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266.メガネ君、盗賊団を見る





 狙う馬車が決まってからは早かった。


「すぐに人を集める」


 簡単な段取りを話し合ってすぐ、コードは席を立った。


「僕らの仕事は、いつもゼットの言葉から始まるんだ。それが済んだら僕らも出発する。あまり時間はないが、用事があるなら今の内に済ませておいてくれ」


 すぐにでも動きたい。

 これはハイドラも言っていたことである。


 だから、今夜発つ可能性も考え、出発の準備はすでに終えている。


 しかし、どうやらここから数日ほど移動に費やし、大商隊に追いつかなければならないようだ。

 強いて不安を挙げるなら、日程の目途がまったく立ってなかったせいで用意できなかった食料くらいである。


 この時間に店とかやってるかな?

 最悪、食料を調達しつつ移動って感じになるのかな?


 ――まあ、それはそれとしてだ。





 慌ただしくコードが出ていったところで、俺とセリエはハイドラを見る。


「君、勝手に決めたね?」


「決めましたね?」


 どうやら俺とセリエは、同じ部分に不満を持っていたようだ。


 そりゃそうだろう。

 わざわざ危険で困難な方を、リーダー権限で俺たちの意見も聞かず決めたのだ。

 不満が出ないわけがない。


 唯一何も言わないのはシロカェロロだけだ。

 しゃべれないから言わないだけかもしれないけど。彼女もハイドラを見てるし。


 極論を言えば、ハイドラは間違っていない。

 勝手に決めて俺たちの行動を左右する権限があるのが、リーダー役だから。


 だが、俺たちだって理由くらいは聞かないと、納得はできない。


 それも、納得できる理由じゃなければ、最悪この仕事から降りることも考える。


 勝手に決めてもいい権限がリーダーにあるなら、リーダーに付いていくかどうかを決めるのはお手伝いである俺たちの権利である。


「選ぶ余地がないと思ったから」


 ハイドラは何の感慨もなさそうに、俺たちの視線の圧をするっと受け流しつつそう答えた。


「コードは『手頃に狙えそうなのは二件』と言ったわ。つまり普段のゼットたちなら、大商隊だろうと腕のいい護衛がいようと、普通に狙う相手でしかないのよ。


 規模がどうであろうと、どっちも手頃な二件でしかない。

 だったら単純に、シンプルに、実入りのいい方を狙う。


 そう考えただけだけれど、何か不満な点があるかしら?」


 …………


 ……ゼットの身代わり、か。


「私はゼットという人をよく知らないんですが、そっちを選んだ方がその人らしい思考なんですか?」


 セリエの疑問には誰も答えられない。


 俺もほんの少ししか関わっていないし、接していない。

 あいつの思考回路がわかるほどの付き合いなんて、まったくないし。


 ただ――ハイドラの言い分には、ちょっと納得している。


 ゼットをよく知るコードが獲物を選び、ハイドラの選択に何も言わなかった。


 つまり結果だけ見れば、ハイドラの選択は「ゼットなら不自然ではない選択だった」と言えるのは、間違いないだろう。


「それと、今の内に一つだけ言っておきたいことがあるの」


 と、ハイドラはテーブルの上に手を組み、上半身を寄せる。


 真剣みを帯びた青い瞳で、俺とセリエ、もう話に飽きたのかあくびをしているシロカェロロを見る。気ままな犬である。あ、狼でしたっけ。



 何を言うかと少々身構えてしまったが――


「――この仕事、裏切りの気配がする。心の準備と覚悟はしておいた方がいいかも」


 身構えてよかったというべきか……しかし歓迎しない言葉が飛び出した。





 狭い路地にひしめく二十名を超える若者たちは、しかし静まり返っていた。


 やや夜も更けてきた、星明かりも届かない暗い場所。

 貧民街の名もなき一角である。


 ここまで人がいるのに話声一つ、物音一つ立てないという、何かしらのプロ(・・・・・・・)という様相の連中である。


 見た感じでは、やはり目立たないような服装や、暗闇に紛れるような暗い色合いの服を好んでいるようだ。


「――待たせたなぁ」


 マリオンことパチゼットは、彼らの前に無造作に置かれた木箱の上に昇る。


 と、静かなままではあるが……なんというか、彼らの感情が騒ぎ出し始めた。


 彼らがパチゼットに向ける感情は、憧れであり畏怖であり、また殺気でもある、のかな。

 ただの仲間、という言うには、ちょっと剣呑な空気を感じる。


「――これから奪いに出んぞぉ」


 コードの「色彩多彩(カラフルカラー)」でタトゥーを「再現」し。

 キーピックの個人指導と本人の衣装の貸し出しで、服装も口調も雰囲気もそっくりになったマリオンは、本当にゼットそっくりに仕上がった。


 まあ、本人曰く「まだまだ付け焼刃もいいとこだけどね」とのことだが。


 そして、そんなパチゼットを筆頭に、コードとキーピック、俺たち助っ人組が彼の後ろに並ぶ。


 ちなみに俺の髪 (正確にはカツラ)の色と、セリエの髪の色と髪型、シロカェロロの体毛の色も変えてもらっているし、シスター・ハイドラはシスター服に似たワンピースに着替えて印象を変えている。


 色が変わるだけでも結構違うんだよね。


 特にシロカェロロなんて、真っ白な狼だったのが真っ黒な狼になっている。

 見たままに「なんか邪悪な感じするね」と言ったら、少しシッポを振っていた。本人的にはなかなかお気に入りの変装になったようだ。


 それに、ハイドラだ。


 ハイドラって長い金髪だったんだな。

 いつもベールを被っていたので、これまで見たことがなかった。


「――場所は幽呟(ゆうげん)の谷だぁ。遅れた奴には分け前ねぇからなぁ。――行け」


 パチゼットの言葉を合図に、彼らは静かに散っていった。


 ……はあ。


 さっきまで何十人もいたとは思えないくらい静かに、そして素早く消えてしまった連中を見て、思わず溜息が出てしまった。


 あれが本物の盗賊団、と言っていいのかな。

 やっぱり堅気とは全然違うんだなぁ。


 正確に言うと、彼らは貧民街に住む犯罪者集団なんだよな。

 でもってゼットがそのリーダーなんだよな。


 いつも何してるんだろ?

 略奪や盗み以外の仕事もしているのかな?


 ……いや、深入りは禁物だ。

 俺が関わるのは今回限りで、それ以降は他人でしかない。


 そもそも犯罪行為とかしたくないし、しちゃダメだろ。捕まるし。そんなことするために鍛えてきたわけでもないし。


「楽しみね」


 あ、言った。

 ついにはっきりウキウキの心情を口に出して言った。


 ほんと、ハイドラさんは楽しそうでいいですね。





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