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237.メガネ君、ゾンビ兵団討伐に向けて出発する





 まだ空も薄暗い早朝、塔の前には教官三名と暗殺者候補生十四名が揃っていた。

 教官を含め、全員が旅支度を済ませている。


 いつもなら、自主訓練として森を走っている時間である。

 教官に言われたわけではないし、誰が言い出したわけでもないが、気が付けば全員が走っていた。


 やっぱりこれが基礎だと、全員わかっているんだと思う。


 俺も痛感した。

 やっておかないと付いていけなくなる、と。


 人によって違うと思うけど、俺の場合は。


 早朝に走って朝飯を食って座学を受けて、昼飯食って午後も訓練。

 夕飯のあとは、運動量が足りないと思えば身体を使う訓練をするけど、だいたい本を読んでいるかな。まだ「素養」について調べたりないから。

 塔での生活は、だいたいそんな感じである。


 それと七つの秘術に関しては、実はまだ習ってないんだよね。


 時期を見て集中的に教えるとかなんとか言っていたけど……

 もしかしたら冬、外で訓練するのが非効率的になってきたら、始めたりするかもしれない。


 ――と、いつだったかハイドラとリオダインと一緒にいる時に話題に上り、一応そんな結論に至った。実際はどうだかわからないけど。


 まあ、それはさておき。


 今は秘術より、これから行う課題についてである。

 ここから先は訓練ではなく実践だ。


 一時たりとも気を抜いてはならない、と俺は思う。


 昨日から、真新しい槍を見せびらかして自慢している浮かれたサッシュでさえ、ここに至っては気を引き締めている。


 俺にも自慢してきたからね。昨日。塔に戻ってから。

 まあ……ちょっと気持ちはわかるけど。


 本当にいい槍だと俺も思ったから。

 タツナミじいさん、やっぱりすごい人なんだと心底思ったから。


 他人事の俺でさえそう思うのだ、本人からすれば俺の比じゃないほど気に入っているはずだ。

 もしかしたら一目惚れしたかもしれないし。


 わかるわかる。

 俺も黒皇狼(オブシディアンウルフ)の牙のナイフに一目惚れしたから。


 だがしかしだ。

 

 このまま行くと、あの白く美しい槍を使う一番最初の獲物がゾンビになりそうなんだけど、サッシュはそういうの気にしないのかな。

 激しく腐った腐肉的なものを貫くことになるんだけどいいのかな。


 新しい武器を使って一番最初に狩る獲物って、結構記憶に残るもんだけどね。


 あれだけ浮かれて気に入っているなら尚更だ。

 絶対に深く記憶に刻み込まれると思うんだけどね。


 まあ、そういうのを気にするタイプでもないかな。サッシュだし。


「――注目!」


 元々整列して教官たちを待っていた俺たちに、ヨルゴ教官は声を張り上げる。


「これよりゾンビ兵団討伐の課題を始める! エヴァネスク女史より説明がある、心して聞くように!」


 言わなくても最初から聞く体制はできていますけどね。

 課題自体が初めてじゃないので、こっちもこの辺の導入には慣れている。


「チーム毎に向かう場所が違うので、この場で二班に別れる。

 魔物狩りチームは私とソリチカ教官が、暗殺者チームはヨルゴ教官が先導することになります」


 教官の割り振りは違うけど、流れはいつも通りだな。


「なお、遅れた者やついて来れなかった者は置いていくので、適切な速度で付いてくるように」


 これもいつものことだ。


 ……そういえば、朝の走り込みを始めた者が増えたのは、一番最初の課題が終わった直後からだったな。


 一度経験すればわかる。

 ちょっとでも速度が落ちれば、あっという間に置いていかれるのだ。

 俺も何度か教官たちの背中を見失った。


 結局なんとか追いつけたけど……あれはひどいよね。危機感が生まれるよね。


「それと暗殺者チームに一つ、言っておくことがある」


 ん?


「現地で一人、候補生が合流する。覚えておくように」


 え? 候補生が?


「――ハイドラ」


 なんの話だと疑問に思っていたら、ハイドラが挙手していた。

 エヴァネスク教官が発言を許すと、彼女は口を開く。


「もしやシロという方ですか?」


「そうよ。詳しくは道中ヨルゴ教官に聞きなさい」


 シロ?


 ハイドラの知り合い……というよりは、名前だけ知っているって感じだな。そしてハイドラ以外もやっぱり知らないって顔である。


 ――そんないつもと違う通達があったものの、あとはいつも通りの説明だった。





 日程は、行きと帰りの移動時間を併せて一週間前後。

 行く先の小さな村が拠点となり、足掛かりとなる。


 当然守秘義務があるので、誰にも内情を漏らさない。

 まあ、行って討伐して帰ってくるだけなので、いつも通り第三者に余計なことを言う間もないと思うけど。


「では出発します。まずは暗殺者チームから」


 いつも通りの説明が終わると、指示に従い暗殺者チームの面々がぞろぞろと動き出す。


 向かうのは転送魔法陣だが――実は行き先が違うのだ。


 どうやっているのかはわからないが、どうも転送魔法陣は行き先を変更できるようだ。

 課題の時に向かう先はクロズハイトではなく、どこか知らない場所になる。


 今のところ、場所が同じだったことはない。


 移動した先の場所は聞くな、と言われているのでわからないけど……恐らくは全部ナスティアラ王国のはずれ、領地と未開拓地の境目とか、その辺だと思う。


 このブラインの塔がある場所も、恐らくはそうじゃないかと思うけど……まあ、教官にも言われているので、あまり場所のことは気にしないようにしている。


 問題は場所ではなく、こなすべき課題の方だから。


「――帰ったら例の話(・・・)をしましょうね?」


 すれ違う時にハイドラがそんなことを言ったが、まあ、俺に話しかけたわけではないだろうから無視しておく。


 例の話?

 心当たりはないですね。


 というか諦めてくれませんかね。なんの話か知らないけど。


「当てにしているわ。エイル」


 …………


 あ、今だけ何も聞こえなかった。

 名前を呼ばれた気がしたけど気のせいだろう。うんきっとそうだ。


 例の話?

 心当たりはまったくないですね。





 どこかへ消えたヨルゴ教官と暗殺者チームから少し遅れて、俺たちも移動を始めた。


 入り口はともかく、出口も孤児院の地下にあるあの部屋と変わらないが――


「……」


 部屋から出ると違う場所なんだよなぁ。


 塔周辺の空気とは違い、一層強い寒気に晒され身体が震える。

 そろそろ冬服の準備もしないとな……


 ここはどこだろう。

 どこかの洞窟の奥のようだが……この広さからして、人工的なものかな。


 俺と同様に面々が周囲を見回す中、エヴァネスク教官とソリチカ教官が歩いていく――壁に点々と魔法の光を設置しながら。


「――移動を開始する。遅れた者は置いていきます」


 立ち止まることなく言い出し、二人は走り出す。


 そして俺たちも、現状確認も程々に、教官たちを追って走り出した。





 前の課題では二日くらい走って移動だったけど。

 今回は何日くらい走ることになるのかな。





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