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214.メガネ君、一番悪い奴を指摘する

申し訳ありません。


感想で指摘いただいた通り、「リオダイン」を「ジオダイン」と勘違いしておりました。


作者の純粋なうっかりミスです。



過去話は追々差し替えますが、今回から修正しています。ご迷惑をおかけしました。


それと、ご指摘ありがとうございました。





 沈黙が重い。

 誰も何も言わないし、何を言うべきかもわからない。


 ――とりあえず、惨敗した二日目の訓練はかなり早めに終わったので、夕方までは自主訓練をすることになった。


 エヴァネスク教官にキツく叱られた後だけに、どれほど身が入ったかはわからないが、それでもそれぞれがしなければいけないことである。

 皆ちゃんとこなしたんじゃなかろうか。


 もちろん、暗殺者チームも。

 というか彼らが憂う理由なんてないしね。


 そんなこんなで午後を過ごし、夕食時である。


 料理人ベルジュに「反省会と明日の話をしよう」という言葉を受けて一つのテーブルに集まり、この空気である。


 今夜もうまそうなシカ料理が目の前にあるが、誰も口をつけようとしない。


 まあ、そりゃそうか。

 下手をすれば、明日ここから追い出されるのだから。


 ……追い出されるなら追い出されるで仕方ない面はあると思うけど、さすがにここで追い出されると何しに来たんだかって感じである。


 一年間はがんばると決めて、王都から出てきたのだ。

 その後のことはわからないが、とにかく一年はしっかりがんばりたい。自分で決めたことだから。


 それに、七つの秘術も修めたいし、ヨルゴ教官から弓のことも教わりたい。


 せっかく明確な目的が見えているのだ。

 やはりこのタイミングで追い出されるのは嫌かな。





「――結局、誰が一番悪いんだ?」


 沈黙に耐えかねたのか、それとも進展がないことに苛立ってきたのか、ついにサッシュがそんなことを言い出した。短気だからね。


「俺は一個狼煙を取ったぞ。誰が取ってないんだよ」


 そうだね。

 狼煙球九個の内、一個だけこっちの魔物狩りチームが取ったんだよね。


 でも強いて言うなら、俺はサッシュが悪いと思うけどなぁ。


「そ、そういう問題じゃないよ。問題はそこじゃないよ」


 気が弱そうな少年リオダインが、不機嫌そうなサッシュに物申した。


「じゃあ問題はどこで誰なんだよ! 全員か!? おまえら全員かよ!? 誰が悪いのか教えてくれよ!」


 いや、君だと思うよ。


「え、えっと……」


 詰められてかなり焦った様子のリオダインは、黙りこくって深刻な顔をしている面々を見回し――比較的平然としているように見えたのだろう俺に目を止めた。


「エ、エイル? 何かある?」


 俺に聞くのかよ……仕方ないな。顔に出てないだけで俺もそこそこ深刻に受け止めてるんだけどな。


 でも、さすがにこのまま黙っていて明日の訓練を迎えるのは、かなりまずい。


 追い出されるかどうかはさておき、エヴァネスク教官は結構本気で怒っていた。

 あの怒りの理由が「やる気がない」とか「積極性がない」が含まれるなら、確実に俺のせいでもある。


 それに――チーム対抗戦だもんな。

 目立つのは嫌だとか接するのは嫌だとか苦手だから近づかないでおこうとか俺は勝手に付いていくから全然気にしないでくださいとか言ってられない。最低限の協力はしないと。


「サッシュが一番悪いと思うよ」


 聞かれたので、率直に答えた。

 皆にとっては意外だったのか、深刻そうな顔のいくつかが俺を見た。


「あぁ!? 俺かよ!?」


「そうだよ。俺は君が一番悪いと思うよ」 


「狼煙を一個も取れなかったおまえやこいつらより、取った俺が悪いのかよ!?」


「だからそうだって言ってるんだけど。何度聞いても答えは変わらないよ」


「てめえ――」


「待て」


 食って掛かってこようとしていたサッシュを、ベルジュが腕を掴んで引き留めた。体格差も筋力差もあるだけに、サッシュはそれで止まってしまった。


「怒るのは理由を聞いてからだ。――俺も納得がいかんしな。エイルが言った理由が気になる」


 あ、そう。気になるのか。


「この中でサッシュが一番足が速い(・・・・・・)だろ。そんな奴がどうして一番最初に戦線から抜けるの?」


「あ……あぁ!?」


「俺は、君がいれば勝機はあると思ったんだけど。


 君は最後まで、その速さを活かして走り回らないといけなかったんだよ。

 でも一番最初にいなくなったでしょ。俺たちを残して一人で突っ走って一人で終わっちゃったでしょ。


 敗因は色々あるけど、それが最大の敗因だと俺は思うけど」


 サッシュ的に、俺の意見は本当に意外だったんだと思う。

 自分が悪いとは欠片も思ってなかったのに悪いと言われて、そして――


 たぶん、こう言われて本人さえ納得したから、今すごく戸惑っている。


「狼煙の提出は誰でもいい。提出する個数も限られていない。


 君がその速さを活かして、一個と言わず五個確保して提出していれば、君だけで勝てたんだよ。

 そしてそれを妨害させないために、俺たちは全面的に君をサポートすればよかった。


 よく考えて。

 広範囲に散らばる物を集めるんだよ?

 どう考えても君の独壇場だろ? 主役は君だろ?


 ――でも、俺たちにとって最大の武器が一番最初になくなったんだよ。君が一個確保して提出した瞬間にね。


 だから俺は、君が一番悪いと思う。自分の役割を一つも考えなかった君が悪いと思う」


 サッシュの「素養」に触れるためぼかしたが、今はサッシュだけに伝わればいい。


 ――ちなみに、後で知ることになるが、サッシュは通過儀礼ですでに「素養」を見せている。

 すでに全員が「奴は素早く動ける」程度の認識をしていたそうだ。


「君の速さは小銭を拾うためにあるの? その先には小銭なんて目じゃないほどの大金があるのにそっちは狙わなかったの? そういう話だよ」


 もっと大きな獲物を狙ってほしかった。サッシュならできたのに。


 ベルジュ、ハリアタン、リオダイン、トラゥウルルのことはわからないが、サッシュとフロランタンのことはわかる。


 わかっている部分だけでさえ、勝負はできたのだ。


 仮にサッシュが「自分の素養」を晒したくないと言うなら、俺たちが陽動したり囮になったり壁になったりと、サッシュを見ないでサポートする方法もたくさん考えつく。


 打ち合わせもなく、一人で真っ先に突っ走っていったから、誰も何もできなかった。


 ――逆に言うと、やはりサッシュには誰も付いていけなかったってことだけど。最大の武器だと睨んだのは間違ってなかったのに。


「おい0点、おまえなんでそれ先に言わなかった? つーかなんでそこまで見越してたおまえが指揮取らなかったんだよ」


 複雑そうな顔で黙って座り直したサッシュと交代で、ハリアタンが俺を睨む。


「俺はリーダーの器じゃないから。

 そもそも君は俺が何を言っても聞かないし反対しただろ?」


 さすがに、俺がハリアタンに嫌われていることくらいはわかる。嫌いな奴の言うことなんて聞くタイプにも見えないし。


「このメンツで、サッシュとフロランタンは聞いてくれたかもしれないけど、意見が割れてチームが分裂するようなことがあったら訓練どころじゃなくなる。


 それに、俺は君が何ができるかわからない。『素養』も知らない。わからないと指揮なんて取れない。少なくとも俺はね」


 ハイドラやリッセなら、うまいことやるかもしれないけど、俺は無理。


 まあそもそも人に指示を出すとか慣れてないし、そういう責任ある立場はちょっと勘弁してほしいしね。俺は人を統べたり上に立つ器じゃないから。自分のことだけで手いっぱいだ。


「――つまり、なんだ? おまえは勝つ方法を思いついてるのか?」


 ベルジュの問いに、俺は肩をすくめた。


「わからない。いくつか手は思いつくけど、うまくいくかどうかはやってみないと」


 策もそうだし、皆が思い通りに動くかどうかもわからないし、それこそ暗殺者チームの能力によってもかなり成功が左右されてくるだろう。

 ハイドラとリッセが相手となると、生半可な策じゃ通用しない気もするし。


 特に、サッシュの先行逃げ切り作戦は、もしかしたら読まれていたかもしれないし。


 今日の訓練、俺はほとんど塔の周辺から動かなかった。

 行っても狼煙は取れない、取っても奪われるだけ、そう思ったから終始様子を見ることに徹していた。


 まあ、隙あらば狼煙を持った暗殺者チームのメンバーを襲って奪おうとは思っていたが。つまり塔付近で待ち伏せしていたのだ。


 ただ、結局俺は動けなかった。

 なぜかと言えば、向こうも待ち伏せを置いていたからだ。それも二人も。


 あれはもしかしたら、サッシュの足の速さを警戒した上での配置だったのかもしれない。そうじゃなければ訓練開始すぐにそこに置く理由がない。明らかに速い奴を警戒していた。


 そして実際、サッシュは待ち伏せをぶっちぎって提出したからね。


「さっき言った、サッシュの足の速さを活かすとかなんとかは? 明日は使えんのか?」


「今日やっちゃったからね」


 サッシュの「即迅足(ファストブーツ)」は初見殺しである。

 初めて見せる相手に絶大な効果がある。


 そして、今日すでにそれを見せてしまっている。


 ――俺がサッシュを一番悪いと断言した要因の一つですけどね。ほかの人がいるから言わなかったけど。


 本当にサッシュはやってくれたよ。

 ただ負けたんじゃなくて、手の内を明かしての惨敗だ。正直掛ける言葉も見つからないほどの大失態だと思う。


 まあ、それでもアレだけど。


 それでも有利性と有用性がまったく変わらないところが、彼の「素養」の恐ろしいところだけど。


 知られたら知られたで裏を掻く方法はいくらでもあるし、知られたって特に問題がない運用法があるという強みもある。


 そういう意味ではフロランタンも強い。

 皆すでに「ああ、筋力強化系の素養だな」と目星はついているだろうけど、それでもやりようはある。本当に単純に強いんだよね。





 今の手札で勝負するなら、やはりサッシュとフロランタンが要となるはずだが、もう一人。


「リオダイン。君も同じこと考えてたよね?」


「え?」


 急に話を振ったせいか、彼は驚いていた。だろ? 驚くだろ? 俺は座学で何度も食らったんだ。


「サッシュが一番悪いと俺が指摘した時、君は特に反応を示さなかった。俺と同じ意見を持っていたからだ。違うかな?」


「い、いや、僕は…………ちょっとだけ、そうかなって」


 あ、そう。じゃあ決まりだな。

「明日は君がリーダーだ」


「えっ!?」


「――異論がある者は? 彼以上のリーダーがいると思う者は?」


 面々を見回しても、意見はなかった。


「決まりだ。よろしくね」


 あとは彼と話し合って、明日の作戦を練るだけだ。


「フロランタン。トラゥウルル。もう食べていいよ」


 ずいぶん静かだと思っていたが、やはりこの二人は目の前の料理に集中してあまり効いていなかったようだ。許可を出したらむさぼるように食べ始めた。


 



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