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195.メガネ君、もう直接聞く。そして衝撃の真相が語られる! フロランタン編





 ひとまず、セリエは大丈夫だった。

 それを確認したところで本題である。


「で、忌子はどうする? もう塔に直で連れてくか?」


 サッシュは話が早いな。一直線というか。

 それが一番早くて簡単だとは思う、けど……俺はやっぱり本人に探してほしいなぁ。


「いえ、わたしのように、案外見つけている可能性もあるかもしれませんよ。案外。意外と。可能性の問題で。仮説では充分ありえるわけで。……本当に逆に意外と」


 念を押すな。失礼な。……気持ちはわかるけど。


「まあ、とにかく、まずは確認するのが先決かと」


 ……うーん。


 セリエの言うことが順当なんだとは思うけど、こう、口に出すのも躊躇われる愚問感があるというか……


 果たしてあれが目的を果たしている者の姿なのかと。

 俺には、完全に幼児退行しているようにしか見えなかったから。


 「あ、ちょっと大きい子が混じってるけどあんまり違和感ないな」と思えるくらい、子供たちの中に馴染んでいるから。


 半年一緒にいて、同じ屋根の下に泊まり、背中を預けるような狩りもしてきた、俺の知っているフロランタンとは違いすぎるから。

 だから余計心配なんだ。


 そもそもあの調子でどうやって見つけ――あ。


「……そうだね。意外と見つけてるかもね」


 セリエは「法陣ノ魔術師」という「素養」から、ブラインの塔を見つけた。

 これは点在する要素を繋げて至った結論や理屈ではなく、本人の特殊な才能で発覚したことである。


 そしてフロランタンには、「怪鬼」以外に本人さえ知らないであろう「二つ目の素養」がある。


 もしかしたら、彼女はその「二つ目の素養」で、すでに見つけているのではなかろうか。


「もうグダグダめんどくせえ! せっかく三人揃ってるんだ、呼び出して直接聞こうぜ! 連れてくる!」


 あ、……行っちゃった。


 俺とセリエが止める間もなく、サッシュは部屋を飛び出していった。


 まあ、そうだね。

 今必要なのは、うだうだ理屈で考えることより、思いきってぶつかることなのかもしれない。


「――そういえば、リッセはどうしているんでしょう?」


 ぽっかり空いた隙間のような時間を、セリエがそんな質問で埋める。


 リッセか。

 そういえば、リッセもフロランタンの心配をしていたっけ。というか彼女もフロランタンにはかなり甘かった気がする。まあ俺も人から見たら大概らしいけど。


「俺も会ってないからわからないけど、リッセは今は人のことを考えてる余裕はないんじゃないかな」


 リッセは今ここには住んでいないから、俺もよくわからない。

 きっと彼女は街中を走り回っているし、もしかしたら狩人の仕事もしているかもしれない。腕はあるからね。


 …………


 場合によっては、俺もリッセの手伝いをしないといけなくなるかもなぁ。


「まだリッセとは複雑な関係なの?」


 確か二人は幼馴染で、同じ暗殺者を育成する施設にいたんだよな。


 で、ワイズ・リーヴァントに養子に選ばれたセリエと、選ばれたかったけど選ばれなかったリッセという関係で、お互いちょっと壁を感じていると。


「う、うーん……村での共同生活でかなり和解はできた気がしますけど、根本的なわだかまりがあると言いますか。はい。ここに来てからは接点らしい接点もありませんので。はい」


 ということは、微妙に距離を感じる複雑な関係のままか。


「大変だね」


「エイル君もフロちゃんのことでこれから大変になるかもしれませんけどね」


 ……そうだね。





 ――そしてフロランタンとブラインの塔について話をするのだが。


 ――そこには驚きの真相が待っていた。





 セリエと一緒に風呂に入り、さあ寝ようとしていたフロランタンをサッシュが無理やり引っ張ってきて。


 すでにちょっと眠そうな彼女を、セリエとサッシュの間、そして俺の正面に座らせる。


 そしてこれもセリエ同様、もう前置きもなく単刀直入に聞いてみた。

 「ブラインの塔は見つけたか?」と。


「――おう、われどももようやく見つけたんか。待っとったで」


 えっ。


 ……えっ。


 …………えっ。


 やっぱりというか意外というか、……まあ意外の方が相応しいか、まさかの「もう知ってましたけど何か?」パターンか?


「うち、最近おかしかったじゃろ? 子供みたいで」


「別に特に違和感はなかった――いてっ」


 ばしっとフロランタンに殴られた。足が痛い。


「すげー馴染んでたぜ。怖いくらいに――いてぇなこの野郎!」


 サッシュもべちっと殴られた。腕が痛そうだ。


「子供みたいで可愛かったですね」


 手を振り上げたフロランタンは、その手をゆっくり降ろした。セリエはセーフのようだ。


「――少し身体を『貸しとった』からのう。ちいとばかり性格が引っ張られとったんじゃ」


 ……?


 言葉の意味が全然わからなかったが――すぐにわかった。


 いや、わかったというのも、ちょっと違う。


 ――見せつけられた(・・・・・・・)、が正しいだろう。


 急激に室内の気温が下がり、身体に寒気が走る。

 背筋が凍るというか……いや、この感覚は、強烈な殺気を向けられた時に感じる本能的な恐怖に、似ている気がする。


 急に、誰も声も出せないほど重く異様な空気が満ちたその時、フロランタンの身体から無数の半透明なものが飛び出す。


「ひっ!?」


 セリエが悲鳴を上げる。


 フロランタンの身体から出たものは、半透明の骸骨である。その数十体を越えている。


 ……いわゆる霊。

 それも、本能に訴えてくるこの恐怖は、もしかしたら悪霊の類に近いものかもしれない。


「――孤児院(ここ)で死んだ子供たちの魂じゃ。ずっと縛られて動けんかったみたいでのう。一緒におって少しずつ心残りを解消しとったんじゃ」


 小さなフロランタンの身体を、いくつもの骸骨の霊が取り巻く。


 背中から抱き着く者、周りを飛び回る者、音もなくケタケタ笑う者……なるほど、骨格の大きさからして子供ではあるのかな。


「――ほれ、もうええじゃろ。早よ行かんと神さんに嫌われるけぇ」


 そんなフロランタンの言葉に応えるように、骸骨たちはすーっと消えていった。


「…! ……!」


 最後まで残った骸骨は、がたがた震えながら激しく驚いているセリエの周りを楽しげに回ると、回りながら消えていった。


「あの子は、優しくてよう面倒見てくれるセリエお姉ちゃんが好きじゃったからのう。……すまんなセリエ。怖かったか? 先に言えばよかったかのう? でもあの子らがびっくりさせたい言うてなぁ」


「い、い、いえ。驚いただけですから。別に、全然、怖くないし。……本当に!」


 ……すごい顔色悪いし震えも止まらないみたいだけど……うん、まあ、本人がそう言うなら、そう言うことにしておいた方がいいのだろう。


「エイルは平気じゃったか。さすがじゃのう」


 いや。めちゃくちゃ驚いたよ。

 霊も悪霊もあんまり縁がなかったから。


 反射的に「闇狩りの戦士」をセットしたくらいに。俺に向かってきたら容赦なく力を発揮して浄化したと思う。


「チンピラはどうじゃ? ……おい、チンピラ? サッシュ?」


 隣で微動だにしないサッシュに呼びかけ、肩を揺らし、それでも反応がない。


「……ハッ!? し、死んでる……!」


 いや、気絶ね。気を失ってるだけね。


 俺も驚いたけど、両隣にいて俺より近かったセリエとサッシュは、きっともっと驚いたんだろう。





 重く異様な空気が、ふっと消え失せた。

 たぶん霊がいなくなったのだろう。


「ほんまに悪かった。

 他人の魂入れると、どうもそいつに性格が引っ張られるんじゃ。


 うちが子供っぽかったのも、あいつらに引っ張られとったからじゃ。

 色々迷惑かけたじゃろ? 悪かったのう」


 いや、子供っぽかったことには違和感なかったけどね。むしろ馴染み過ぎで心配だったくらいで。

 また叩かれるから言いはしないけど。


「チンピラもこの調子じゃけぇ詳しくは後日でええじゃろ。うちはあの子らに教えてもらったわ。ブラインの塔は地下から行くんじゃろ?」


 うん、まあ、そうなんだけど。


「そんなことできたんだね。魂をどうとか」


「普通の人は違うらしいのう。うちはむしろ、生まれた時から普通に見えとったから、これが当たり前じゃ思っとったわ」


 と、フロランタンは気絶しているサッシュを肩に担ぐ。


「一体なんなんじゃろうな? もしかしたら忌子だからできることなんかも知らん。――まあ、難しゅう考えるのはもうやめたけどな!」


 ハッハッハッと笑い飛ばし、フロランタンは俺の部屋から出ていった。


「で、では、わたしも……おやすみ、なさい……」


 なんかまだ足がガクガクして、生まれたての小鹿のようになっているセリエも、俺の部屋から出ていった。


 …………


 うん。


 忌子だからじゃなくて、たぶんそういう「素養」なんだと思う。


 霊を操る? 魂を操る?

 そんな感じのもの、なのかな。


 ……知らないから「視えない」んだよなぁ。本人も自覚がないみたいだしなぁ。


 いったいなんの「素養」なんだろう。









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[一言] 霊を使った物理干渉無視の情報収集と怪力ってバランス良いな
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