233.メガネ君、金を出せと迫る
「これでいいかな?」
リオダインの最終確認に、異議の声は上がらなかった。
よし、今度もすんなり決まったな。
これで作戦は立てられた。
――課題の発表があって三日目、俺たち魔物狩りチームはゾンビ兵団討伐に向けて作戦会議をしていた。
課題が出されたら、成否が問われるまで座学はなくなる。
早く座学を再開したいなら早く課題を済ませろ、ということだ。
数日ぶりに教室に集まり、この三日で俺とリオダインで考えた大まかな作戦を、ほかの連中に説明した。リオダインが。リーダーが。頼れるリーダーなので俺の出番はない。
いつもなら、ここから全員で作戦の擦り合わせを行うのだが――擦り合わせた結果、今回もあんまり話すことはなかった。
細かい部分を詰めたり、個々人が担う役割の質問があったりはするが、いつも大きく作戦が変更になることはない。
…………
まあ、メンツのせいもあるのかな。
考えるのが苦手というか、頭を使うことにはノータッチでいたい派が半数以上いるというか。
作戦立案に興味があるのは、俺とリッセとリオダインくらいしかいないというか。
暗殺者チームには頭良さげな候補生も多いと思うんだけど、こっちはどうも、頭を使うタイプが少ない気がする。
サッシュとフロランタンは、暗殺者の村時代から「おまえらに任せる」的な感じだったし。
ハリアタンも、やりたい意向はあってもあんまり意見は言わないし。
トラゥウルルも、作戦会議の時はいつも面倒臭そうな顔してるか、眠そうな顔してるか、フロランタンにちょっかいを出したり出されたりしてイチャイチャしてるかだし。
最近知ったが、ベルジュは料理や食材にしか興味がないみたいだし。彼は頭もいいはずなんだけど、そもそものスタンスが違いすぎるんだと思う。
うーん。
やっぱり、俺とリッセとリオダインしか、作戦会議には乗り気じゃないんだろうな。
……まあいい。
余計なことは考えず、今はゾンビ兵団討伐に尽力しよう。
さて。
作戦も決まったことだし、次は恒例の、問題の話題となる。
「――じゃあ集金します」
問題の話題を告げるリオダインの声を弾き飛ばすが如く、作戦会議では打っても響かなかった連中が即座に返す。
「ツケとけ」
「ツケとけや」
「にゃははーツケといてー」
「ツケで」
…………
やっぱり問題の話題だなぁ。
集金とは、課題と作戦に必要な道具類や消耗品を調達するお金である。お金を集めてクロズハイトで買い足すのだ。
一応毎回、課題が終わったら取り立ててはいるが……
サッシュ、フロランタン、トラゥウルル、ハリアタンの四人は、本当にいつも金払いが悪い。
たまにはすんなり渡せよ問題児ども。
取り立てる方も暇じゃないし、いい気分でもないんだぞ。
しかも買い出しは「作戦を詳しく知ってるリーダーに頼む」とか言って協力さえしないのだ。
正直、お金の代わりに一発殴っていいとか言われたら、そっちを選んでしまいそうだ。殴ったところでなんの得もないのに。ちょっと胸がすっとするだけなのに。……ちょっとすっとするだけでもいい気もするけど。
「あんたらいい加減にしなさいよ」
真面目なリッセは注意するが、問題児たちはどこ吹く風である。なんか怒られ慣れてる感があるのが腹が立つ。
「うちは金なんぞ持っとらんけぇ。金目のもんなんて可愛いお人形くらいしか……これでなんとかならんかの?」
「それを売るなんてとんでもない。しまって。早く。チラ見せしないで。ちょっとはみ出してるから早くちゃんとしまって。……だからチラッと出てるんだって!」
あんまり考えないようにしていたけど……フロランタンは順調に新作を作っているようだ……知らないでいたかったなぁ。
「いいわ。フロランタンの分は私が出すから」
そういうことなら俺も出すけど、その前にだ。
「――なんか狩ってくれば? 四人で」
作戦会議中は、全てをリオダイン任せにしていた副リーダーである俺だが。
いよいよ口を出さざるを得ない状況となったと判断した。
「クロズハイトで狩って売ればいいよ。魔物の一匹や二匹狩れば、今回の資金くらいは稼げるはずだから。
幸いクロズハイトではリッセの顔は知られてるから、リッセに売ってもらえばいい。すんなり取引できるし、手っ取り早くお金も作れると思うけど」
例の黒皇狼のナイフを造る資金繰りに、リッセは狩人として活動し、魔物を狩ってお金を稼いでいた。なお、ナイフはもうできている。
サッシュとハリアタンも、狩猟祭りで入賞したし、あの辺の魔物を狩るくらいなら余裕だろう。
――ちなみに賞金はすでに使い切ったらしい。簡単に使い切るなよ。
「狩りかぁ」
ハリアタンが腕を組む。
「……今更って気もするけどよ、0点はなんで狩猟祭りで棄権したんだ?」
え? 今更? 今更それ聞くの? このタイミングで?
「それよりお金の話しようよ」
「いや、だからなんで」
「うるさい金出せよ」
「…………」
「…………」
「…………もしかして怒ってる?」
怒ってるよ。
表には出てないかもしれないけど結構イラッとしてるよ。
口出しする気なかったのに口出しさせたし。面倒臭いし。すごく面倒臭いし。
「君らもだ。金を出せ」
「お、おい待てよ……発言だけ取ると完全にカツアゲだぞそれ……」
「にゃー……」
「お、おう……」
「――早く狩りに行けば? なんでまだここにいるの? まだ何かあるの?」
「冗談でもなんでもないから早く行け」という態度で見ていると、しばしの沈黙を経て、問題児たちは教室から出ていった。
まったく面倒臭い……あれ?
「なんでリッセはまだいるの? 早く行けば?」
「えっ!? いや私関係なくない!? お金出すし! なんで私にまで怒ってるの!?」
「うるさい早く行け」
「行かないよ! 行く理由がないってば! ……あ、あったな。……行くか」
うん。
あの問題児たちだけにしとくと、心配だからね。
あと獲物を売る仲介役は、やっぱり顔が知られている者がやらないと。クロズハイトではぼったくられるから。
…………
でも正直、リッセにまで怒る理由はなかったな。ついでで怒ってはみたけど。彼女には悪いことをしたな。
「エイルって怒ると怖いね」
そんなことないですよ。
心にやましいことがあったから彼らは自発的に動いたんだよ。
「それより道中の食料はどうする?」
ベルジュはブレないなぁ。
「――エイル」
あ、リッセが戻ってきた。
「副リーダーが同行するべきじゃない? あんたは私より一緒に行かないといけないと思うんだけど」
…………
怒って戻ってきたな。
どうやら理不尽に行かされそうになったことに気付いたようだ。
仕方ない。
俺も一緒に行って、魔物を探すのを手伝うか。
「――買い出し、後で合流するね」
リオダインたちと後で落ち合う約束をし、俺とリッセは問題児たちの手伝いに借り出されるのだった。




