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391.メガネ君、歓待を受ける





 長老を始め、戦士長であるアヴァントトの父親や、何かしらの技術職の代表である老人やら若者やらという、里の主要人物が集まった夕食の席で俺たちの顔合わせは行われた。


 これで、晴れて里の客人として認められたことになる。


 ちなみにネロは、最初の内に見せて紹介し、あとはまた里をうろつきに行った。

 なんでも「ここを縄張りにするわ」とのことだ。

 里にいる四足紅竜(ラウジオ)の子供とうまく共存できるかちょっと心配だが……今は置いておくか。


 そして、長老宅にて振る舞われた夕食は、里の食事を知らない俺から見ても明らかに豪華だとわかるものだった。


「――あれ飾りよね?」


「――どうだろ」


「――いや、あれは食えるぞ。調理されている」


「――えぇ……すごい……」


「――…………」


 リッセが俺の耳元で囁き、見たことのない料理にニヤニヤしているベルジュが誰にでも聞こえる声で嬉々と答え、リオダインが露骨に引いていてセリエは言葉も出ないほど驚いている。カロフェロンは知らない。


 色々と気になる料理も多かったが、特に目を引いたのは、小ぶりではあるが、ドラゴンの頭がそのまま皿に乗って出てきたことだ。


 あれは土竜の一種で、一週間以上を掛けて特殊な香草で蒸し焼きにすることで、地面をえぐる硬さを持つ鱗の一枚一枚がサクサクになるという、竜人族の里でも祝い事の席で出される縁起物なのだとか。


 もちろん鱗だけではなく、肉も食べられる。

 長老の奥さんが取り分けてくれたのを食べてみると……ちょっと癖がある臭いはするが、味はほのかに甘い。

 これは味付けの結果なのか、土竜の味なのか。ちょっとわからない。


「――鱗がおいしいです」


 セリエが異常に気に入ったようで、ひたすらサクサク食べていた。

 俺は肉の方がおいしかったけど。


 ――あ、目玉? え? 俺に? いや俺は目玉は結構です。ちょっと怖いから。え? 最大のもてなし? ……………………い、いただきます。


 俺たち全員に個室を用意してくれたことといい、手間が掛かる土竜の頭といい、早くも里側の歓迎の意志が伝わってくる。


 特に俺だ。

 土竜の目玉が回ってきたこともその証明だろう。


 ……ちょっと遠慮したら、里側の全員が俺を見たからね……「俺たちのもてなしを受けないのか」と、「まさか気分を害してしまったか」の二つの感情が見えた。


 あんな視線向けられたら、断れるわけがないだろう。…………ぷりっとして案外おいしかったけどさ。

 もう一つはベルジュたっての頼みで、渋々という顔をして譲った。正直ありがたかった。


 竜人族の人たちが、こちらの思惑も知らずに歓待しているのかと思うと、ちょっと申し訳ない。

 彼らは俺を呼んだつもりなのだろうが、俺たちは里の調査に来ているわけだから。


 だが、そこは割り切るしかないだろう。

 ワイズの期待は裏切れない。


 せめてもの気持ちを込めて、きっちりと「ゴーグル型メガネ」の提供させてもらおう。





 夕食が終わり、「さあお楽しみの時間だ」とばかりに酒壺が出てきたタイミングで、俺は席を立った。俺は酒はダメだから。絶対にダメだから。


 「本当に飲めないだけ、同席できないのは申し訳ないが自分がいても邪魔だろうから」と、決してこの里の酒だから飲まないわけではないことを伝えて、テントに戻ってきた。


 同じく飲めないセリエとリオダインと、俺のサポートであるサジータも必然的に一緒である。

 リッセとベルジュ、カロフェロンは残ったので、今頃は飲んでいることだろう。


「――印象はどうだった?」


 セリエとリオダインはそれぞれのテントに戻り、サジータだけ俺のテントについてきた。


 灯りも点けずに腰を落ち着け、薄暗い中で差し向かいに座ると、すぐにそんなことを聞いてくる。


「すごく歓迎しているように感じました。客にはいつもあんな感じ、というわけでもないでしょ?」


「そうだね。あそこまで主要人物が集められるなんて、祭りや宴、新しい戦士が誕生した時とか、それくらいかな」


 やっぱりか。


「ドラゴンの頭、すごかったですね」


「僕も最初に見た時は驚いたよ。――今回は、外からの来客に供されたことに驚いたけどね。滅多にないよ。たとえどこかの国の正式な使者でも出されないからね」


 そうか。


 彼らは、森の外にある権力にはあまり興味はないのだろう。

 だが、彼らの生活に直接関わってくるであろう「ゴーグル型メガネ」は、その限りではない、と。


「表向きの取引に関してはなんの問題もないと思います。歓迎の気持ちも、彼らの誠意も見ましたから」


「誠意? ドラゴンの目玉?」


 ――彼ら的にはそれで正解なんだろうけどね。誠意の示し方は。でも俺はちょっと……ぷりっとしてて、見た目はともかく味はおいしかったけどさ。


「そうじゃなくて。誰も『メガネ』について言わなかったから」


 あの夕食の席にいた里側の人たちは、全員が長老から説明を受けて知っていたはずだ。「俺の素養」のことを。


 しかし、あの席では一切触れなかった。

 意味深な視線を感じることもあったが、露骨に見てくる者もいなかった。


 あれこそ、「秘匿するつもりがありますよ」という意志であり、誠意だと俺は思った。


 俺たち側の人間と、事情を知っている里の人たちと。

 言わば関係者しかいない場所だったのに、それでも話さなかった――どこから情報が洩れるかわからないから控えたのだ。


 きっと彼らは約束を守る人たちなのだろう。


「なんだか悪い気がしますね」


 彼らは歓迎も誠意も見せてくれたのに、俺たちの目的は別にある。


「やりたくないかい?」


「いいえ。割り切ります」


「うん。……君は思っている以上に、もうプロなんだね」


 暗殺者の?

 やったことないし、この先もやる予定はないですけどね。


「それよりサジータさん。俺はもう寝るだけなんで、ベルジュたちの面倒を見に行ってやってくれませんか? ちょっと心配なんで」


「そうかい? じゃあ僕は戻ろうかな」


「飲んでもいいですからね」


「ははは。お言葉に甘えるよ」


 立ち上がったサジータは一笑し、テントを出ていった。


 ――こういう時、なんだよなぁ。


 ハイディーガで再会した時、「黒鳥」のグロックが言っていた「付き合いで飲むこともある」って言葉が思い浮かぶ。

 きっとこういう時のことを言うのだろう。


 サジータが酒好きなのかどうかは知らないけど、ああいう席で飲まないわけにはいかないからね。

 もしかしたら俺のために飲まない可能性もあるので、一応言っておいた。……考えすぎだったかな? それこそ向こうはプロなのだ、杓子定規で融通が利かないなんてありえないだろう。


 まあいい。


 今日は本当に色々あって、疲れている。

 腹も一杯だし、もう寝てしまおう。秘術の訓練? 今日はもういい寝る。


 服を脱ぎ、布団代わりの毛皮に寝転がる。

 なんの毛皮かはわからないが、毛足が長くさらさらで、非常に優しい肌触りである。日向のにおいがして温かい。


 目を瞑ると、あっと言う間に意識がなくなった。





 こうして、竜人族の里での生活が始まった。





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