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352.メガネ君、最大のモテ期到来!





「なあエイル」


「何?」


「俺は獣人の国を、この国の文化を舐めていたかもしれん」


「……ああ、うん……」


 俺は曖昧に頷き……溜息を吐いた。


「――俺もだよ」





 遠くに見えていた獣人の街ストゥララへ走って移動し、到着したのは夕方頃だった。


 ブラインの塔を発ったのが昼なので、結構走ったかもしれない。

 まあ俺たちの中では足が遅いリオダイン、ベルジュ、セリエ、カロフェロンに合わせたので、そんなに速度は出ていなかったはずだが。


 ストゥララの街。

 石造りの建物が主体の、なんだか全体的に頑丈そうな印象がある街である。


 ナスティアラ王国は結構ゆるい雰囲気があったが、そこまでゆるくはない。

 しかし大帝国のように規則規則という雰囲気もないので、まあ、丁度いい感じではある。一般人は過ごしやすいかもしれない。


 そして、街を行く人々は、やはり獣人が多い。


 毛むくじゃらで二足歩行の狼獣人もいれば、シッポくらいしか獣らしい特徴がない馬獣人もいる。


 なんというか、獣人の特徴が一定ではないようだ。

 同じ獣人種同士でも結構な違いがある気がする。


 獣人だらけ、というのも珍しいが、店先に並んでいる物や屋台の食べ物も、見たことがないものばかりで興味深い。


 …………


 ……そして、サジータの言う通り、擦れ違う獣人女性がしっかり振り返って注目してくる。


「なんか見られてない?」


 横にいるリオダインが囁き、俺は頷く。


「見られてる」


 この分だと、割とすぐに、絡んで来そうな気がする。


 ――というか、絡んでくるのだった。





 このストゥララにやってくる道中、サジータが「一番大事な文化」と銘打って教えてくれたこと。


 それは――獣人集落の嫁・婿不足問題である。


 元々は閉鎖的だった各獣人種の集落では、歴史の折で幾度か嫁・婿不足で困ることがあったそうだ。

 というのも、強い男も女も、狩りで死ぬことがあったからだ。


 婿が足りない、嫁が足りない。

 近親婚は禁忌に触れるとさえ、許されなかったところも多かった。


 だったらどうするか、と言えば――自分たちに近しい獣人の集落を襲い、婿なり嫁なり奪っていたらしい。


 ――当然、そんなことをすれば各獣人種は一部、あるいは全部に向けて敵対する。まあ当たり前だよね。


 こうして熾烈な縄張り争いが行われた。

 いや、もはや戦争と言ってもいいのかもしれない。滅んだ一族もいるし、逆に反映した一族もいるから。


 ……とまあ、そういう歴史があったそうだ。


 今では各獣人種の長たちが国の代表となっているため、内輪揉めじみた表立った敵対行動は禁じられた。

 かつては隣国に攻められたことがあるだけに、獣人同士で争っても国力を落とすだけだからだ。


 まあ、恨みつらみがすぐになくなるわけもなく、仲が悪い獣人種同士もいるそうだが――現在は概ね落ち着いているそうだ。


 だが、遺恨も禍根も併せ飲むようにまとまった獣人の国だが、それで根本的な遺恨の解決ができるわけではない。


 婿・嫁不足問題は俄然残ったままとなる。


 大帝国に少し似ているが、獣人種の大抵が、強さこそ大事と考える文化がある。


 大帝国の場合は、己の鍛錬に傾倒している感じだが。

 獣人の国では単純に「獲物を狩る・魔物を狩る」ための強さであるから、少し系統は違うかもしれない。


 ドラゴンの棲む森があるような土地である。

 ある程度強くないと、それこそ一族が滅ぶ可能性も高かったのだろう。強さはむしろ必要不可欠なのだ。


 ――それはともかく。


 なんだかんだあって男女の比率が崩れることで、結婚できない者が出てくる。


 強い者は結婚相手を選べるが、弱い者は選べない。

 当然、弱い者と結婚したがる者もいない。


 ならばどうするか?

 己の集落以外から探すことになる。





「――ねえねえ。お姉さんと遊ばない?」


 うわ来た。早速来た。

 犬獣人っぽい妙齢の女性が、ベルジュに近づき腕に絡みつく。


 それがきっかけで、遠巻きに見ているだけだった女性たちも近寄ってきた。


「うわちょ、……えー……」


 俺たちの近くにいたリッセとセリエが押しのけられ、完全に男だけ寄り分けられた。


 犬、ネズミ、牛、角があるけどちょっとわからない女の子と、俺たちは八人ばかりの女性に取り囲まれる。

 というか近いな。……おい誰だ今俺の尻を撫でたのは。嫌な思い出がよみがえるからやめてくれ。





 ――しかも、表立った敵対行動が禁止されたことで交流が進み、交流が進むことで、いろんな感情が生まれてくる。


 たとえば、他種族を見る機会が増える。

 各々の集落で常識とされていたことが、ほかでは常識ではない。

 力は弱い男が、獣人特有の「強さではない長所」で受け入れられる先を見出したり。


 それと。


 ムキムキで大きな男は嫌だ、とか。

 自分より強い女とか嫌だ、とか。


 何が一夫多妻だ私一人を満足させることもできないくせにバカじゃないのお断りよ、とか。

 腹筋が割れてるのはいい、自分より大柄なのも許せる、でも胸が完全に筋肉な女だけは……と泣き出す者もいる、とか。


 昔は「強さこそステータス!」みたいな常識が蔓延っていたそうだが、今では「強いだけじゃダメ」と声高に言う派も台頭してきた。


 そう、いわゆる「単純な好み」というものを口にする若者が増えたそうだ。


 そして、俺たちに関係する肝心な点。


 ――人間は獣人と子供を作ることができる。


 獣人同士では、種の壁に阻まれて叶わないこともあるが、人間はほとんど、どの獣人種でも結婚が許されているとか。





 今俺たちを囲んでいる女性たちは、婿探しのために街に出てきた獣人たちである。


 女性は己の集落でなんだかんだ――一夫多妻などの形でどうとでもなるそうだが、それを良しと思わないアグレッシブな人たちだ。



 まず、ベルジュは身体も大きく筋肉質で、見るからに強そうだ。


 「強さこそステータス」は今時古いとは言われているが、それでも魅力があるのは間違いない。

 何せ、最低限獲物を狩れないと困るからだ。


 だから彼はモテている。一番人気だ。最初の牛獣人の女性から始まり、三人ほどに目をつけられている。胸をすごい圧でぎゅうぎゅうに押し付けられている。



 リオダインは――華奢で強そうには見えないが、彼は魔術師である。


 わかる者はわかるのだと思う。

 熱心に腕を引っ張るネズミ獣人と、熱心に甘い言葉をささやきネズミとは反対側にもう片方の腕を引っ張る兎獣人は、彼が魔術師であることを見抜いていると思う。



 そして俺は――


「おまえ可愛いな。我の婿にしてやる」


「いいや俺の婿になるよな? まあ三番目の婿だが」


 …………


 なんかすごい筋肉質なお姉さん二人に、がっちり肩を組まれている。あと時々尻を撫でられている。


 ……なんで俺だけやたら強そうなのに絡まれるんだか……





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お、恐ろしい……。
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