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189.メガネ君と狩猟祭り 11





 感謝の祈りを済ませ、狼煙を上げるために火を起こした。狼煙は火にくべるタイプの丸薬なのだ。


 空より濃い、鮮やかな青い煙が高く立ち上る。

 夜でも見えるって話していたけど、昼だからよくわからないな……光ってるのかな? ちょっとわかんないけど、まあいいや。


 こっちはこれでよし、と。

 これで回収する人が来るらしいから、あとは待つだけだ。


 次に、龍魚を拘束している銛のロープだけ外し、回収しておく。


 ……ん?


 真っ白になった龍魚の身体に触れ、首を傾げる。


 ぬるぬるしてない。

 どちらかと言えばさらっとしていて非常に固い。まさに龍鱗といった感じだ。

 暴れた時に俺に当たった尾も、……よく覚えてないが、たぶんぬめっていなかったと思う。


 あのぬめりはなんだったんだろう。

 粘液のようなものじゃなく、魔核が作用した魔法に近い特性だったのだろうか。龍魚自身で解除できるものだった、とか。そういうのだろうか。


 それにタツナミじいさんの店で見せてもらった鎧の鱗よりは、鱗の色艶がややくすんでいる気がする。しかしそれでも輝きがあって充分美しいと思うが。


 そういえば、龍魚には「強制情報開示」をしていない。

 最後のタイミングで、やろうと思えばできたかもしれないが……


 いや。


 あの状況で頭付近でごちゃごちゃやるのは、さすがに危険すぎるだろう。

 即座に仕留めることしか頭になかった。

 ほかに何かするなんて、思いつく余裕もなかった。


 「龍魚の素養」を登録できなかったことが、残念なのかどうかは自分でもわからないが、とにかく狩猟は成功した。

 よく知らない魔物で色々と不備もあった気がするが、なんとか無事で。

 だったらこれでよかったのだろう。間違ってはいないはずだ。


 血が溢れるだろうから銛は抜かない。

 血の臭いに惹かれて魔物がやってくるかもしれない。龍魚を守りながら戦うのは難しそうだ。ちょっと現実的じゃない。


 頭に刺さったままのナイフも、まだ抜いていない。

 銛は、悪いけどそのままでタツナミじいさんに返して、ナイフは街に戻る直前に抜いて、傷には布を詰めておこうと思う。


 あとは、湖に浮いている魚をどうするかだ。


 何度も「雷」を落としていた時に、ぷかりと浮いてきたのだ。

 俺が原因でやってしまったとしか思えない。


 狩人として無駄な殺生はしたくない……と思い探してみたら、おかしいな。十匹くらい浮かんでいた魚がいない。


 うーん。いないなぁ。


 もしかして、死んではいなかったのか? 泳いで去っていったのか?

 それとも龍魚と戦っている間に、鳥にでも食べられたんだろうか?


 まあ、いないものは仕方ないか。


 ――それどころじゃなくなりそうだし。





「なんだこれ!?」


 狼煙を見たのだろう男ばかりの狩人が七人、湖にやってきた。


 三人は出発地点で見た顔で、残り三人は見ていない。


 というか、恐らく俺が森に入る前から森に潜伏していた、未登録の狩り勝負参加者だろう。

 参加人数で点数が付くから、三人と偽り七人で狩りをしているのだ。


 森に入る時に察知した「気になること」の正体は、これだったのか。


 ここからちょっと離れたところに、狩人より先に誰かが点在しているのはわかっていた。

 ベッケンバーグが入れた、監視か見張りかと思ったが……


 ――そうだよなぁ。ルールを聞いた時から思ってたけど、この狩り勝負は不正がやりやすいんだよなぁ。


 というか、ベッケンバーグや老人たちの頭の巡らせ方を考えると、わざと不正に関するルールを詰めなかったとしか思えないんだよね。


 俺が考えられることなら、あの人たちも考えられる。

 むしろもっと先、俺の考える一歩二歩先を考えていたりもするだろう。

 あの人たちがこういうケースを想定していないなんて、とてもじゃないが考えられない。


 もっと露骨に言うなら、「どうぞ不正してください」と推奨している気さえしている。

 だとしたら、不正関係全般は、完全に主催側の罠だろう。


 罠の目的はちょっとわからないけど。

 でも彼らの損得に関わることであるのは、間違いないな。強欲だから。


 龍魚を見て呆然としている屈強な男たちに、俺は言った。


「近くに魔物はいませんよ。ほかを探した方がよろしいかと」


 無駄だろうなと思いつつ、一応言っておいた。


 ――手には、龍魚戦のために集めた石が、すでに握られている。


 戦闘中に球切れになるとシャレにならないのでたくさん拾っておいたのだ。まだまだ残っている。


 頭に当たったら死ぬかもしれないけど、さすがに武装している連中七人を相手に、手加減している余裕は俺にはない。対人戦は不慣れだし。


 俺の言葉を聞き、男たちが顔を顔を見合わせ――なかなか悪そうに笑った。


 彼らを見ると心底思う。


 ベッケンバーグや老人たちの悪い顔は桁が違うな、と。

 あの人たちの悪だくみしている時の笑みはすごい邪悪なんだな、と。

 あれに比べれば、彼らなんて子供がイタズラを思いついた程度のものだな、と。


 比べて改めてわかった。

 欲深さが違いすぎる。強欲さが段違いである。


「なあ嬢ちゃん――」


「先に言いますよ」


 何か言い出そうとした狩人を制し、はっきり警告する。


「まず、あなた方でこの魔物を狩れるかどうかを考えてください。

 次にこの魔物を狩った私に勝てるかどうかを考えてください。


 以上の二点を踏まえて、それでもと思うのであれば、どうぞ剣を抜いてください」


 そういうと、俺は森の枝に向かって「怪鬼」付きの投石を放った。


「――ぎゃっ!」


 悲鳴が上がり、がさがさと草むらが揺れる。どこかに当たって木の上から落ちたのだろう。


 この場に六人。気配は七人。一人は表に出さず伏せておく。


 狩り慣れはしているのかもしれない。

 でも、彼らに龍魚を狩れたとは、ちょっと思えないかな。


 特に今の投石を避けられない伏兵を付けて優位に立っていると思っているようでは、たぶんあっという間に全員斬られて終わりだろう。龍魚の水の刃はもっと速いのだから。


「な、何やってんだおま――おごっ!」


 二投目が直撃したのは、さっき俺に話しかけようとした男。

 きっと彼らの中の交渉役なんだろう。何かしゃべりそうだったから投げておいた。


 ……というか、投げやすい大きさの石が腹に当たっただけで、後ろに吹っ飛んだな。


 強すぎないか、この「素養」。

 龍魚も引きずり回すことができたし。

 オリジナルであるフロランタンの、強さの底がまったく見えないなぁ。


 ……それにしても。


 なんで無警戒だったんだろう。

 剣を抜かないと攻撃しない、なんて言ってないのに。


 警告とは、「こっちはすぐにでも攻撃態勢に入る準備がありますよ」という意思表示だ。

 獣や魔物で言えば威嚇である。

 攻撃態勢に入るぞ、と威嚇している人を目の前に、なんで無警戒でいられるのか。


 ――狩った獲物を、肉食獣や魔物に狙われることがある。


 獲物を狩ったら終わりではない。

 獲物を持って帰るまでが狩猟なのだ。


 つまり、彼らのように獲物を横取りしようとする存在が来るのは、最初から想定内。


「くそっ! 全員抜け!」


 ようやく俺が、彼らの意思意向に構わず攻撃する姿勢を見せていることを察すると、残りの五人はそれぞれの武器を構えた。


 しかしそれは想定より遅い。

 第三投は、武器を抜くと同時に命中している。





 最後の二人は謝っていたみたいだが、構わず石を投げて全員倒しておいた。

 色々と信用できないから仕方ない。


 さっきまで龍魚を拘束していたロープを使い、痛みで動けない者や綺麗に気絶している者七人を、縛って転がしておく。


 ――さて。


 今度こそ、回収を待つばかりである。


 …………


 こうなってくると、やっぱりゼットが心配だなぁ。

 森での迷子は俺も経験があるし、俺の一番古い記憶も森での迷子なんだよね。あれはすごく大変で、怖いものだから。


 迷子になってないといいけど。








 ――などと昨日の龍魚を長々振り返っていたエイルは、隣にいるハイドラに言った。


「ちょっと話せる範囲にないことばかりかな。ごめんね。これ以上は言えない」


「そう。なら仕方ないわね」


 そこからは話題を切り替えて、少しだけブラインの塔のことを話し。近場の屋台を回り、ナンパや酔客を適当にかわし、ついでに尻などを触って来そうな輩の手もかわし。


 そんなこんなで、狩り勝負終了の時刻が迫っていた。





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