表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
373/469

370.朱蜻蛉突破録 作戦採用





 グロックがメンバーに待機を命じた二日後、再びサジータがやってきた。

 あの時と同じく夜、同じ場所である大衆酒場で、しかも席まで同じだった。


 違うのは二点。

 隣のテーブルにメンバーがいないことと、


「同席しても?」


 「黒鳥」では古参になるオールドブルーが、ぜひにと同席を求めたことだ。


 若い連中とは違い、物静かで冷静で思慮深い。

 額の角と、相当な大柄であることから荒っぽい印象があるが、オールドブルーはそんな穏やかなタイプである。


「ええ、僕は構いませんよ」


 グロックには事前に確認を済ませているので、今度はサジータに許可を貰い、空いた椅子に座った。


 ――グロックは知らないが、オールドブルーはサジータ側の人間……暗殺者組織の関係者である。


 つまりこの布陣は、オールドブルーがサジータの味方として入っている状態なのだが、彼はそのことを知らないし気づいてもいないし、疑ってさえいない。


 まあ、もっとも。


「策を練って来ました。聞いていただけますか?」


 朱蜻蛉(ドラゴンフライ)に対処する策が万全か否かが、一番のポイントであることは変わらないが。


 たとえオールドブルーがどんなにサジータの味方をしようと、作戦そのものがいい加減では、絶対にグロックは認めないだろう。


 オールドブルーができるのは、それらしい援護射撃程度である。


 ――さてどうなることやら――大柄な男はサジータの言葉に耳を傾ける。





「……という感じで考えていますが、いかがですか?」


 語り終えたサジータの言葉に、グロックの返答は――


「…………」


 なかった。


 グロックは腕を組み、非常に難しい顔をしている。


「少し質問をしても?」


「ええ、もちろん」


 考え込んでしまったグロックに代わり、オールドブルーが口を開いた。


 ――オールドブルーとサジータは裏で手を組んでいる者同士ではあるが、作戦自体は初めて聞いたのだ。質問が湧かないわけがなかった。


朱蜻蛉(ドラゴンフライ)が、ドラゴンの森の傍から離れない理由は、毒にあると?」


「その説の可能性は濃厚です。ハルハの街にもあの森の研究をしている学者がいて、興味深い話を聞くことができました。その結果――」


 ――ドラゴンの森に点在する毒の沼地こそ、多くのドラゴンを惹きつける理由である。


 そんな説を唱える学者がいたのだ。


「時折はぐれる朱蜻蛉(ドラゴンフライ)もいるそうですが、それはあくまでも少数のみです。


 大部分の朱蜻蛉(ドラゴンフライ)が森から……森にある毒の沼地から離れようとしない。理由まではわかりませんが。


 そしてそれは、ほかのドラゴンにも当てはまる。


 ――ドラゴンは、あるいは魔物は森の毒を好む。我々はこの説を信じて、調査を進めました」


 ドラゴンは毒を好む。


 確かにドラゴンの住む森には、数えきれないほどのドラゴンが生息している。

 なぜこの森にこんなに溜まるんだ、と言いたくなるほど住んでいる。


 その理由は、森の中に発生している毒沼のせいだ、とサジータは言う。


 ――確かにグロックから見ても、ドラゴンの森自体は、特別なことはなさそうな森だと思っている。


 そう、強いて違う点を上げるなら、森には毒の沼地がいたることろに存在することだ。


「確かとは言い難いのでは?」


「そうですね。確証はない。しかし――確証があるものもあるじゃないですか」


「だからこそこんな策、ですか」


「ええ。――安全である、という点においては自信がありますし、試すだけ試す価値はあるのでは?」


 ――サジータの言う通りなのである。


 安全なのだ。至極安全だ。

 だからこそ、最初から頷くつもりのなかったグロックさえ悩ませている。


「しかし――んんっ」


 思ったよりかすれた声が出て、咳払いを一つ。


「しかし、おたくらは竜人族の森に行くんでしょう? もしその作戦を決行するなら、森の中は大変なことになっているはずだが」


「ああ、その点はご心配なく。竜人族の迎えが来る手筈となっていますので。森を突っ切って行くわけではないんですよ」


「なるほど。だったら問題なさそうだ」


 ドラゴンを狩りに来たグロックたちには面倒なことに、この策を決行すればかなり狩場が荒れそうではあるが……


 幸い、グロックたちには時間がある。

 それこそ、狩場どころか朱蜻蛉(ドラゴンフライ)大量発生が落ち着くまで、待っていられるほどだ。


 事はドラゴン狩りだ。

 じっくり腰を据えて臨まないと、怪我だけでは済まない事態になってしまう。


 しかし、サジータたちは違うのだろう。


 事情はわからないが、急いでいるのは間違いなさそうだ。

 そしてさっき言った通り、竜人族から迎えが来る程度には、向こうも彼らを待っていると思われる。


 それに。


「もし断ったら、自分たちだけでやりますかい?」


「そう、ですね。安全面を最優先に考えたので、試すだけなら我々だけでもできそうですから」


 となれば、悩む理由はない。


「――わかりました。その策、やってみましょう」


 策が上手く行くかどうかはわからないが。


 もし上手く行けば、ここで護衛を外される「黒鳥」の汚名となってしまう。もちろん報酬だって満額は入らないだろう。


 上手く行けばそれでいいし、失敗したら逃げ帰ってくればいいだけの話。

 聞く限りでは、確かに安全面を第一に考えて練られたことが伺える。


 ならば、試すだけなら問題ない。


 ――こうして、朱蜻蛉(ドラゴンフライ)突破作戦の決行が決まったのだった。








 ――これが予想外極まりない結果を生むことになるのだが、もう少しだけ先の話である。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ