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353.メガネ君、ライオン系女子とサイ系女子を撒く、が……





「先に行っているよ」


 早速取り囲まれる俺たちを振り返り、サジータはなごやかに言った。


 なんでも、獣人の彼女らと同年代である十代の男が、よく絡まれ襲われるのだそうだ。


 なので、やや年齢不詳だが十代ではないだろうサジータと、すでにおじいちゃんのワイズは、彼女らの守備範囲外ということになる。


「さっきの話、ここまで本気だったんだ……」


「私もやや大げさに言っているのかと思ってましたけど、これは……」


「エ、エイル……猫、置いて行っ……あ、なんでも……」


 女性陣たちも、俺たちの囲まれっぷりには引きつつ驚いている。あとカロフェロンは後でちょっと話をしたい。猫どころじゃないだろこの状況。そして俺はどうでもいいけど猫は必要みたいな……あとで話そう。


「た、助けてくれないの!?」


 ネズミと兎に引っ張られているリオダインが声を上げるが、スタスタ先に行ってしまう彼らは振り返りもしなかった。


 ――自分たちでなんとかしろ、と。そういうことだろう。


 だと思ってましたよ。

 何せ、説明の段階で宿の名前まで事前に言うんだから。


 まさか「はぐれることでも予期しているのか」と思っていたら、この様だし。


 ……やれやれ。





 とりあえず、各々でなんとかするしかないだろう。


 ベルジュはあまり動揺もしていないし、冷静さは失っていないように見える。まあ料理にしか興味ないような奴だしね。

 彼は大丈夫だろう。


 しかし問題はリオダインだ。

 リオダインは優しいから、女性に攻撃するとかは難しいかもしれない……


 しかしなんとかしてやりたいが、それより何より、俺は自分のことで精一杯だ。


 そう、この状況では、まず俺が一番問題だろう。

 何せ逃げられるような状態じゃない。完全に捕まっている状態だから。


 えっと……すごく大柄な女たちに左右を挟まれて、時々尻を撫でられているような感じだが。

 

 まず左は、なんだろう、なんの獣人だろう?

 ベルジュには負けるにしてもすごく大柄なことを考えると、たぶん男の獣人なら軒並みベルジュよりも大きいと思う。


「……なんの獣人?」


 顔立ちや目には獰猛な印象が強いし、一目見ればかなり強いこともわかる。

 ……あと事前の話が本当なら、これで俺と同年代なんだよな……三十歳くらいに見えるんだけど……


「クハハ、喜べ。我は地上の王者、獅子である。おまえは獅子に選ばれたのだ」


 獅子。

 というと……ライオンか。


 おとぎ話で聞いたことがある逸話では、獅子獣人は獣人種の中でもとびっきりの戦闘種族だと記憶している。


 本人が王者と言うだけあって、その辺の獣人とは格が違うという雰囲気はある。

 実際、戦闘力の面ではずば抜けているんじゃなかろうか。


 なるほど、左はライオンと。


 右は……うーん……額に大きく立派な角があるのが特徴なんだろうけど……


「そちらはなんの獣人ですかね?」


 流れ的に、むしろ聞いてほしそうだった右の獣人は、やはりこちらも、獰猛さと狂暴さを感じさせる笑みを浮かべた。


「俺はサイだ」


 あ、サイ。

 サジータが気を付けろって言っていた種族だ。


「ちなみにもう婿がいる? 何人も男を持つ種族なの?」


「他は知らん! 俺の趣味だ!」


 あ、そうですか。


「俺は逆ハーレムを作る! いい男を集めて! 俺に傅かせるのだ!」


 ……あ、そうですか。欲望丸出しで結構ですね。


 うん、まあ、うん…………まあ、どうするかなんて考えるまでもないよな。


「ちょっと行ってくるね」


 一番問題がありそうな俺を見ていたベルジュとリオダインと、一応気にはしている彼らを囲む女性たちに告げる。


 ――とりあえずどこかでライオンとサイを撒いてこよう。





 なんだか人気のないところに連れて行かれて、怪しげな宿の看板が出ている店に入り――


「――よっと」


 個室に連れ込まれてすぐに、彼女らの視線がはずれた瞬間、

 窓枠の隙間から「霧化(ミスト)」で脱出した。


 地面に降り立ち、素早く移動する。――背後で上がる怒りの咆哮のような声を聞きながら。


 これが獣人の街か。

 着いて早々この騒動だもんな。ここにいる間は女装していた方がいいかもしれない。正直面倒臭い。


 冬支度用に買った帽子を目深にかぶり、人目を避けながら、さっきの大通りに戻ってきた。


 すでにベルジュとリオダインの姿はない。

 彼らも彼らで行動を起こしたのだろう。


 えっと……サジータが誘導していたのは、大通りの向こうか。


 貴族であるワイズが一緒なのだ、安宿ではないだろう。大帝国のネルイッツで泊まった高級宿のような場所に違いない。


 となると、大通り沿いにある可能性は高い――というかあった。それにいた。


「――おう、エイルか。早かったな」


 俺とは反対側からやってきたベルジュと、名前を聞いていた宿の出入り口前でかち合った。


 俺は帽子を被り顔を伏せていたので、彼はすぐには気付かなかったようだが、俺だとわかると少しほっとしたようだ。


「まあおまえなら心配はいらんよな」


 それは買いかぶりだと思うけど、まあそれはいい。


「そっちも無事だったみたいだね」


 なんかやたら色っぽい獣人たちに囲まれていたけど。……というか冷静に考えると、双方納得できるなら、別に嫁に貰ってもいいんじゃないかという気もするけど。


「あんなに女にモテたことがなかったら驚いてしまった。もう逃げるだけで精一杯だったよ。我ながら情けない」


 ……そうなんだ。ベルジュは平気そうに見えたけど、内心結構動揺していたらしい。


 …………


 しかし、こうなると、アレだ。


「リオダインは?」


「わからん。俺はおまえが消えたあと、リオダインを残してすぐに移動したからな。その後どうなったか見ていない」


「…………」


「…………」


 …………


 …………





「――あ、おかえり」


 なぜだか重苦しい沈黙を守ることになってしまった俺とベルジュの間に、宿から出てきたリッセが入ってきた。


 こいつはさっき俺たちを置いていった奴である。振り返りもせずに。


「あれからどうなったか気になって、ちょっと様子を見に行こうと思ってたんだけど」


 その分だと大丈夫だったみたいだね、と。リッセは気軽なことを言う。……一応心配はしたようなので、さっき見捨てたことは不問にしよう。


 ――それよりだ。


 沈黙が覆い隠していた嫌な予感が止まらないが、……このままというわけにもいかないだろう。


「リッセ。ちょっと聞きたいんだけど」


「ん? あ、そういえばリオは?」


 ……あ、俺の聞きたいこと、もういいや。


 リオダインは帰ってきていない。

 周囲を見ても、彼の姿は当然、あるわけがない。


 嫌な予感が止まらない俺に――恐らく、同じような心境なのだろうベルジュが口を開く。


「なあエイル」


「何?」


「俺は獣人の国を、この国の文化を舐めていたかもしれん」


「……ああ、うん……」


 俺は曖昧に頷き……溜息を吐いた。


「――俺もだよ」


 獣人の街ストゥララに到着して、まだそう時間は経っていない。

 なのに、早々に一人行方不明になってしまった。


「……まあすぐに帰ってくるだろう」


「ダメだから。現実を見よう」


 俺もベルジュのように現実逃避したかったが、さすがにダメだろう。見捨てちゃ。





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