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227.メガネ君、次の課題を楽しみに待つ





 ブラインの塔での生活が始まって、しばしの時が流れた。


 ナスティアラ王国やクロズハイトでは、そろそろ冬である、はずなのだが。

 ブラインの塔周辺では、まだ秋口のような気温である。


 季節の巡りがややズレているようだ。

 転送魔法陣のおかげで移動は一瞬だが、実際はあの辺りとこことでは、相当距離が開いているのかもしれない。


 だが、教官の話では、ズレはあっても本格的な冬は来るらしい。

 なので座学、課題、自主訓練の合間に、暗殺者候補生たちは来たる冬に向けて支度をしたりして過ごしていた。





「――これで今日の座学を終了する」


 今日も、エヴァネスク教官のありがたい話が終わった。

 三人の教官たちは入れ替わり立ち替わりでほぼ毎日、面白い話をたくさん教えてくれる。すごくためになる話ばかりだ。


 先日の対抗戦から明確に分けられたチームは、今も継続している。


 魔物狩りチームである俺たち――俺、リッセ、サッシュ、フロランタン、ベルジュ、トラゥウルル、ハリアタン、リオダイン。


 隣の教室では、暗殺者チームも同じように毎日座学を受けている。

 ちなみにメンツは、ハイドラ、セリエ、シュレン、カロフェロン、マリオン、エオラゼルである。


 狼煙を回収する対抗戦では、一時移籍したリッセを除いて、あの時のメンバーと変わりはない。


 が、時々向こうのメンバーがこっちに来たり、こっちのメンバーが向こうの座学を受けたりしている。

 双方で、話す内容の傾向が違うので、興味のある座学なら参加していいと言われているのだ。


 そもそも教官が、「次はこういう話をするけどおまえ興味あるだろ?」的に勧めてくれたりもするからね。

 俺も何度か勧められた。


 まあ、行かなかったけど。

 お察しの通りすごく興味はあるけど、俺は暗殺の話はいいや。


 ――終わりを宣言されて気が抜けた候補生たちに、エヴァネスク教官は最後に告げた。


「明日、課題を出す。用事がある者は済ませておくように」


 あ、課題出るのか。

 座学も楽しいけど、課題も楽しいんだよね。





「次はどうする?」


 エヴァネスク教官が教室を出ていくと、リッセが俺たちに向けてそんな質問をした。

 意味を問うまでもなく、課題についてである。


 やはりリッセはリーダー格である。

 何度かの課題をこなしてきた今、彼女は自然とその座に着いてしまった。全員がそうであると認めたのだ。まあ順当だと思う。


 そして質問の内容は「次の課題のリーダーは誰がやる?」である。


 今のところ、課題はこのチーム全員でこなすものばかりなのだ。

 もしかしたらその内、個別や、二人だけ三人だけ、という括りでやることになるかもしれないが。


 リーダーになった者は、課題に向けて作戦立案と現場の指揮を執ることになる。

 俺としてはずっとリッセか、副リーダーのようにみんなの補助に努めているリオダインに任せておきたいのだが。


 しかし課題なので、できるだけ全員少しずつ役割を変えて対応するようにしている。


「そろそろこの俺の出番だろ?」


 ハリアタンがすかさず言うが、それに同意する者はいなかった。みんなするっと聞かないことにしたようだ。俺? もちろん俺も何も聞こえませんよ。


「はーい。リッセかリオがいいと思いまーす」


 いつも笑っているような顔をしている猫獣人トラゥウルルが手を上げる。賛成でーす。俺もそれがいいでーす。


「いや、あんまり同じ編成でやっても得るものが少ないからね。そうだ、ウルルやってみる?」


「やだー」


 リオダインの勧めに、トラゥウルルはぷいっと顔を背けて拒否した。可愛い。完全な猫だったらいいのに。


「おい。俺には聞かないのか?」


 うん。ハリアタンには聞きません。


「俺はこの前の課題でやったからな」


 そうだね。前の課題はベルジュがリーダーやってたね。


「じゃあ次は俺じゃね?」


 そうだね。次はハリアタンの順番ではないね。


「俺はパスな。自分のことだけで手一杯だ。忌子も別にやりたくないだろ?」


「おう、考えるのは任せるけぇ。われどもでうちらを使わんかい」


 サッシュとフロランタンも、やる気はないと。


「じゃあ――」


 …………


 全員が俺を見た。俺を見ている。いやいや待って待って。


「俺はリーダーなんて無理だよ」


「だよね」

「そうだろうね」

「だよな」

「じゃろうのう」

「チッ」

「だよねー」


 あ、そうですか。全員もうわかっているようで。何よりです。


「俺と違っておまえはできるんだからやれよ。やれんだろ0点」


 ハリアタンの中では、俺はすっかり0点という名前で落ち着いている。願ったりである。


「自分はやれないって自覚あったの?」


 彼とは表向きそんなに仲良くはしていないが、一緒に課題をこなしている内に、嫌でも打ち解けている部分がある。

 もはや名前同様、こういう表面上はそうでもなさそうという関係として、落ち着いてしまったのだと思う。


「うーん……やりたいけど性分に合ってねえとは思う」


 そうなんだ。ハリアタンって意外と自分のこと見えてるんだな。


「じゃあ今回もいつも通りだね」


 そう言って、リッセは話を締めた。


 ――課題の発表があってから決めよう、と。


 



 さて。

 次の課題で狙う魔物はどれになるのかな。


 すごく楽しみだ。






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