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246.ゾンビ兵団討伐作戦 1





「――以上で確認を終わります」


 これも恒例となりつつある、三度目の作戦確認が終わった。


 リオダインがリーダーの時は、よく確認をする。

 些細なミス一つで全てが失敗することを知っているからこそ、である。


 くどいようだが、これで失敗する確率が減るのであれば、何度してもし足りない。

 慎重なリオダインはそう思っている。


 まあ、責任者を任されて本人が上がっている、というのもあるが。

 何度経験しても、まだ慣れていないのだ。


「それじゃ各自持ち場について」


 リーダーが若干上がってるなーというのを見抜いている副リーダー・エイルが、普段通りの態度で全員に指示を出す。こっちは全然上がっていない。


 時間の都合上、確認するのはこれが最後だ。


 陽が傾いてきている。

 もうすぐ決行と決めている時刻になる。


 都合三度の作戦確認を経て、全員が自分のやるべきことを理解している。


 確認作業自体の有用性は別として、なぜかこのチームは、確認作業をするほど士気が高くなる傾向にある。


 各々の性格から来るのか、それともリーダーや仲間のためにがんばろうと奮起するのか。連帯責任という己が追う責任と役割を自覚しているからか。


 理由はどうあれ、それぞれがやる気に満ちた顔をしていて、エイルの指示に従って即座に動き出した。


「――ねえエイル」


 パラパラと散っていくメンツの中、残っていたリッセがエイルを捕まえる。


「結局サッシュと私、交代しなくていいの?」


「……」


 何気に、名前が挙げられたサッシュも残っていた。顔色が悪い。真っ青だ。


 エイルは二人を交互に見て、口を開く。


「俺としてはこのままがいいけど、実際どうなの?」


 ――問題が発覚した。


 昼から罠の設置やら何やらと走り回ったエイル、リッセ、サッシュの三人だが、サッシュに問題が発覚した。


 彼は、ゾンビがダメだった。


 慣らす目的もあり昼から同行させたものの、サッシュは近くでゾンビを見た瞬間から、強い拒否反応を示した。


 不死者系が苦手、という者は珍しくないそうだが――


「どう見ても平気じゃないでしょ。誰が見ても顔色悪いよ?」


 リッセの言う通り、確かにサッシュの顔色は悪い。しかも表情も暗い。


「――もう一度言うけどよ、ベテランの冒険者の中にも不死者が苦手って連中も少なくねえねんだ。そんなおっさんどもなんて、正直バカにしてたんだけどよ……


 俺が悪かった。あれは俺も無理だ。どうしても怖ぇんだ」


 いつも意地を張って突っ張っているチンピラが、まさかの泣きを入れたのだ。


 しかもこれで二度目の言い訳である。

 ゾンビを目撃した直後に一度、そして今である。


 ちょっと時間を置けば落ち着くかと思ったものの、この期に及んで本人的にもダメな方向を向いたままのようだ。


 そういえば、と、エイルにも心当たりがあった。

 ブラインの塔に到着する直前のことだ。


 孤児院でブラインの塔のことを聞いた時、フロランタンから出てきた死霊を見て、サッシュは気絶したのだ。

 フロランタンが「し、死んでる!」と言った、あの時である。


 その後、あの件に関しては何の音沙汰もなかったが、エイルがなんとなく察したところ、サッシュはあの時のことをすっかり忘れていた。


 自分がなぜ気絶したのかもわからず、知らない間に寝ていて起きたら自分の部屋だった、という認識になっている。

 きっと脳が記憶することを拒否したのだろう。


 ――個人的に「記憶を失い気が付いたら知らないところで寝ていた」という経験があるエイルだけに、サッシュを責める気なんて一切湧かない。むしろ共感する部分が大きい。


 この分だと、元から不死者が嫌いだったとか苦手だったというわけではなく、今回で発覚したという感じか。


 しかも過去の出来事を振り返れば、気絶しているという事実がある。

 気絶までしたとなると、単純に嫌い苦手という話ではなく、不死者に対する抵抗力のようなものが低い体質なのかもしれない。


「確かにこのままじゃ危ないかもね」


 作戦中にサッシュが恐怖に飲まれたり、気を失ったりしたら、命に関わってくる。


 ゾンビに追いつかれたら終わるかもしれない。

 絶対に追いつかれない人選をしたつもりだが、今のサッシュに満足な追いかけっこができるかどうか、怪しいものだ。


「サッシュ、こういう物があるんだけど」


 と、エイルは小さな瓶を取り出した。


「聖水だよ。これを振りかければ、たぶん一時的に耐性が上がる。君の場合は心理的に楽になるんじゃないかな。

 これを使うことを前提に、もう一度だけ聞くけど。


 リッセと代わる? それともがんばる?」


 サッシュは……表情も顔色も悪いまま、瓶を手に取った。


「……まず試したい。もし無理そうなら代わってくれよ、リッセ」


「私はいいけど……」


 今回リッセは責任者ではないので、役割を変更する権限がない。

 二人の視線は、自然とエイルに向けられる。


「いいよ。俺からリオダインに言っておくから」


 リオダインはすでに、沼地の方に移動している。

 なので副リーダーであるエイルは、リーダーの代わりにそう判断した。


 このままだと失敗の種としては大きすぎる。


 今回の作戦は、サッシュを使うことを前提にサッシュを組み込んでいる。

 だが、リッセなら代わりもできるだろう。

 いざという時は「闇狩り」もあるので、今のサッシュよりは有効かもしれない。


 リスクを回避するなら、この変更はやむを得ないと思う。


「とにかくもう動き出しているから。俺も定位置に行かないといけないし、変更するならするで二人で決めてほしい」


 予想外に一仕事増えた。


 エイルはこれからリオダインと接触して、サッシュとリッセの役割に変更があるかもしれないことを告げ、それから予定の場所に行かなければならない。


 そして、ここから先は、変更されるのか否かを知る術がなくなる。


 作戦が動き出したら、完了まで止まることはないから。





 エイルはリオダインに、サッシュとリッセの変更があるかもしれないことを告げると、所定位置へ向かう。


 彼が向かう先は、ゾンビが蔓延る林の中である。






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