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399.竜人族の里で 8





「――もうすぐ仕事が一段落すると思うから、その日に集まってまとめて情報交換しよう」


 少し長い内緒話を終えたサジータは、そう言って立ち上がった。


 ドラゴン関係でなかなかショックな可能性を示唆されたり、近場の毒沼の場所などを聞いたサジータは、今晩だけはちょっと酒を飲んで寝ようと決めていた。


 今日は酔って寝て、明日から気持ちを切り替えよう、と。


 ――やはりどう考えてもショックが強いが、しかし、進展があるならそれは大歓迎だ。ただちょっと、あまりにも、認めたくない可能性だっただけで。


 誰でもドラゴンに乗れる。

 ……何度頭の中で繰り返しても受け入れがたいものがあるが、今夜で気持ちを切り替えるつもりだ。


 調査隊メンバーそれぞれでの調査はしないように言ってあるが、偶然あるいは活動の中で知り得た情報は、きっとあるだろう。

 もちろん、なければないでも構わない。


 エイル・サジータ側からの情報提供はあえてしないことにするが、リッセらの得た情報はそろそろ聞いておきたい。


 彼らも、エイルらの活動や進捗情報が気になっているだろうから。

 詳細は伏せるが、一言「順調だ」と告げることだけはするつもりである。


 ――最終的にはそんな感じの打ち合わせをして、二人は就寝するのだった。





 密談が交わされた翌日も、エイルとサジータのやることは変わらない。


 朝から長老宅へ行く。

 竜人族の戦士を一人呼び、「ゴーグル」を渡す。

 それが終わると、これまでに渡した「ゴーグル」の調整を請け負う。


 竜人族の里に来てから変わらないサイクルで、毎日が過ぎていく。


 ――サジータが提示した「仕事が一段落する日」とは、戦士全員に「ゴーグル」を配り終える日のことである。


 そこまで行けば「ゴーグル」の情報は解禁となり、里の住人にも公表され、知るところとなる。

 戦士たちの間での情報交換も許可が降り、大っぴらに「ゴーグル」の話をしてもよくなる。


 それの何がいいって、調整はこれからも請け負うが、一日中長老宅に詰めている必要がなくなることだ。


 そこまで行けば、エイルもサジータも、多少の自由時間が取れるようになるだろう。調整の受付は午前中だけ、午後だけ、と区切ってもいい。


 どんな形の業務形態にするかはまだ決めていない。

 長老とも相談した上での話になるだろうから、もしかしたらさほど変わらない毎日が続くかもしれないが――しかし間違いなく、その時が一区切りである。


 そしてその一区切りの時は、確かに近づいていた。





「最近、ベテランって感じの人が来ますね」


「そうだね。後回しにされてたって感じかな」


「後回し、ですか」


「うん。これまでにも、里の外の人間が何度も何度も来ているからね。それなりにいざこざがあったり、揉め事があったり、まあ色々あったんだよ」


 ――朝、テントから出て長老宅へ向かう最中、そんな話をする。


 あの夜から数日が経ち、エイルらは変わらない毎日を過ごしている。

 明確に変わったことがあるとすれば、アヴァントトが連れてくる戦士の年齢である。


 最初こそ若者が続き、過酷な戦士業だけに引退が早いのかと思ったが。

 そんなことはなく、ちゃんとベテランの戦士も存在していた。


 そしてそのベテラン勢――中年と言っていいほどの戦士が、戦士オーシンから始まり立て続けに呼ばれている。


「おかげで、何かにつけて対応をしてきた中年の戦士たちは、外の人間をよく思っていないんだ。

 竜人族の戦士たちは強いけど、いつも無傷で済んでいたわけでもないしね」


 ははあ、とエイルは頷く。


「ここには各国から使者が来るんですよね? そりゃ武力行使で制圧しようって組織も出てきますよね」


「さすがに最近はそこまではないけどね。でも昔は結構あったらしいね」


 わからなくもない。


 竜人族を味方に、あるいは配下に加えることができたら、ドラゴンが手に入る。

 脅威の武力を手に入れる機会があるなら、血気盛んな野心家はどうしてでも欲しいと願うことだろう。


 ――誤算としては、ほんの数十人の竜人族の戦士が異様に強く、その上ドラゴンと一緒になって戦うとなると、どの組織からしてもかなり分が悪かった、ということだ。


 特に、軍や兵を大量投入できないこの環境が厄介だ。


 まず何より先に、ドラゴンが棲む森を抜けて、ここに来なければならないのだ。


 まず、でこれである。

 たとえ数万を超えるほどの大軍勢で挑んでも、森を突破して里に到着する者は、一割もいるかどうか……


 人同士でのやり合いならまだしも、この場合の相手はドラゴンが数体から数十体、もしかしたら数百のドラゴンに襲われる可能性も充分あるのだ。


 しかもその中には、ドラゴンの統制を取りそうな竜人族もきっと参戦する。

 そうなったら、数万の軍勢でさえ、里に到着する前に本気で全滅するかもしれない。


 ――この環境を前に、軍を動かすような愚を冒すものはいないだろう。


 ならば少数精鋭での制圧を……と考えるものの、普通に戦士が強いので、今までそれは成功していない、と。


 ただ戦士たちに遺恨が残っただけで。


「そろそろ厄介なのが来そうだよ。覚悟しておいてね」


 そしてその遺恨が、無差別に、外から来た人間に向けられるという迷惑な結果が残っただけである。


「まあ……気を付けますね」


 すでに兆候はあった。


 「ゴーグル」の受け取りを渋ったり、外の文化に難色を示したり、エイルやサジータに敵意がありそうな目を向けて来たり。


 長老か長老の奥さんが同席の下に行われているので、ベテラン勢は表立った露骨な反発はしなかったが。


 どうも嫌われている、好かれてない、歓迎されてない、という空気くらいは、エイルもしっかり感じていた。


 なるほど、だから連れてくる順番は後の方に回されていたわけだ。


「――おはよう。今日は私も付き合う」


 長老宅の前に立って待っていたサキュリリンを見て、エイルとサジータは、同時に嫌な予感を感じ取るのだった。


 いつもいない彼女が、今日は付き合うという、今までにないケース。

 悪いことの前兆としか思えない。


 そしてその予感は、すぐに当たっていることを知るのである。



 


「――長老。呼んだか」


 厳つい顔に厳つい傷跡を持つ、これまでに見てきた歴戦の戦士たちとも一線を画するような、ものすごく強そうな厳つい男がやってきた。


 髪にも髭にも白いものが目立ち出している。しわも深く刻まれているが、だからどうしたと言わんばかりに覇気が漲っている。


 ぎらつく双眸はどの戦士よりも好戦的かつ挑戦的で、また一際強そう――いや、一際強いことを証明しているようだった。


 鼻梁から左頬に掛けて、目を覆いたくなるような大きな傷跡があるが、それでなお堂々たる立ち居振る舞いは、むしろ傷跡こそ勲章と誇ってさえいるかのようだ。


 これまで、どんな危険そうな戦士を見ても顔色一つ、眉一本さえ動かさなかったエイルでさえ、これは強すぎると思わず眉を寄せるくらい、異様な強者の存在感を放っていた。





 彼こそ、竜人族の里の戦士長ジジュラ。

 アヴァントトの父親であり、里で最強の男である。





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― 新着の感想 ―
結局、毒龍とか、誘拐龍の話は出てこないのか?
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