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177.メガネ君、緊急回避成功!





 最初からゼットは戦闘態勢に入っている。

 いつ仕掛けてきてもおかしくない。


 何せ「なんとか喰い」って単語を出してから、ゼットが殺気を放ち出している。そうだろ? 軽々しく「素養」の話を出したら怒るだろ? だから俺もやる気なんだよ。自分がされて嫌なことはするなって話だろ。


 だが、こうなると「メガネ」を掛けるタイミングが大事だ。


 元は、大勢の人の前に出るから、女装に加えていつも掛けている「メガネ」を外し、更にエイル本人からかけ離れた存在になるのが目的だった。


 狩人の前にも出るし、賭け勝負を楽しみにしている一般人の前にも出るし、優勝するつもりだから注目も浴びるし。


 自分のことはわからないが、セリエ辺りは暗殺者の村で「メガネ」なし状態を見て、かなり違和感を抱いたものだ。


 ゼットとは一度会っただけだし、案外騙せるかも、と思ったのだが。

 しかし一度戦っているだけに、俺のことは印象深く残ってしまったのかもしれない。


 ――いや、簡単な話か。


 戦う場所を変えればいい。

 その道中に「メガネ」を掛ければいい。


 今ここで戦う必要がない。

 というかお互いにリスクしかない。


 だって狩人たちが全員、こっちを見ているのだから。

 そしてたぶん彼らは、戦闘が始まったら乱入し、本気でゼットを殺しに来ると思う。元々ピリピリしていたのにゼットが刺激したから、すでに殺気立っている。


 だから、ここでやり合うリスクは高いのだ。


 ゼットには「おまえの素養知ってるぞ」と臭わせてある。

 暴露される心配があるから、人が多い場所でやり合おう、とは思わないだろう。きっと。


 それにしても、「メガネ」を掛けるタイミング、か……


 我ながら不思議な考え方だ。

 こういう状況じゃなければ、こんな風には考えなかっただろう。


 ――こんな時になんだが、「メガネ」に関して違う発想が生まれそうな気がする。





「場所を――」


 場所を変えましょうか、と俺が言い出そうとした時だった。


「おまえがゼットか!」


 すごく聞き馴染みのある声が、強烈な横槍を入れた。


「あぁ?」


 ゼットからすれば、完全に俺を敵と見なし、いつ戦闘が始まってもおかしくない状態の時に、気が逸れるほどの明確な第三の敵の登場だった。


 ちなみに第一の敵はケンカ売った狩人たち、第二の敵が俺だ。 


「てめえ誰だぁ? 軽々しく俺の名前を呼ぶんじゃねぇよ」


 うーん、チンピラ同士の鉢合わせか。


 ――そう、横槍を入れてまっすぐこっちにやってきた青髪の少年は、サッシュである。


「呼びたくて呼んでるわけじゃねえよ! だいたいなんで裸なんだよ! ヘンタイか!」


 しかもゼットに何か恨みがあるのか、かなり怒っている。あと君も裸の時多いけどね。訓練の時とか。


「――ああ……その、なんだぁ? てめえが最初に死にてぇんだなぁ?」


 あ、ゼットが俺よりサッシュを優先した。


 たぶん、俺の敵意よりサッシュの敵意の方が大きいからだろう。敵意や殺気って向けられると気になるからね。まあそれでも、まだまだ俺を警戒はしているようだが。


 …………


 あれ? チャンスか?

 サッシュと二人がかりなら、やれるんじゃないか?


 いつものサッシュも普通に強いが、彼は初見の時が特に強い。

 気が付けば、目に留まらぬ速さで決着が着いている。そういう「素養」だ。そして実戦に次はないからね。


 俺がゼットの気を引き、隙が生まれたところでサッシュに仕留めてもらう。


 この流れは鉄板だ。

 暗殺者の村で魔物狩りをする時は、非常に有効なコンビネーションになっていた。


 俺ではたぶんゼットに勝てない。

 これは純然たる事実である。


 実際はかなりの窮地に陥っていたが、サッシュの登場で勝機が生まれた。


 サッシュが、あるいはゼットが動いた時、俺も動く――ん?


「……」


 サッシュが俺を見て、路地裏のチンピラのように剥き出しだった敵意を引っ込めた。


 え? 何?

 なんで俺を見てやる気をなくしてるの?

 というかこのタイミングで俺だと気づいたの?


 嘘だろ。

 君の目は節穴だろ。

 特に「メガネ」なしで気づくような奴じゃないだろ。


 そして奴の口から、とんでもない言葉が飛び出す。もちろん安定の節穴で。


「年下の女いじめて喜んでんのか? ……くだらねえ奴だな」


「あ……あぁ!?」


 …………


 ん?


 なんか聞き覚えが……いや、なんか似たようなこと言ったことがあるような?


「いじめだぁ!? 俺がか!?」


 ゼット的に衝撃の発言だったらしい。すごく驚いている。自分の敵意だの殺気だのが消し飛ぶほどに驚いている。ものすごく動揺している。


「もういい。おまえみたいなクズ相手にしてたら俺まで同類に見られちまう」


 同族嫌悪かな?


「なんだてめぇその態度!? つーかこの女マジで強ぇんだぞ!? おいどこ行くんだ!?」


 サッシュは行ってしまった。

 勝手に横槍入れて、入れっぱなしでどこかへ行ってしまった。


 …………


 まあ、一応、感謝。





 敵意も殺気も忘れてしまった今のゼットなら、多少は理屈で話ができるだろう。


 攻めるなら、今だ!


「年下の女の子をいじめて楽しいですか? 大した人ですね」


「やめろぉ! てめえは強ぇだろうがぁ!」


 でも、強い弱いはともかく、構図は変わらないよね。

 大の男が小さな女の子いじめてるようにしか見えないよね。


 ……実際には俺は男だから、色々破綻してるけどね。


「もういいでしょう。そういう雰囲気でもなくなりましたし」


 そしてようやく、俺はこの流れに持ち込むことができた。


「どうです? 勝負は違う形でしませんか?」


「あぁ? 違う形だぁ?」


「お互い『痛いところ』を知っていて、それを暴露されると非常に困る。つまり私たちがやり合って追い詰め合っても、心配事が増すだけです」


 窮地に陥った人は死に物狂いにもなる。

 もう理屈でもなんでもなく、ただその場を逃れるためにもがきあがく。


 その中に「素養の暴露」が含まれれば、かなりいただけない。たとえ自分の首を絞めることになろうと、どうせ窮地なら、という投げやりな発想も出てくる。


 「素養の暴露」は俺だって嫌だし、ゼットもかなり嫌だろう。


「それより、対決ではなく競争という形で勝敗を争うのはどうでしょう?


 ――どうせ今から狩り勝負という競争をするわけですから、これを利用しては?」





 果たしてゼットは――


「……そうするかぁ。すっかり萎えちまったぜぇ……」


 疲れた顔で俺の提案を受け入れた。やったぁ! 生還! 傷一つなしで無事生還!


 …………


 そんなにショックだったのか。

 年下の女をいじめて喜んでるって言われて。


 ……サッシュもショックだったかもなぁ。




 

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― 新着の感想 ―
[一言] 初期の出会いの頃の言葉まだ引きずってるって、よっぽど言われて思うところがあったんだな
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