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183.メガネ君と狩猟祭り 5





 深夜を越えた頃には、さすがに広場も落ち着きを見せた。


 屋台を出している人たちも、いくら稼ぎ時でも売るものがなくなれば商売はできない。仕入れも仕込みもあるので、一旦店を離れる。


 誰かの歌声も休みに入り、だが音楽だけは流れ続けていた。

 穏やかなハープの音が、酔い潰れてその辺で寝ている者たちを慰めるように振り続けた。


 魔物回収班だけは夜になっても仕事がなくなるわけではないので、有事の際は即座に動けるよう待機中である。皆が遊んでいる時に大変である。


 だが一夜明けると、前日にしこたま飲んだ者が迎え酒から一日を始め、すぐに前日と同じくらいの賑わいを見せた。


 普通屋台と言えば若干値段が割高となるが、ここクロズハイトでは、主催側のお金の力で飲食できる物が普段より少し安くなる。

 いつもは財布の紐が固い連中も、ここぞとばかりに食ったり飲んだりと楽しむのだ。


 いわゆる薄利多売で一人でも多くの参加者を呼び込む方式を取っている、ということだ。

 

 ――そして、今日は少しばかり客層が違う。


 前日に浮かれて騒いで酔い潰れて、今日は参加できなくなってしまった者たちの代わりに、少しだけ貧民街の者が混じってきている。


 昨日の様子を見て、これほど混雑しているなら混じっても文句は言われないだろう、と判断してのことだ。

 貧民街の住人は、表を歩くとあまりいい顔をされない。「どうせ金を持っていない」と思われるから。


 だが、今日は違う。

 ベッケンバーグから金品を盗んだゼット一味が、苦労して洗った金貨を換金し、小銭にして貧民街にばら撒いたのだ。


 一応これも「やりすぎたお返し」である。

 祭りで使われた金は、結局回りまわってベッケンバーグの利益になるから。

 




「――絶対にお兄さんとお姉さんから離れないでね。それじゃ、いってらっしゃい」


「「――はーい」」


 そして、せっかくの祭りなので、孤児院の子供たちも遊びに来ていた。


 シスター・ハイドラと、居候であるメガネの少女と忌子。

 更には剣を吊った少女と、青髪の青年と、目つきの悪い少年や猫の獣人など、引率の者もしっかり付いている。

 揉め事が起きても各々で対処できる盤石の体制だ。


 なお、見た目は完璧な王子様は「おまえは子供に悪影響だ」と満場一致で外された。仕方のないことである。


 一団となると身動きが取れないので、一人につき子供二、三人を預かり、バラバラになって遊ぶことになっている。あと一応忌子も子供枠である。本人は不服そうだったがこれも満場一致だった。


「あなたは? あなたも行っていいのよ?」


 わーと散っていく子供たちを見送ると、ハイドラは横にいる、今日はメイド服ではない少女に言う。


「俺の用事は串焼きくらいだから」


 否。少女ではなく、少女の格好をした少年である。昨日孤児院に転がり込んできたばかりの新顔だ。


 彼こそ、もうすっかり有名になってしまった「龍魚を狩ったメイドの少女」である。

 バレたら大騒ぎになりそうなので、広場にはあまり近づきたくないそうだ。


「それよりハイドラは? 俺は昨日少し見たから。君こそ見てきたらいいよ」


 ハイドラは責任者である。


 この出発地点にして何かあった時の集合場所として、今日はここから動かずただ子供たちを待つだけである。

 仮に迷子になった子が出たら、ここに戻ってくるよう教えてあるし、問題が起こったらすぐにハイドラと連絡を取れるようにしている。


「私の興味は魔物くらいね」


 ――昨夜、孤児院を訪ねた女装した少年エイルは、ぼやかしていた部分をはっきりハイドラに聞いた。


 「ここがブラインの塔の入り口じゃないのか」と。


 誰かにそう聞かれれば、質問し返答しろと命じられているハイドラは「なぜわかったのか」と質問し、ブラインの塔に来るべき暗殺者候補生だと正式に認める運びとなった。


 ただ、彼自身は教官から別の課題を出されているらしく、一番最後に来いと言われているそうだ。

 彼と一緒に来た仲間全員がブラインの塔に入らないと自分も入れない、とのことで、まだ正式にブラインの塔には入っていない。

 まあいわば内定済みと言ったところである。


「じゃあ魔物を見てきたら? 代わりに俺がここにいるから」


「いいえ。どうせあなたが表彰台に登る時に見られるでしょうから。今すぐ動くこともないわ」


 ハイドラとエイル。

 落ち着いている者同士、ここも意外と気が合うようだ。

 

「それより、ゆっくり話す時間があるなら、あなたが龍魚を狩った話を聞きたいわ。話せる範囲でいいから」


「悪いけど、話せる範囲にないんだよね」


 両方が暗黙の了解で口にしないのは「素養」に関わっているからだ。


 ハイドラはエイルが「素養」を駆使して狩ったのだろうと思っているし、エイルも「話せる範囲」という括りがそれを指していることを理解している。


「少しでいいんだけど。今後私が龍魚を狩らないといけなくなった時の参考になるかもしれないから」


「参考。……何か話せることあるかな」


 と、エイルは昨日のことを振り返る。





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― 新着の感想 ―
[一言] ヘンタイ同士が落ち着いて話す場が出来たわけだな
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