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245.メガネ君、ゾンビ兵団討伐作戦を決行する





 作戦会議から明けた翌朝。

 リーダーであるリオダインは、朝食の席で全員に通達した。


「今日の夕方、ゾンビ兵団討伐作戦を始めます」


 まだ突っ込んだ話はしないので、食べながらである。


 借りている家では狭いので、家の前に借りて集めた木箱だのタルだの薪だので家具を代用し、無理やり全員で食卓を囲んでいる体となっている。


 なお、メニューは堅いパンにスープという、簡単だがとてもうまいベルジュ特製の朝食だ。

 腹に入れつつ、全員でリオダインの話を聞く形である。


 まあ、一部食事に夢中で聞いていないような輩もいるが。

 でもまだ大事な話はしないので、今はいい。


 ――ちなみに教官たちは、今はたぶん家の中で朝飯を食っていると思う。屋内のことなので確かなことは言えないが。


 課題はあくまでも、俺たちでこなさなければならないものである。

 討伐に取り組む時も同行はしない……が、まあたぶんどこかで見張ってはいるのかな。本当にもしもの時は割って入るために。


 今のところはその機会もなかったから、確証はないけど。


「夕方までに作戦の概要と説明、段取り、それぞれの役割を話すから、しっかり記憶してほしい」


 これまた一部記憶力に不安がある者もいるが。

 でも最悪、己のやることのみ覚えてくれればいい。


 もっとも、それぞれに役割を説明した段階で、己が取る行動の意味がわかる。

 意味がわかると、簡単な流れくらいは憶えてくれるんだよね。自然と。


 記憶するのは困難なものもあるけど、記憶する事柄を理解する度合いで、物覚えの幅がかなり違ってくる気がする。個人の感想だけど。


「そういや、ソリチカ先生と0点の会話がちょっと聞こえたんだけどよ」


 と、ハリアタンが俺を見ながら言う。


「武器を使わないで勝つとかなんとか言ってたよな?」


 ああ、村に来る途中に話したアレか。


「え? 使わねえのか?」


 新しい槍を使いたくて仕方ないサッシュが微妙な顔をするが、安心してほしい。


「完全にうまく行けばの話だよ。でも早々完全にうまくなんていかないから。きっと武器の出番があると思う」


 まあ、ない方がいいとは思っているけど。

 あくまでも理想、あくまでも目指す場所ってだけだからね。


 武器を使う状況って、やっぱりリスクが発生するからね。

 どんなに低確率であっても危険度は0にはならない。

 戦う以上は、絶対に安全なんてことはないから。


 ――だから、戦わずに勝てたらいいと思うわけで。


 無用なリスクは極力減らしたい。

 そのための作戦だから。


「朝食を食べたらすぐに作戦の説明をするから」


 作戦決行は、今日の夕方。

 昨今の日の短さを考慮すると、これから半日もないだろう。


 今日の俺の予定は、作戦の説明を聞いて、全員が理解したことを確認した上で罠を張りに先行し、作戦決行時刻に後発と合流という流れになる。


 結構忙しいんだよね。

 それに、リオダインたちには話せないけど、やらなきゃいけないこともあるし。 


「――ところでみんなは、ゾンビとか平気? かなり不気味らしいけど」


 だよね。

 色々問題はあるけど、まずはここからだよね。


 いくら暗くなる頃に作戦決行とはいえ、腐った死体 (にそっくりな魔物)を目の当たりにするのだ。


 昨日、俺もちゃんとじっくり見た。


 なかなかの衝撃だった。

 森で腐乱死体を見て耐性を付けていなければ、恐怖心に支配されていたかもしれない。


「…………」


 ゾンビの話題が出ると、昨日しっかり精神をすり減らし耐性を作ったトラゥウルルが、虚ろな瞳で一点を見詰め出した。

 なんという生気を欠いた顔だろう。

 彼女にとっては、思い出すだけでシッポがぶわっと膨らむくらいの衝撃だったらしい。


 ほかにも苦手って奴がいてもおかしくないと思う。

 この辺はもう、男だ女だ関係ないからね。あれはかなり怖いから。俺だって決して見たいとは思わない。


「そういや近くで見たことはねえな」


「俺もだ」


 サッシュとハリアタンは、そもそも遭遇例がなかったと。昨日遠目で見ただけか。――それは不安だな。特にサッシュが。


「魅惑的なあばら肉(スペアリブ)に、発酵した肉だったな」


 ベルジュは料理から離れろ。……あいつはまったく平気そうだな。


「ゾンビっちゅうか、死人や死体や死霊や悪霊なんぞは見飽きとるけぇのう」


 ああ、フロランタンは見えるらしいからね。ゾンビっぽい霊も見てきたのだろう。……フロさん昨日しばくって言ってた件、もう忘れた? ぜひ忘れたままでいてほしいです。


「もう全然どうでもいい」


「ウルル?」


 普段とは違いすぎる、感情のない硬質で低い声でトラゥウルルが呟く。

 隣のフロランタンが心配そうに見るほどに、違和感がある言葉と声であった。


 彼女も平気そうだな。

 ……昨日ちょっと心に傷を負ったかもしれないけど。


 まあ、課題に差し障りがなければいいか。


「ちゃんと見てない人は、一度慣らしといた方がいいよ。結構きついから」


 リッセは今回で二度目の遭遇らしいけど、改めて見るとやっぱりきついと感じたようだ。昨日一緒に見たからね。


「じゃあ、サッシュとハリアは見ておいてね。特にサッシュは作戦に関わるから、ちゃんと慣らしておいてほしい」


「あ? 作戦にか?」


 うん。

 やっぱり「最速」って、作戦に組み込みやすいからね。





 午前中みっちりと全員に作戦の概要と内容を叩き込み。


 午後から、俺は罠を張りに一足先に村を出た。


「最近あんまりなかったメンツだな」


「そうね」


 確かに。言われてみればそうだね。


 先行するのは、俺とリッセ、サッシュの三人。

 疲れない程度の速度で走りつつ、移動している最中である。


 暗殺者の村からの付き合いだが、塔で合流した他の班の面々も加わり、あの時のメンバーだけで動くことはかなり少なくなっていた。


 フロランタンなんかは同じチームなので接点も多いが――


「セリエとはあまり話してないかな」


 まだセリエとはぎくしゃくした関係が続いているリッセが、そんなことを言った。


「向こうのチームでうまくやってるみたいだよ」


 ゾンビ兵団のことを調べる時に、俺は結構話した。特に変わりなく元気そうだったけど。


「俺は相変わらず世話になってるぜ。いつかちゃんと礼をしてえな」


 あ、サッシュは訓練で怪我をした時は、遠慮なくセリエに治療を頼んでいるみたいだからね。


 今となっては、あの村から出てきたメンツの中で、彼女と一番接点があるのはサッシュかもしれない。


 …………


 そうでもないか。


 塔の食堂で、フロランタンと一緒に飯食ってる姿はよく見るし。

 というかフロランタンやトラゥウルルは、何かと理由を付けてはクロズハイトに買い出しに出て、ついでに甘い物を食べているとか噂で聞いた。ほかの女子たちをよく誘っているみたいで、その中にセリエも時々加わるとか。


「いつかまた、あの村のメンバーで狩りとかしたいね」


 ……まあね。

 機会があるかどうかはわからないけどね。


 なんとなくしんみりしてしまったが、そんな空気はすぐに青髪が吹き飛ばしてしまった。


「それにしても簡単な作戦だな。うまくいくのかよ」


「確かに簡単だね。大掛かりではあるけど」


 でもね、サッシュ。


 簡単だと思うのは、優秀な人材が揃っているから言えるんだよ。

 優秀な人材が揃っているからこそ、簡単な作戦でも充分やれるんだよ。


 これがあたりまえだとは思わない方がいい。

 俺だって、こんなに粒ぞろいな仲間たちと一緒に狩りができるなんて幸運、人生にそうはないと思うし。貴重な体験だと思うし。


 本当に、得難い大事な経験をしていると思う。

 今この時間を大切にしたいものだ。





 そして夕方となり、ゾンビ兵団討伐作戦が始まる。





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