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259.メガネ君、勧誘の席に着く





 コードとの話がまとまったので、ブラインの塔に戻ってきた。


「――キーピック、寝てたね」


「――あの状況で寝られるってすごい度胸よね」


 いくら会話・交渉は人任せで特に口を挟む間がなかったとはいえ、四人が座るテーブルで、まさか船を漕ぎ出す者がいるとは。


 彼女は気を抜きすぎである。


 まあ、本当に寝ていたかどうかはわからないが。

 もしかしたら気が抜けている態度を見せることで俺たちの油断を誘う……考えすぎだな。深読みが必要な相手って感じではないし。


 というか、アレはなんか、ちょっとだけ、姉と同じで人のことなど気にしない我が道を行くタイプな感じが、……彼女の名誉のためにこれ以上はやめておこう。姉以上のアレなどこの世に存在しないし、してはいけない。


 まあ、とにかく。


 すでに貧民街は危険に晒されているので、一日も早く作戦を動かさなければならない。


「マリオンはもう声を掛けてるんだよね?」


「ええ。すでに返事も貰っているから」


「彼女の『素養』、俺は見たことないんだけど」


「すごいわよ。楽しみにしているといいわ」


 そうか。

 楽しみにしていよう。


 そんな話をしながらブラインの塔に入ると、一階の食堂にはまだ誰の姿もなかった。

 結構話し込んだと思うが、まだ昼食の時間になっていないのだ。


 まあ、じきに座学も終わり、皆が下りてくるだろう。

 それまではここで待ちだ。


 その前に話しておくことと言えば――


「マリオンを抜かして、二人声を掛けるんだよね?」


「そのつもりよ」


 暗殺者チームからあと二人、今回の仕事の手伝いに確保するつもりだ。


 なお魔物狩りチームは雑な人が多いので、こっちは最初から除外している。


 実力的には入れたい人も多いんだけど。

 俺なんかより、よっぽど入れるべき人もいるし。


「セリエとシュレンだっけ。セリエは大丈夫だと思うけど、シュレンは誘える?」


「声を掛けてみないとなんとも言えないわね。ただ、あれで人付き合いは悪くないみたいよ」


 へえ。そうなんだ。


「エイルの方がよっぽど付き合いが悪いと思うわ」


 あ、そうですか。

 別にいいですけど。


「そんなにかわいいのに」


 ありがとう。

 でも全然嬉しくないし、かわいいは関係ない。


 ……あ、やっぱり今のうちに変装解いとこう。いくら何人かにはバレているとはいえ、あんまり人に見せたい格好ではないし。





 いったん孤児院に引き返し、「メイドのエル」からいつもの俺になって、再び塔に戻ってきた。

 その頃には、座学を終えた候補生たちが降りてきていた。


 昼食を済ませたら、午後は自主訓練の時間である。

 一旦はここに集まるのだ。


 そしてこの時間を狙って、俺とハイドラは戻ってきたと。

 更に言うと、すでにハイドラは、マリオンとセリエとシュレンを呼び寄せ、同じテーブルに着いていると。


 ここで話をまとめて、夜にはゼット不在を埋める作戦――題してゼット身代わり作戦を動かす予定である。


 この場で人員を確保できれば、このまま作戦会議に入ることになるが、どうなることやら。


 すでにハイドラが話を始めているテーブル、邪魔をしないよう無言で空いた椅子に腰を下ろし、途中参加する。


 皆が一瞥したが、何も言わなかった。


 いいね、暗殺者チーム。

 魔物狩りチームだったらいちいち口を出しそうなのが四人か五人くらいいるよね。 


「――というわけで、手伝ってほしいの」


 マリオンはすでに話が通っているので特に反応はないが、セリエとシュレンの反応もなかなかである。


 二人とも、感情や反応が顔に出なかった。


 セリエなんかは気が抜けたところとか馬車で酔ったところとかたくさん見てきたが――こういう「仕事の話」ではさすがに緊張感が違うな。ピリッとしている。


「エイル君も手伝いを?」


 ん? 俺?


「ええ。快く手伝ってくれるそうよ」


 快くはないです。師匠命令です。


「だったら私も乗ります」


 ちょっと待って。


「なんで俺がいたら参加するの?」


 俺は口出しする気はなったが、さすがに気になった。

 セリエの返答のしかたには、不満はないけど疑問がある。


「エイル君が付き合ってもいいと思える話なんでしょう? だったら結果が悪い話でも、時間の無駄になるだけの話でもないんだろうなって」


 ……まあ、確かにどっちも違うとは思うけど。


「俺の判断なんて信じないでよ」


「今更ですね。村での生活を見てきた私からすれば、エイル君は誰よりも信じられます」


 ああ、そう。……そう。


 …………


 期待と信頼が重いなぁ……


「シュレンはどう?」


 セリエの確保は確定したので、ハイドラは返答待ちのもう一人に視線を向ける。


「……」


 彼は首を横に振り、立ち上がった。


「日中の活動は駄目だ」


 あ、しゃべった。


 彼はそれだけ言い残し、テーブルを離れていった。


 …………


 シュレンの気持ち、わかるなぁ。


 俺もできることなら、薄暗い夕方から夜辺りに動きたいよ。

 人目に付かず、人知れずさ。


「ん? 夜動けばいいんじゃないの?」


 マリオンがそんなことを言うが。


 シュレンを追いかけなかったハイドラが、間髪入れず言葉を発した。


「ゼットの存在を見せつけるための作戦だから、無駄だろうってくらいに存在感を誇示するのが前提なのよ。

 だから、日中堂々とっていうのは、ほぼ確定しているの」


 そうなんだよね。

 今回の馬車強襲は、むしろ目立たないといけないんだよね。

 

 ……なんだよ、犯罪行為を堂々とって。そういうのはこそこそやるものだろ。俺がシュレンの立場でも断ってるよ。





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