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357.メガネ君、方針変更を決める





 ストゥララの街での滞在期間が過ぎ、予定通り次の街に移動する。


 今度は、ほぼ単一種の獣人たちで構成されている小さな村で屋根を借りつつ、三日を掛けて港街まで行くという。


 なお、俺とベルジュ、リオダインは獣人女子がだいぶ怖くなってしまったが、村では絡まれることはなかった。

 そういえば、主に嫁・婿不足だから街に出てきて探すんだ、というのが前提にあったな、と思い出した。


 単一種の村は、ある意味困っていない人たちが住んでいるわけだ。だって街に行く理由がない人たちだからね。

 ならば、旅人を見て男だ女だと目の色を変える理由もない。


 初日は兎獣人の村に泊まる。

 ピコピコ揺れるシッポが可愛くて、ちょっと癒された。獣人女子に対する恐怖心も若干和らいだ気がする。


 二日目は、野宿だった。

 なんでも馬獣人の村がこの辺にあるはずだが、元々遊牧民のような種族なので、もう移動してしまったらしい。


 この国は暖かいが、それでも今は真冬である。

 冬に移動するのは稀らしいが――しかしありえないことではない、と獣人の国で暮らして長いサジータは言った。


 いわゆる「外敵が出たから逃げた」というパターンが濃厚らしいが……確かめようがないのでなんとも言えない。





 その間、時間を見付けては秘術の訓練をしていた。

 移動だなんだで訓練できる時間はかなり限られたが、それでもやらないわけにはいかない。


 だが結局、三日間の移動中も、俺の秘術の訓練に進展はなかった。


 そして、二晩を経て移動を続け、三日目の昼。

 目当てとしていた大きな港街に到着した。





 港街ババリリデア。


 ナスティアラ王国から船でやってくるならまずここに来るだろう、というほど、海外の船の受け入れ口として利用される、非常に大きな街である。


 人も多いし、獣人も多いし、外国からやってくる物も多い。

 当然活気もあり、そこかしこから怒鳴り声のような大声が聞こえてくる。


 獣人の国では一、二を争うほど栄えている街なんだそうだ。

 なんというか、まだ大通りしか見てないが、ここだけでも納得できる人の多さと物の密度である。


 ――しかしまあ、今の俺はそれどころじゃないが。





 まずは宿に移動する。


 貴族であるワイズがいるので、やはり高級宿に行き、俺たち候補生も個室を取ってもらった。


 「観光したい」だの「うまいもの探したい」だの「猫……」だの言っている元気な連中と別れ、俺はまず休むことにする。

 ここ二日の疲労と汚れを風呂で流し、すぐにできるというパンとスープだけ貰って、ベッドに横になった。


 ――ワイズが秘術の訓練を見てくれると言ったのは、七日間。


 ――そして、今日で五日目である。


 移動のせいで訓練に専念はできなかったが、残り二日はなんとか時間を捻出できそうだ。


 この五日、秘術の訓練での進展は一切ない。


 正直、こんなにもやってもできないことなんて、今までになかった。

 身体を使うことなら、徐々に身体が憶えているものだ。


 弓だって最初は近距離くらいしか当てられなかったが、少しずつ上手くなってきた。

 それだけじゃない。

 師匠から教わった護身用の剣も、狩場での過ごし方も、獲物のさばき方も、少しずつ習得してきた。


 だが、あの秘術の訓練は、そういうものとは一線を画している。


 ……そもそも身体を使う技じゃないんだよな……


 このままいくらやっていても、身につく気がしない……


 ……せめてほんの少しでも成長があれば……


 …………


 眠れないくらい、いろんなことを考えていた気がするが。

 それでも身体は疲れていたようで、いつの間にか微睡に突っ込み、眠りの底へ落ちていた。





 夜、夕食と猫の予約に呼びに来たカロフェロンに起こされた。


 少しだけ休むつもりが、結構熟睡してしまった。

 おかげで体調は万全だが、ちょっと残り時間が気になるな。


「ね、猫……ネクロ、今夜、借りたい、んだけど……」


 …………


 秘術関係に専念したい俺は、猫と一緒に寝る……どころか、猫と触れ合うのさえ自重しているの。


 その代わりなのかなんなのか、毎晩女子が借りに来ると言う、おかしなことになっている。


「……ネクロじゃないからね」


 最初こそリッセ、セリエ、カロフェロンで取り合いになっていたが……どうやら今夜は彼女が借りるという算段が付いているようだ。


 俺の意見そっちのけで。


 いや、まあ、いいけどね。

 今は猫と遊んでいる場合じゃないから。


 カロフェロンと一緒に食堂へ向かうと、ワイズとサジータを除くメンバー……候補生だけが揃っていた。


「ワイズ様とサジータさん、今夜は予定があるから帰らないってさ」


 と、テーブルに着く俺に、聞くまでもなくリッセの説明が入った。


 そうか。

 あの二人、今夜はいないのか。


 ――あの秘術の訓練は、借りている個室内で充分できるから、わざわざ訓練用の部屋を借りる必要もない。

 道中の訓練もそうしてきた。特に不都合はない。


 …………


 借りたところで無駄になりそう、という気もするし。


 五日、進展なしだもんな。

 なんというか……これほどやっている手応えがないと、根本的な部分の見直しをするべき、という気もしてくる。


 ……ワイズが見てくれるのは、あと二日。


 あと二日の内に、なんとかきっかけでも掴めれば…… 





 夕食を済ませ、すぐに自室に戻って訓練に入る。


 体調は万全。

 夕食も少な目にして、できるだけ動けるよう調整した。

 やる気も充分だ。


 しかし――気が付いたら夜が明けていた。


 明るくなっている室内に気づき、五日目が終わったことを悟った。

 やはり、なんの進展もなく。


 何も得られなかった失意と失望、そして魔力の使い過ぎで、一つ明確な答えを得て倒れるように眠りに着いた。


 ――このままでは時間の無駄だ、と。





 五日で割り出した答えは、それだけだった。


 このままでは時間の無駄。

 それだけだ。


 きっとこのまま何日も、何週間も、何ヵ月も、何年続けても、何も起こらないと思う。


 ――だから、少しばかりの方針変更を決めた。





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― 新着の感想 ―
[一言] 同期に聞いた方が早いと思う
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