」


 リッセが頼み込むと、渋々了承した。


「では行くぞ!」


「うん――うわーーーーーーっ!」


「ちょっなぜ一緒についてうわーーーーっ!」


 四足紅竜(ラウジオ)が走っている最中に地面に飛んだサキュリリンと。

 間髪入れず、サキュリリンを追いかけるような形で、彼女の上に落下したリッセ。


 結果、派手にもみくちゃになって一緒に地面を転がった。


「……あ、足がぁ……!」


 どうやらリッセともみくちゃになった時にやってしまったようだ。


 サキュリリン、今日も負傷。





 そして俺は。


「俺は共通項を探したんだ」


 竜人族と、リオダインの共通項。

 竜人族にあって、里の外の者にはないもの。


 それは――


「毒じゃないかな」


 俺はまだ直接見ていないが、森にあるという毒沼だ。

 

 さすがに里の住人でも、毒に直接触れた者は少ないと思う。

 だが、風に乗って運ばれる微小の毒素として、竜人族全員が身体に取り込んでいるんじゃないか。


 もちろん、森で生活しているという四足紅竜(ラウジオ)も、例外ではないだろう。


 ――同じ毒を持つ者、あるいはある程度の耐性を持つがゆえに同調するのではないか、と考えた。


 リオダインは、例の黒いドラゴンと戦った時、もしかしたら毒に触れたり霧を取り込んでいた、みたいな可能性を考えた。服に付着したとか。


「私は直で触ったけど……まあ試すだけ試せばいいんじゃない? で、どうするの? それどう検証するの?」


 うん。


「カロフェロンに沼の毒を少しと、解毒薬を貰ってきた。あとセリエの浄化の魔法陣付きの石も。

 この毒を飲んで、乗って、死なない内に治療する」


 小瓶の底に溜まっている黒い液体と、同じ瓶に並々満たされた薄い水色の付いた液体。あと魔法陣を刻んだ石。


 準備は万全である。


「じゃあリッセ、よろしく」


「は? 私!? え!? 嫌だけど!? そういう危険なのは自分でやってくれない!?」


「でも君、『闇狩りの素養』持ってるよね? つまり毒物とかの不浄な存在に耐性があるよね? じゃあ君が試すのが返って一番安全――痛いっ!」


「やれ。自分で」


 殴られた……

 殴られた上に、殺意のこもった目で睨まれた……


 これはもうダメか。自分でやるしかない。……嫌だなぁ。なんで俺こんなこと考えたんだろ。毒飲むとか嫌だなぁ。うっかり死んだらどうしよう。嫌だなぁ。怖いなぁ。……一応カロフェロンは「死なない程度の量で、しかも薄めた」とは言っていたけど、毒だしなぁ……後遺症とか出ないかなぁ嫌だなぁ。嫌だなぁ……


 ――なんてぐずぐずしてても始まらないか。よし、やろう!





 毒を含む。

 すぐにしゃべれないほど喉が腫れ、胃が燃えるように熱くなり、腹から全身に来る重い痛みに襲われる。


 それらの症状に耐えつつ、震える足で歩いて四足紅竜(ラウジオ)に乗る……直前に拒否され、ドーンと体当たりされて地面を転がる。


 逃げられた。

 どうやら毒を飲んだ俺は乗せたくないどころか、近くにも来るなって感じらしい。


 ――なんだこの結果は。


 ――誰だ、毒が共通項で騎乗の条件じゃないかなんて考えた奴は。バカか。……俺か。俺だったか……


 姉のことを言えないな、なんて思いながら、俺はリッセに渡しておいた解毒薬を口の中に押し込まれるのだった。





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結果論とはいえエイルが馬鹿みたいなことしてるのマジ笑う
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