表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
259/469

256.メガネ君、楽しそうでいいなぁと思う





 今朝のことを振り返り、そして今、ハイドラと悪いことを考えているわけだが。


 色々と疑問はあるが、最大の疑問は、なぜハイドラが動いているかである。


 クロズハイトの貧民街が危機だと言うなら、候補生ではなく教官たちが動く案件だろうと思うからだ。


 理由はもちろん、機密保持のため。


 貧民街にある孤児院の地下には、ここブラインの塔に至る転送魔法陣があり、誰でも使用できるのだ。

 一応決まった使い方をしないと起動しない造りだが、簡単なやり方なので、偶然あるいは少し考えればわかりそうなものだし。


 まあそれよりは、無関係な者の利用者ではなく、転送魔法陣が破壊される方が困るかな。


 あの手の魔法は、遠い昔に歴史に埋もれたと言われている。

 今は、昔から残っているものを利用しており、決して新しいものは生まれないし、壊れれば二度と使用はできなくなるそうだ。


 魔法のことはさっぱりわからないが、俺はそう聞いている。


「――ある意味、消去法ね」


 なぜ教官たちではなくハイドラが動いているのか。


 そう問うと、ハイドラは紙面に走らせるペンを止めることなく、さらりと言ってのけた。


「だって教官たちが動いたら死人が出そうなんだもの」


 …………


「殺し?」


 あの人たち、暗殺者だもんね。

 仕事はあんまりないと言ってはいても、それでも紛れもなく本物だからね。


「恐らくね。


 私も最初は、あの人たちに任せるつもりで相談したの。

 訓練だってあるんだし、私だって厄介事に時間を取られている余裕はないもの。


 ただ、お手伝いくらいはしたかった。

 これも経験だから。


 だから教官たちが裏で指示を出して、私が実行しようと思っていた」


 そうか。

 ハイドラは実行犯役を買って出ようと思っていたわけか。


「そこでエイルにも手伝ってもらいたかった」


 …………


 まあ、孤児院が関わるなら、仕方ない。

 ソリチカ教官の命令じゃなくても、事情を聞けば渋々合意はしただろう。


「でもヨルゴ教官、私が相談したらなんて言ったと思う?」


「えっと」


「――『何人か始末すればすぐに収まるだろう。手伝いは不要である』よ?」


 おい。


 ちょっと考えてたんだけどなぁ。

 俺の返事を聞く前に答え言うなら、最初から聞くなよ。


 ――いや、それよりだ。


「それは本当に殺す気じゃない?」


「私もそう思った。だから私が主導で動きたいって咄嗟に」


 ああそう。

 咄嗟に言っちゃったと。


「いくら殺人が珍しくもない無法の国クロズハイトでも、殺人はよくないと思うの」


「そうだね」


 綺麗事を言うつもりはないけど、殺されなきゃいけないほど悪い人って、そこまでいないだろ。

 だから暗殺者たちの仕事がなくなったのだろう……と、俺は思う。


 実際問題、殺したいほど憎い人がいたところで、実際殺すかどうかは確実に違う話だからね。

 実行するかしないかはすごく大きいから。


 で、今回の場合だと、「孤児院に害を与えそうな人を始末する」わけでしょ?


 まだ害を与えていない人を、先制攻撃するんでしょ?

 しかもその先制攻撃で殺しまでしちゃう気なんでしょ?


 綺麗事を言う気はないけど、さすがにひどすぎませんかね。

 ハイドラが咄嗟に方向転換したのも理解できる。


「それに、実は私も相談された方でもあるから。依頼人の意向もあるのよ」


 ん?


「依頼? 誰に?」


「コートとキーピック。ゼットの仲間ね。あの人たちとはちょっと縁があってね、よく孤児院に来るのよ」


 ……ああ、キーピックは知ってるかも。


 俺がメイドのエルとしてクロズハイトで活動していたあの頃、孤児院を訪ねた時に絡まれたっけ。

 あの時絡んできた帽子の女の子だよな。


 確か自己紹介もしたはずだが……なんだっけ?

 鍵がどうこうって感じの二つ名というか、あだ名みたいなのを言っていた気がするけど。


 うーん……さすがに覚えてないな。


 ――ちなみにそのあとセリエに会い、ハイドラと初めて顔を合わせたのだ。


「貧民街を守るために手伝ってほしいって。できるだけ穏便になんとかしたいとも言っていたわ」


 そうか……なるほどね。


 つまり、ハイドラが貧民街の危機を知ったのは、ゼット不在で困っていたゼットの仲間たちからの相談だった。


 ハイドラは教官に相談し解決を試みたが、依頼人であるゼットの仲間からの「できるだけ穏便に」という部分で引っかかるので、教官には任せず自分でやろうと決めた。


 で、俺が巻き込まれた。


 ここまでの流れを簡単にまとめると、こんな感じだろうか。


「何人か始末したところで、根本的な解決にはならない。

 私がやろうとしていることも、ただの延命措置にすぎない。


 でも、やらないよりはいいと思う」


 うん。


「そうだね。少しでも長く平和が維持できればいいよね」


「でしょ? そうでしょ? じゃあ早く計画を練らないとね。それにあと二、三件はやらないと印象が――」


 …………


「えっと、教官に任せると人が死ぬから、仕方なくハイドラがやることにした、って認識でいいんだよね?」


「ええ、まあ、そうね」


「その割には楽しそうだね」


「そんなことないわよ?」


 なんかいつもより声が高いけど。俺の母親が外で奥様方と会った時のように。あとなんか早口だし。


「浮かれてるよね? 明らかに浮かれてるよね?」


「そんなことないわ。それより目標は無血襲撃でいいわよね? いいわよね?」


 …………


 楽しそうでいいですね。

 俺は全然楽しくないけどね。





 夜遅くまで馬車襲撃作戦を話し込み、翌日。


 俺とハイドラは一時ブラインの塔から離脱し、朝から孤児院に戻っていた。


 ――これからゼットの仲間と相談するのだ。





コミック連載が始まりました。


「コミックアース・スター」で検索してね!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ただの犯罪を楽しんじゃダメだろヽ(`Д´)ノ と、初の嫌悪感を感じながらモヤモヤ読んでます。 でも、国にとっての必要悪をするのが暗殺者稼業か。 初めて、このキャラたちを違う世界なんだなと実感(-.…
[良い点] ハイドラがすっごく楽しそうで良いですね。こっちまで楽しくなってきます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ