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215.メガネ君、明日の作戦を話し合う





「――これでいいかな……?」


 うーん。


「たぶん大丈夫だと思うけど、実際はやってみないとわからないからね」


 魔物狩りチームは夕食を終わらせ、俺とリオダインだけ居残りで話し合いを続けている。


 一階の広間には俺たちしかいない。

 時折外にある風呂へ、あるいは孤児院にある風呂へ向かう者が来るが、挨拶だけして素通りしていく。


 俺も風呂に入りたいのだが、話し合いが長引いている。

 もう夜もそこそこ深くなってきているのではなかろうか。


 暗殺者チームのメンツを考えると、まず正攻法は通用しない。容易に考えられる手段にはすべて対応してくるだろう。


 となると、これくらいのやや突飛な発想は必要になってくると思う。


 行動・探索範囲は広い。

 お互い、現地では皆散り散りになる。


 逐一リーダーへ報告し指示を受けることなんてできないので、最初から相手の想定を超えて行かないと、勝機はないと思う。


 となると、やはりサッシュがキーポイントとしか考えられないが……





「エイルも暗殺者の施設で育ったの?」


 ……ん?


「君も? 誰と一緒にしてるの?」


「エオラゼルと、ハリアタンと、カロンかな」


 ああ、リッセが育ったエリート施設か。セリエも途中まではそこにいたんだっけ。


「違うよ。君と同じスカウトだと思う」


 ちなみに彼の「素養」は「視え」ている。


 「大功ノ魔術師」という、かなり珍しい「魔術師の素養」である。


 詳しくは「素養」が載っていた本にも書かれていなかったが、確か局所的に得意な属性がなく、幅広くいろんな魔法を使えるとかなんとか。


 まあ、特徴だけなら器用貧乏なイメージはあるけど、実際どうかはわからない。

 そもそも本人から直接聞いたわけじゃないから、「その素養ってどういうの?」なんて聞くわけにもいかないしね。


「そうなんだ……違うんだね」


 なんで意外そうな顔をするんだろう。


「何かおかしいかな?」


「まあ、おかしいことは色々……あ、ごめん」


 いやそれはいい。俺も自分で多少変わってるかもなーくらいは思っていた。もしかしたら普通寄りの人ではないのかなと。あの姉がいつも傍にいたせいで特殊な育ち方をしてしまったのかもしれない。あの姉を避ける性格になったおかげで普通とは言い難い変な奴に育ってしまった感は否めないところもあるような、ないような。


 まあなんにせよ、俺はこういう性格なんだから仕方ない。


「……僕が考えてないことばかり考えてるな、って。専門的なことを学んできたのかと思って。どんな暮らしをしてきたらこんなこと思いつくの?」


 こんなこと、というのは、作戦の諸々だろう。

 土台は俺の思い付きで、細かなところは二人で意見を出して詰めたから。


「俺は狩人だよ。獲物を罠に掛けることばかり考えていた時期があるから、そのせいかもしれないね」


 罠を使えば、当時の俺の腕では狩れない動物や魔物を狩ることができたから。

 あの頃は本当に罠のことばかり考えていたっけ。


 あと、なんか知らないけど姉がよく引っかかってたなぁ。


 仕掛けた罠の様子を見に行くと、落とし穴にホルンがハマッていてそのまま寝ていたり。

 結局あれはなんだったんだろう。

 未だに謎のままだ。


 ……いや、姉の行動は考えすぎるな。理屈で考えようとすると頭がおかしくなる。


「狩人……? あ、クロズハイトの冒険者っぽい?」


「いや、本物の……まあいいや」


 どうやら頭が少し疲れているようだ。すっと聞かれてさらっと答えてしまった。

 いつもなら「俺のことはいいじゃない」的に煙に巻くところなのに。


 …………


 というか、リオダインとも気が合うのかもしれない。

 グイグイ来ないし荒っぽくないし強引さの欠片もないし。俺には付き合いやすいタイプなのだろう。


 ベルジュとか苦手だもんなぁ。

 ソースやスパイスのことは絶対に聞きたいのに、彼に対する一歩はなかなか出ない。


「作戦はこれでいいと思う」


 と、俺は席を立った。話は済んだし、風呂に入りたい。


「明日、君から皆に説明してね。きちんと機能すれば一方的に負けることはないと思うから」


 ハイドラたちの裏を掻ければ、これで瞬殺である。

 今日の復讐にはなるだろう。


「エイルから話したら? この作戦、ほとんど君が考えたのに」


「俺はリーダーの器じゃないから」


 基本的にリーダーって選ばれるものだからね。

 まだまだ個々人の実力や能力、性格も判明していない中、俺はハリアタンに嫌われてるから。


 不和の要素があるのに立場付けしたら、ハリアタンはすごくやりづらいだろう。

 もちろん俺もやりづらい。

 指示通り動いてくれない奴がいたら困るし。


「僕もリーダーの器なんかじゃないよ……」


 まあ、見るからに気が弱そうだしね。

 俺と同じで目立ちたくないタイプなのかもしれない。


「今回だけだよ。この先どうなるかなんてわからないしさ。対抗戦なんて二度とやらないかもしれないしね」


 それに、本来ならリーダーに推したリッセも、一時的な移籍である。明日の訓練が終わったら戻ってくる。

 もしまたチーム対抗なんて流れになったら、その時こそリッセにがんばってもらえばいい。


 だから、本当に今回だけだ。


「どうせ指示を出せるのは最初だけだから。難しく考えなくていいよ」


 型にハマれば瞬殺だし、そうじゃなくても決着は早い内に着くだろう。

 現地でリーダーの指示を受ける暇はない。


 もし問題が起これば、あとは各々の力でアドリブで対応するしかない。


 というわけで、本当に話し合いは終わりだ。風呂に入ろう。


 ――あ、そうだ。


「君が考えた作戦だって念を押すのを忘れないでね」


 俺はノータッチだったと。細かなところを話し合っただけだと。そう言い触らすんだ、と俺は今の段階で改めて念を押す。明日は彼が皆に念を押すはずだ。ぜひ念を押しまくってほしい。必要か、ってくらいしつこく念を。


「話し合いの時何度か念を押されたけど、それはどういう意味があるの?」


「ハリアタンが嫌がって言うことを聞かないかもしれないから、って説明した通りだよ」


 もちろん嘘だが。いやまるっきりの嘘でもないが。


 今回は仕方なかったと諦めたけど、やっぱり目立ちたくないんだよ。





 そして一夜が明けた。


 魔物狩りチームは居心地悪そうなリッセを含めて座学を受け、そして午後。


「――それでは、今日の訓練を始める」


 三日目の訓練が行われようとしていた。



 



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