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231.メガネ君、ゾンビについて考える





 1、死霊召喚士(サモングール)は魔術師の不死者のような様相だが、間違いなく魔物である。

 人間から変質した魔術師の成れの果て、というわけではない。

 ただの人間そっくりな死霊系の魔物である。


 2、死霊召喚士(サモングール)自体は戦闘力を持たない。ただゾンビを呼び出し続けるだけである。

 呼び出す行為に知的なものを感じるが、呼び出す行為や呼び出した後の行動には、なにか目的意識があるとは思えない。

 だが、生者あるいは生き物を無差別に狙い襲ってくる点は、一般に知られる魔物と同じである。


 3、そんな死霊召喚士(サモングール)だからこそ、彼の者が使役するゾンビも、人間の遺体ではない。

 朽ちた人間の身体にそっくりな魔物である。

 その証拠に、かなり小粒ではあるが、彼の者が呼び出したゾンビたちは魔核を有している。元が人間ならありえない特徴である。


 それから、ゾンビについて。


 この世に存在する死霊や不死者と言われる存在……大きな括りで死霊系というカテゴリーになるのだが。

 ゾンビは、その死霊系の最下層に位置する者だ。


 厳密に言えば、魔物ではない。

 ただの動く死体だ。


 だが死霊召喚士(サモングール)の呼び出すゾンビは魔物なので、それとはまったく別物である。





 ――というのが、図書室で俺とリオダイン、セリエ、カロフェロンの四人で調べた結果である。


「やっぱり問題は数だね」


 調べた通りなら、リオダインの言う通りである。


 死霊召喚士(サモングール)が使役するゾンビの数は、百から千くらい、か。

 振り幅が大きいなぁ。最大十倍も差異があるのか。


「そうですね……まさか最低でも百体はゾンビを呼び出すとなると、一人頭十体以上を相手にしないといけないですね」


 セリエはそんなことを言うが、彼女のような魔術師なら、遠くから魔法でバーンとやれそうな気がする。あ、それを言うならリオダインもか。対抗戦の砂嵐はすごかったし。


「エイル君はどう思います?」


 え? 俺?


「規模がはっきりしていないのも恐ろしいけど、何より問題なのは死霊召喚士(サモングール)がゾンビを呼び出し続けるという点だと思う。減った分増えるって話でしょ?


 突き詰めると、ゾンビどうこうじゃなくて死霊召喚士(サモングール)を仕留めるのを最優先しないと、課題は終わらないんじゃないかな」


 極論を言えば、ゾンビが何百何千体いたとしても、死霊召喚士(サモングール)さえ仕留めてしまえばいいのだ。

 本によると、術者たる死霊召喚士(サモングール)がいなくなってもゾンビは消えないらしいけど、そもそもゾンビは弱いからなんとでもなるだろう。


「……あ、あと……」


 猫背であっても俺たちより背が高い長身のカロフェロンが、か細い声を発した。


死霊召喚士(サモングール)が、どこにいるかも、問題だと、思う……」


 ――なるほど。そうか。


 言われて気づいたリオダインが本を捲るが、その情報は載ってなかったと思うよ。


「ゾンビたちの中に死霊召喚士(サモングール)はいるのか、か」


 俺は自然と、死霊召喚士(サモングール)はゾンビ兵団のど真ん中にいて守られている、と考えたけど、そうじゃない可能性もあるわけだ。


 いや、むしろ、そうじゃない可能性の方が高いかもしれない。


 死霊召喚士(サモングール)自体は戦う力を持たないそうだから、知能があるなら、むしろゾンビたちと一緒にいない可能性もあるわけだ。

 安全な場所を陣取ってゾンビを呼び出し続けて戦わせる――そんな厄介な戦法も取ったりするかもしれない。


 あくまでも可能性だ。

 だが、無視はできない可能性だ。


 思い切って襲撃しました。

 でも死霊召喚士(サモングール)は見つかりませんでした。


 かなり最悪の流れだ。

 ただ労力を費やし危険を冒しただけ、という結果になってしまう。


 ――しかしまあ、ここまでだろう。


「これ以上は話さない方がいいよ」


 調べるところまでは一緒だが、セリエとカロフェロンとは所属チームが違うのだ。


 ここから先の話し合いは、作戦立案に繋がってくる。

 相手が助言や意見を求めるならまだしも、作戦の相談をしてはいけない。それをやるのは同じチームの連中とだ。


「そうですね。ここから先はいつも通りやりましょう」


 本を本棚に戻し、俺たちは図書室を出た。





「ゾンビ、見たことある?」


 一階に降りてきた。

 これから、やや早めの昼食である。


 課題が出たので、今日は座学がなかったのだ。

 いつもは教室で教官の話を聞いている時間に、図書室で調べものをした。これから色々と考えなければならないが、それでも腹は減るし自主訓練はしたい。


 作戦の話をしながら食べようということで、同じテーブルに着いたリオダインから、そんなことを聞かれた。


「ないなぁ。というか死霊系自体、あんまり出会ったことないかな」


 記憶に新しいのは、ブラインの塔のことを確認する時にフロランタンの身体から出たアレだけど。

 アレ以上となると、記憶にはないかな。


「僕もないんだ。でも、ほら、人の腐った死体とか……でしょ? なんかちょっと怖くて」


 ああ、まあ、気持ちはわかるけど。


 ゾンビは、魔物ではない。

 魔物がゾンビになることはあっても、ゾンビ自体は魔物ではない。


 生前は人間だったり動物だったり魔物だったりもするが、ゾンビになる原因は呪いから発症した病気と言われている。

 噛まれたり引っ掻かれたりして呪いが体内に入ると、抵抗力の弱い生き物はゾンビ化するのだ。


 こうして呪いが広まっていくのだが……でもまあ治療法もあるので、特に問題はない。

 

 ゾンビは死体である。

 人間や動物は、死んだら血が固まり、身体もガチガチに硬直する。そんな身体で素早く動けるわけがない。


 つまり、動きは遅いし、脳も機能していないからただまっすぐ向かってくるだけという、いくらでもやりようがある存在なのである。

 だから弱い存在だと言われている。


 まあ、いろんな意味で戦いづらい相手だとは思うけど。

 リオダインのように、相手が死者と思うと忌避感がある人も多いんじゃないかな。しかも腐った死体である。できれば見たくもないよね。


「どうしても嫌なら、できるだけ近づかないようにする作戦でも考えればいいよ」


 何せ最低百体である。


 リッセ、サッシュ、ハリアタン、ベルジュ、トラゥウルルは近接戦闘が得意だが、さすがにゾンビ百体相手に真っ向からぶつけるわけにはいかないだろう。ああ、フロランタンも含んでもいいのかな。

 情報がない時ではあるが、リオダインが言った通りだ。


 かすり傷やゾンビ化の呪いは治せるけど、寄り集られて噛み殺される場合はどうしようもない。

 いくら一体一体が弱いゾンビでも、物量差というのは無視できる要素ではない。


 作戦とは、どれだけリスクを避けて大きな効果を生み出すかを考えるものである。

 その辺を加味して、なんか考えないと。

 




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