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175.メガネ君、更に情報を集める





 ゼット参戦の報に場は一時騒然となるも、すぐに何事もなかったかのように祭りは続く。

 俺自身も今すぐ帰りたい心境に陥るが、なんとか持ち直した。


 そう、逆に考えればよかったのだ。


 このタイミングで奴に会う。

 ならばどうとでもなる、と。


 そもそも、奴が俺のことを覚えているのか。

 また俺自身がどうにか誤魔化すことができるのではないか。


 考えてみれば、意外とゼットと関わらない方法、関わっても深入りしない方法は色々あるのだ。


 …………


 まあ、やっぱり基本的には、会いたくないけど。


 「魔鋼喰い(アイアンイーター)」は恐ろしい。

 正面切っての勝負では確実に負けるし、ゼットが殺す気になった時点で勝敗が決する。そもそもゼット自身も強いし。


 ベッケンバーグが「素養封じ」を使ってゼットを殺そうとしていたことを考えると、その読みは俺が考える以上に正しかったのだと今ならわかる。


 もしあの夜、「素養封じ」がちゃんと用意できていれば、今頃はどうなっていたんだろう。


 ゼットが殺されたとはとても思えないけど、無傷で済んだとも思えない。

 案外本気で、本気になったゼットがベッケンバーグを殺していたりしたのかもしれない。


 ……まあ、考えるだけ無駄なことか。


 そうじゃなかったから今があるんだから。


 というか、「素養封じ」は今頃どうなってるんだろう。


 ……ああ、これも考えるだけ無駄かな。





 時間はまだある。


 ゼットが参加するという悲報も、情報収集していて拾うことができたこと。

 もっと粘って聞いていれば、更なる情報が飛び込む可能性は高い。


 ゼットに関しては、むしろ心の準備ができた。

 これで、どこかでいきなり鉢合わせしても、戸惑うことがなくなった。逆に事前に知れてよかったのだ。


 もしいきなり前触れもなく遭遇したら、もう反射的に脱兎のごとく逃げるしかないのだから。

 ゼット本人と「魔鋼喰い(アイアンイーター)」の及ばない距離まで。


「――ねーねー。あそこの馬の串焼き、とってもおいしーよー」


 なぜか隣の虎獣人の少女がやたら声を掛けてくるのを「はあ」とか「ええ」とか「ほんとに?」とか「逆にそういうのもありなのでは?」とか聞き流しつつ、――壊王馬(キングホース)の串焼きは絶対に食べると決める。


 狩り勝負がスタートする直前に、腹に入れていこう。

 何気に、時折あったセヴィアローお嬢様たちに同行して朝の見回りから昼の焼肉へ、という日常は、結構嬉しかったのだ。


 本当に馬はうまい。

 中がしっかり赤いままの肉を食べる機会があるとは思わなかったけど、生っぽい肉も決して悪くなかった。一風変わっていておいしかった。


 姉ホルンが生肉をかじる気持ちがわか……いや、それはやっぱりわからないな。あれとは根本的に違う話だから。


 それはそれとして。


 参加者の情報のほかには、仕留める魔物についての情報も多いようだ。


 狩る魔物の候補として聞こえたのは、やはり壊王馬(キングホース)魔豚(マトン)では優勝は狙えないという声だ。


 それこそ、サッシュが狩った女王(クイーン)くらい周知が認める大物でないと、その辺の「よく見る魔物」では高得点が狙えない。


 たとえば「数を狩る」のであれば、点数稼ぎに馬や魔豚を狙うのもありなのだろう。

 しかし今回の狩り勝負は、一頭のみに絞られる。


 そこで、二つの道に分かれるわけだ。


「――ねーねー。魔豚と馬ってどっちが好きー?」


「どちらもいいものです。どちらかを選ぶ必要がありますか?」


 そう、二つを狙えばいい……いや違う。肉に惑わされるな。


 道は二つ。

 大物を狙うか珍しいのを狙うか、という分岐があるわけだ。


 この辺の大物の魔物と言うと、赤足蜘蛛(ブラッドスパイダー)灰塵猫(アッシュキャット)金剛大猿(コンゴウコング)辺りが強いそうだ。


 聞き馴染みがないので調べてみたが、一頭相手に十人以上で狩りに行くような大物らしい。


 特に大猿は、数年に一度狩れるかどうかという強敵だそうだ。

 怪力と素早さを兼ねつつ、物を投げるなどの高い知性も持ち合わせ、状況に応じて信じられない動きをしたりするとか。


 猿は頭いいからなぁ。基本的に姉より頭いいんじゃなかろうか。姉を越えた行動を取るの見たことあるしなぁ。


 で、もう一つの選択は、珍しい魔物。


 こちらに関してはあまり情報はないが、空蜥蜴なんかがそれに当たるみたいだ。


 ちなみに空蜥蜴も一応この辺に生息しているらしい。 

 ただ、やはり発見するのが難しいという扱いになっているようで、これまた数年に一度狩れるかどうかという珍しい魔物に分類されている。


 ほかに名前だけわかっているのは、妖精毒蛾(フェアリーモス)、幻光兎、龍魚、空色蛇(スカイスネーク)といった魔物だ。


 これも聞き馴染みがないので調べてみたものの、はっきりしたことはわからなかった。


 妖精毒蛾は、時々森で羽が落ちているのを発見するそうだ。

 そのことから生息していることは間違いないが、本体を見たとか、仕留めたとか、そういう話は一切ないと聞いた。


 幻光兎、龍魚は、タツナミじいさんが若い頃に、素材として見たことがあると言っていた。

 というか龍魚の鱗を使った鎧は、おじいさんの店にあったので見せてもらった。


 この近辺で仕留めたのか、それともどこかから素材だけ持ち込まれたのかはわからないらしく、結局クロズハイトではこの二種は生息しているという体で扱われているそうだ。


 空色蛇は、時々空を飛んでいるのを見かける。

 ただし、かなり高速で空を飛んでいるので、狩る方法がないと結論が出ているみたいだ。低い位置を飛ぶこともあれば、高いところを飛んでいることもあるとか。


 漏れ聞こえる話では、魔物に関しては、俺が調べたこと以上の情報はなさそうだ。

 時々大まかな生息地の噂が出るので、それだけは留意しておく。


 大物の魔物を狙うか、珍しい魔物を狙うか。


 ――当然、俺が取る道は一択である。


「ねーねー。きみも出るんでしょー? 何を狙うのー?」


「なんでしょうね」


「あたしは大猿かなー」


 えっ? ほんとに? 屈強な狩人十人以上相当なのに?


 





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ウェブ版にはない書き下ろしエピソードには、猿の中の猿、真の猿の話が入っています。



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