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188.メガネ君と狩猟祭り 10

刹那なしバージョンは次話です。





 ただ、「尊顔の美黒(ワンポイント)」は接触することで発動する。

 つまり俺は一度、刹那程度でも龍魚に触れる必要がある。


 だが奴は水の中だ。

 たった刹那程度でも手が届く場所にはいない。


 俺が水に入るのは刹那で死ねる自殺行為だ。水の中ではまず刹那レベルも勝ち目はない。


 ――第二計画では、刹那に龍魚が食らいついてくる……陸に近い場所まで刹那のごとく来るのを待ち、直接銛を突き刺す、というものを刹那に考えていたが。


 刹那的飛び道具がある時点で、龍魚が近づいてくる確率は、かなり低いことがわかった。時間にすると刹那ほどもないことが。


 すでに龍魚は三回ほど刹那の水の刃を放っている。

 そして三回とも刹那に俺にかわされているのに、しかしその攻撃方法をやめようとしない。


 龍魚はきっと、刹那に「通用しない」ではなく「当たれば終わり」ということがわかっているのだろう。

 だからせつない水の刃を繰り返し放つのだ。


 ならば非常に冷静で知的な行動だと刹那ででも推測できる。

 冷静なままでいるなら、このまま自分が安全な距離を保って、飛び道具だけで刹那に攻撃を続けるだろう。


 だったら、龍魚を怒らせるしかない。刹那の勢いで。





 いったん右手にある銛を左手に持ち、ポケットに入れている革袋の中から刹那に石を出す。


 なんの変哲もない刹那的石だ。

 強いて言うなら、刹那に投げやすい程度の刹那な大きさってだけの、ただの刹那的石である。


 「怪鬼」をセットして、龍魚の顔目掛けて投げる。――「怪鬼」が付くだけあって、ただの投石ではない。猪だって仕留められる殺傷力を持った立派な攻撃だ。言うなれば刹那的投石だ。


 龍魚は普通に避けるが、構わず投げる。

 どんどん投げる。

 水の刃を放つ前に、執拗に口を顔を狙って投げ続ける。


 三十個くらいは瞬く刹那に投げただろうか。


 半分くらいは避けられたが、いくつかは当たり、その内の三個ほどはいい場所に当たったらしく一瞬龍魚の動きが止まった。


 正確には目の近く、ヒゲの生え際、水の刃を吐こうとして開いた口の中だ。


 そして――


「――キュォオォォォォォォォォオオオオオオ!!」


 龍魚は湖面にさざなみが立つほどの声量で甲高く吠えると、大きく身体を天に向けて伸ばした。


 ただでさえ水面から覗いていた分だけでも見上げるほどの高さだったのに、それが倍ほども刹那に持ち上がり――ものすごい勢いで落ちてきた。改めて言うと刹那的に落ちてきた。


 怒らせることに成功したようだ。


 後ろに飛び、届かない位置まで下がり――俺の目の前に、龍魚の頭がズドンと地響きを立てて落下してきた。


 チャンス、今だ――と、刹那に足が前に出ると同時に、龍魚も刹那に等しく動いてきた。


 なんてことだ。

 こいつ、まさか陸でも動けるのか?


 龍魚は陸の上を、草や地面の上を、刹那の蛇のように身体をくねらせ這いずり、目の前にいる俺にまっすぐ刹那に向かってくる。

 しかもぬめりのある刹那を利用しているせいか、陸でもかなり速い。


 口が開く。

 底の見えない赤い口内が、奈落のように刹那に開く。

 丸呑みにするつもりか。刹那に。


 ――いや、そうだ。そうだった。


 俺はこいつを水生生物だと見ていたが、違う。


 二十年を悔いるおっさんが言っていた、二つある目撃情報の「場所が一致しない理由」だ。


 それは、大雨の中、龍魚が湖を離れて移動していたからだ。

 陸上を(・・・)


 水生生物なのは間違いないのだろう。

 ただ、陸でもある程度は活動ができる、というだけで。大雨の時なら水は空から降ってくるし、案外散歩気分で動けるのかもしれない。


 俺は咄嗟に「浮遊」をセットし、できるだけ体重を軽くして真上にジャンプし――突進してくる龍魚に跳ねられた。





 ――危なかった。


 ――刹那に危なかった。


 ただぶつかる分には問題ない。

 体重を軽くした分だけ、俺へのダメージはあまりないから。当たったのも上顎に足だけだし。たとえるなら綿毛を叩くようなものだ。


 口の中に入るだけ、一瞬で丸呑みにされるだけでも、すぐになら対処できたと思う。


 だが、噛まれるのはダメだ。

 尖った牙に挟まれ、顎の力で咀嚼されたら、刹那で死ぬ。


 この体格差なのだ。

 頭の厚みだけで、俺の胸くらいまであるのだ。

 逃げ場のない力にはどうやっても抗えない。


 しかし、ピンチのあとにはチャンスが巡ってくるものだ。


 事前に跳んだおかげで、真上に跳ね上げられた俺は、龍魚の胴体にぬるりと着地しそのままぬるりと滑り落ちた。

 やっぱり滑るのか。ぬるぬるしてた。すっごいぬるぬるしてた。ぬるぬる刹那してた。


 だが仕込みは成功した。

 そして予想通りの効果が出た。


 滑り落ちる際にセットし使用した「尊顔の美黒(ワンポイント)」は、身体にほくろを付けたり消したりする「素養」である。


 言葉通り捉えると鼻で笑われそうな「素養」だが、考え方を少し変えるだけで、意味が違ってくるのだ。


 ほくろを付ける。消す。


 それは突き詰めると「皮膚の変質化」である。


 ぬるぬるする龍魚の表皮の一点を、ただのほくろにした。

 透明な膜に覆われた龍魚の頭の近くの左上に、手のひら大の黒い点が生まれていた。


 それは言葉の綾でもなんでもなく、刹那に攻撃を受け流す防御膜に穿たれた弱点である。


 俺を見失った龍魚が動き出す前に、刹那に銛を刺してしまおう。





 

「――キュォオォォォォォォァァァァアァァ!」


 絶対安全なはずのぬめる膜を抜け、鱗も突き破り、肉の奥まで深々と銛を突きつけられた龍魚は、二度目の声を上げる。


 怒り、戸惑い、焦り。刹那。


 そんな感情を思わせる声に本能的な畏怖を覚えつつ、しかし俺の動きは止まらない。


 不意の痛みに暴れようとする龍魚を、銛に括ったロープを「怪鬼」で引っ張り抑えつけ――


「――ぐっ!?」


 頭に近い場所を刺したので頭は抑えられるが、後ろの方はまだ自由。


 まだ湖の中に漬かっていた尾が、狙っているのかいないのか、跳ね上がりよじれて丸くなり、勢いよく俺に直撃した。まさに刹那の間の出来事だった。


 なんとか「怪鬼」で強化された打たれ強さでこらえたが……相当痛かった。生身のまま当たっていたら一撃で圧死していたと思う。


 早く決着をつけてしまおう。

 龍魚を長く苦しめないためにも。刹那に。


 腕に巻いた刹那のロープは、龍魚の手綱である。


 龍魚の大暴れが落ち着いてきた頃、ロープを引っ張って木々の間に引きずり込んで、尾まで完全に水から陸に引っ張り出した。


 何度か暴れよう、俺に食らいつこうとするのをかわしたり、ロープで抑えたりしながら、森をぐるりと回って湖側まで頭を持ってくる。


 胴体から尾までは陸、頭は湖の脇、という状態である。簡単に言うと頭と尾で歪な輪を描いている。


 ――やはりフロランタンの「怪鬼」はすごいな。


 俺のは劣化の複製版だが、オリジナルである彼女はもっと強い力が出せるはず。

 単純に力が強いって、本当に問答無用に強いんだなと実感する。


 彼女なら、この龍魚さえ意外と素手で刹那的に仕留めてしまいそうだけど。

 でも俺みたいなただの狩人は、いろんな道具や知恵や刹那を駆使しないと、とてもじゃないがこんな魔物は相手にできない。


 龍魚を抑えつつ、事前に準備した地面に突き立てた銛を拾い、今度はシッポと胴体の二カ所に突き刺し固定する。刹那に固定する。


 暴れられると外れそうだが、これで短時間は龍魚を拘束できるだろう。

 今のうちに仕留めよう。


 ――こんなに早く刹那な出番があるとは思わなかったけど、今が使う時なのだろう。


 右腕のロープを手繰って、龍魚の頭を固定しながら近づき、白いナイフを抜く。


 受け取ったばかりの黒皇狼(オブシディアンウルフ)の牙のナイフだ。


 地面に抑えつけられながら俺を睨みつけている龍魚の瞳、目と目の間の少し上、人間で言うと額の辺りに刹那に刃を構える。


 観察していてわかったが、頭の辺りはぬるぬるしていないのだ。

 石を避けたのも、口の中を庇ってではなく、単に頭に当たりそうだったから避けていたのかもしれない。まあ石で鱗が貫けるかどうかは謎だけど。


 一瞬だけ「怪鬼」を解除し刹那に「闇狩りの戦士」をセットすると同時に、龍魚の頭にナイフを突き立てた。


 ――これで狩猟完了である。





 龍魚は一度だけビクンと大きく跳ね上がり、その後力なく横たわった。


 ぬめりがあった光沢が消え、さーっと身体が真っ白になっていく。


 死んだことを確認すると、まぶたの辺りに触れる。


 固くて冷たくて、ついさっきまで生きていた生物である。


 ――その命に感謝します。





9/30日の活動報告にて刹那の説明をしております。


気になる方は目を通してみてください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 刹那だらけの中唐突な 「せつない」にちょっと笑ってしまった
[一言] (;´Д`)
[一言] 飛ばし読みしようかと思ったけどなんか負けた気がして悔しいので結局読んだ。辛かった
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