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368.メガネ君、少し実験する





「うっわ……」


 これは……絶対に突破は無理だな。


 ――全員に更なる情報収集の指示を出し、その場は解散とした午後。


 俺はこっそりハルハの街を抜け出し、ひとっ走り「即迅足(ファストブーツ)」で高速移動し、問題の現場を見に行くことにした。


 向かったのは、朱蜻蛉(ドラゴンフライ)が発生しているという、ドラゴンの住む森の近くだ。


 話には二百、三百と聞いたが、実際はどうなのか。

 朱蜻蛉(ドラゴンフライ)一匹の大きさや、どれほど広域に飛び回っているかも気になるので、まずこの目で見てみようと考えた。


 その結果が、目の前にある。

 夕方になる前に到着した森の前は――まさに山火事のようだった。


 見渡す限りが、火の粉(・・・)で埋め尽くされていた。


 ここから見れば小さな火の粉(・・・)だが、あれの一つ一つが、実際は大きな赤いトンボである。


 恐ろしい……想像以上に恐ろしい光景だ。


 直感的に思う。

 あれは、朱蜻蛉(ドラゴンフライ)をどうにかしてからじゃないと、森まで行けない、と。


 カロフェロンが提示した「虫よけで行く」というのは、やめた方がいい。

 もしなんらかの事情で虫よけが効かなかった場合、一瞬で食い尽くされるだろう。あの数に一斉に掛かられたら、何もできずに殺されてしまうだろう。


 危険を冒す段階ではない。


 ゆっくり策を練る暇はないが、命を懸けるほど焦らなければならない理由はない。

 期限はあるが、切羽詰まっているわけではない。

 

 安全第一で、この際時間の問題は二の次に置いておこう。

 

 ……それにしてもすごい数だな。


 火の粉の海のような光景の向こうに、青々茂る森が見える。

 あれが目的地の、ドラゴンの住む森――ひいては竜人族の里がある場所か。


 ……どうやら、見た目の距離以上に遠い場所になりそうだ。





 少し実験をして、夕方になる前にハルハの街に戻ってきた。


 走っている時は「即迅足(ファストブーツ)」の使用に集中しているので、あまり他所事に気を割くことができない。

 もう少し慣れないと、走りながら考える、なんてこともできないので、ハルハの街を歩きながら考える。


 朱蜻蛉(ドラゴンフライ)の問題は、思ったより厄介そうだった。


 まず「遠鷹の目」でじっくり観察したが、見た目はトンボそのものだった。


 ただ、時々透明な薄羽から火が出るのは何なんだろう。

 火の粉だと思ったあれも、身体の色ではなく実際火が出ていたわけだ。


 いや、なんなんだってこともないのかな。いくら見た目は虫でも魔物だし。

 普段は森にいるらしいけど、火を使うのは危なくないのだろうか。


 ……まあ、この辺は調査隊メンバーの誰かが情報を得ているかもしれないので、置いておこう。


 次に、朱蜻蛉(ドラゴンフライ)に向かって、実験のために持っていっていた肉とか果物とかを投げ込んでみた。

 もちろん近づくことはできないので、「怪鬼」で遠くからだ。


 結果――地面に到着する前に食い尽くされた。

 肉も果物も野菜も。魚の干物も。


 ――あれはまずい。


 あれだけ貪欲なら、絶対に人間だって襲うだろう。

 そしてあの数となれば一瞬で食い尽くされる。襲われた時点で最後だ。馬獣人が逃げた理由もよくわかった。


 あの辺一帯は、もう色々と食い尽くされているはずだ。

 あれだけの数であれだけ貪欲なら、食えるものはなんでも食うだろう。


 でも、なぜかエサを求めて移動はしないんだよな。

 魔物の習性なので、一概に習性通り筋が通った動きをする、とも限らないが……


 だが、エサを求めるのは、すべての生き物に共通した行動である。

 たとえ魔物でも無視できるものではない、はずだ。


 となると……あそこを離れられない理由でもあるのか?


 まあ、何にしろ――俺も手を出さないのが正解だと思うなぁ。ハルハの街の冒険者たちの選択は正しいと思う。


 残念ながら、そうも言ってられないけど。





 夕食の席でまた全員が集まった。


 夜となると宿の食堂も利用者が多くなるので、よその店で個室を取って話し合うことにした。

 あまり聞かれたくない話もしそうなので念のためだ。


 サジータ始め、リッセ、ベルジュ、リオダイン、セリエ、カロフェロンから追加情報を聞き、俺も実験結果を話した。


 ――「ここから二日かかる森までどうやって行って帰ってきたの?」なんて質問してくる人がいない辺り、俺が「複数の素養が使える」という事実が割と伝わっているのかもしれない。


 いや、気を遣って言わないだけかもしれない。

 常識として、「他人の素養」には簡単に触れないものだから。


 虫よけはやめた方がいい。

 朱蜻蛉(ドラゴンフライ)をどうにかしてから安全に通る方向で考えたい。

 期限はあるけど危険はできるだけ避ける策を取りたい。


 そんな方向性を示した上で、全員でああでもないこうでもないと問題を捏ねまくる。


 ――課題の時にも経験したが、やはりこういうのは悪くない。


 一人で策を練るには限界があるし、自分では思いつかないような意外な発想が飛んできたりもするので、楽しい。


 できること、得意なことがそれぞれ違うだけに、いろんな案が出た。


 その中で気になったのは――リオダインのあの話だ。


「なぜ朱蜻蛉(ドラゴンフライ)が大量発生したのか、でしたね?」


 話が途切れたところで、俺は盛り合わせの空色マンゴーにフォークを指しつつ視線を向ける。


「ん? ああ、昼の報告だね。それの続報はないけど……」


 リオダインは一瞬なんのことかわからなかったようだが、すぐに察して盛り合わせの甘甘キャベツを口に運ぶ。


 いや。


「君が気にするのがわかる気がします。私もそこが気になります」


 いろんな話をしたし、突破方法の案もいくつか出たが。

 最初にリオダインが気にしたという、朱蜻蛉(ドラゴンフライ)発生の理由が気になる。


 というか、アレだろう。


「あれって森に住む朱蜻蛉(ドラゴンフライ)が、森に住むドラゴンに追われて出てきた、という説があるんでしたよね?」


「本当かどうかはわからないけどね」


 いや、可能性は高いと思う。


「私は朱蜻蛉(ドラゴンフライ)が移動しない理由も気になります」


 と、俺は目撃情報と実験を踏まえて、簡単に説明する。


「なるほど」


 サジータは、盛り合わせの水リンゴを口に放り込んで腕を組む。


「すでに一帯にはエサはない。

 しかし朱蜻蛉(ドラゴンフライ)はそこを動こうとしない。


 その辺の不可思議な状況に、打開策がないかと思っているんだね?」


 その通りだ。


「不思議だよね。たくさんのドラゴンがいる森って、やっぱり何度考えても不思議だわ」


 リッセがぱくぱく盛り合わせの登り魚レッドキウイを食べつつ、そんなことをこぼす。……あれちょっとすっぱいんだけど、リッセは好きみたいだな。


朱蜻蛉(ドラゴンフライ)が離れない理由も、その辺にあるのかな?」


 うーん……ありそうな気もするし、そうじゃない気もするが……





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