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12.メガネ君、来客に対応する





 アンクル鳥の狩猟に成功した翌日のことだ。

 夜の狩りとなったので、王都に帰ったのは深夜である。


 狩猟ギルドに顔を出し、時間の都合でお金は扱えないとは言われたが無事納品を済ませ、寝て起きたら朝だった。


 用意してもらった水風呂で身体を洗い、近くの食堂で朝飯を済ませ、今日も午前中は宿で待機である。


 今日も狩りに出るつもりだが、その前に狩猟ギルドとジョセフの店に行きたい。


 ギルドでは、昨晩納品した獲物のお金を受け取るのと換金レートの確認。

 ジョセフの店では、矢を購入したい。


 たとえ「魔法のメガネ」で非常に獲物が狙いやすくなったとしても、それは俺の弓の腕には関係ない。

 あくまでも、弓を扱うのは俺自身だから。


 慣れない弓。

 慣れない闇夜の狩り。

 小さな鳥という獲物と。

 不安要素が重なった結果、五本ほど矢を無駄撃ちして失くしてしまった。


 ほかの人はどうだか知らないが、俺は師匠から「荷物になるから矢の本数は狙う獲物に合わせろ」と言われた。

 隠れて行動している時などは、矢同士がぶつかる音や荷物が何かに当たる音も、獲物に気づかれる要因となってしまうから。


 だから、一般的な動物や鳥を狙うくらいであれば、十五本しか持っていかない。

 魔物を狩るでもなく、獲物の数を稼ぐでもなく、ただの狩りだから。

 そして欲を出して深追いしないという自制でもある。矢がなくなれば必然的に狩りも中断せざるを得ないのだから。

 

 そんな矢を、五本も失った。

 はっきり言って、師匠に殴られるレベルの大失態である。だから言わないでおこうと思う。昨日の夜のことは誰にも話さない俺だけの思い出。


 今日も、午後からの狩りの準備をしながら、城からの使いを待ち――


「――アルバト村のエイル、王命を預かってきた」


 今日は、来た。





 朝と昼の中間くらいだろうか。

 部屋までやってきたのは、馬車で同道した若い兵士のお兄さんたちである。狭い部屋なせいか、部屋の中までは入ってくる気はないようだ。


「はい、じゃあ、行きましょうか」


 出かける準備だけはしていた。


 正直玉座にふんぞり返っているどうでもいいジジイ的な奴の命令がなんなんだって気はしないでもないが、表立って権力に逆らっていいことなどないので従っておく。だって王様なんて見たこともないから。本当にいるのかって気さえしてるし。


「いや、来なくていい」


 え? あれ? いいの?


「『おまえのメガネを23個納めろ』とのお達しだ。至急『メガネ』を納めるように。なお、謝礼はあるので仕事と受け取ってくれて構わない。以上だ」


 ……あ、はい。


「つまり外注ってやつですね」


「献上品と言え。王命だぞ」


 とは言われても、半端な個数での要求からして、間違いないだろう。


 お偉いさん方の中でメガネが欲しい人を募った結果、23個の注文が入ったって感じだろう。


 そしてそういう形式で注文が来るということは、俺はお城には必要ない人材だと判断されたということだ。


 「メガネ」だけ置いて村に帰っていいよと。

 そういう意味だろう。


 まあ、なんだね。

 城に仕えろと言われても断る気ではあったけども。

 王命で王都まで連れてきたくせに「いらないから帰っていいよ」と言われた俺の気持ちはどうしてくれるんだって話だよね。顔も知らないジジイが軽い気持ちで命令してるとしか思えないよね。


 ……なんて思っていても始まらないか。


「俺の魔力の都合で、『メガネ』は一日二個しか作れないんです。だから23個も用意するには時間が掛かりますけど」


「何、そうなのか」


 一応、何もしなくても回復する分の魔力が無駄になるかも、と考えて一日一個は予備として「メガネ」を作り、背負い袋に突っ込んではいるが。

 それでも注文の個数にはまだまだ全然足りない。


「一応今ある分だけ渡しておきますね。あとは後日ってことになります」


「……わかった。では五日後にまた訪ねてくるので、用意しておくように。それと五日分の宿代は払っておく。これは食費だ」


「あ、ども」


 決して多くはないしけた額のお金を受け取り、代わりに作り置きの『メガネ』を三つ渡すと、兵士たちは引き上げていった。





「よっ。来たよ」


 兵士たちが帰ってすぐに、別の客もやってきた。


「お帰りはあちらです」


「なんでだよ。なんで開口一番それが出るんだよ」


 王都で有名な冒険者チーム『夜明けの黒鳥』の一員である、赤毛の少女ライラである。


 おかしいな。

 友達でもないし、知り合いと言うにも怪しい、ただの顔見知り程度の関係のはずなのにな。関わってくる理由がわからないな。


「冒険に誘いに来たよ」


「お帰りはあちらです」


「なんでだよ! 話くらい聞けよ!」


 絶対に部屋に入れることは死守したかったのだが、ライラは強かった。

 俺の意思など関係ないとばかりに俺を押しのけ、すたすたと狭い部屋に踏み込んだ。

 これが冒険者の押しの強さというやつか。ところで不法侵入ということで兵士を呼んでもいいんだろうか? 連れてってくれるかな?


「聞いたよ。最近狩りやってるんだって?」


「それより昼食べに行かない? 大葱と青鴨のスープパスタとかオススメだよ」


「会話の受け答えが最初からおかしい! というかそれはこの国の名物だ、もう食べたよ! ……あ、待って! もしかして会計押し付けて逃げる気だった!?」


 うーん……あんまり頭は良くなさそうだけど、勘は鋭いな。


 グイグイ来るライラは、すでにベッドに座っている。ドアを閉めると密室に二人きりになるので、なんかあったら怖いから開けておくことにする。ちょっとアレなことを言い出したら大声を出して宿の人に兵士を呼んでもらおう。被害者ヅラして訴えよう。


「そんなに早く帰ってほしいなら、ゴネないで話くらいしたら? その方がよっぽど早いと思うんだけど」


 話の前に、それにさえ付き合う理由がないって話なんだけど。


 ……でも、強引に部屋に踏み込んでくるようなグイグイの奴だし、確かにその方が早いことは早いのかな。


「仕方ないな……何? 冒険? 俺冒険者じゃないから行かないよ」


 諦めて会話を始めると、ライラは嬉しそうに笑った。俺は嬉しくないですけど。


「知ってるよ。狩猟ギルドに登録したんでしょ? というか、狩猟ギルドなんてあったんだね。初めて聞いた」


 なぜ俺の事情を知っているかを問いただすまでもなく、ライラはぺらぺらしゃべり出した。


 単純に、目撃情報があったからだ。

 毎日狩場に行く俺と、それなりの獲物を携えて帰る俺と。


 そういえば、森では誰にも会わなかったが、道中では何人かの冒険者とすれ違ったりした。目撃情報とは彼らからだろう。


 特に「メガネを掛けた冒険者」というのは王都では珍しいようで、冒険者界隈でちょっとした噂になったらしい。


 夕方前に森に行って、夕方には仕留めた動物を引っ提げて帰る凄腕の狩人がいる、と。

 あの短時間であれだけ狩れるなんて信じられない、と。


 凄腕なんてとんでもない。ただの「メガネ」のおかげである。


 で、それぞれが持つ目撃情報を集めていくと、「狩猟ギルドに出入りしているメガネの狩人がいる」という事実にたどり着き――そして俺に繋がったと。


「安定して獲物を狩れる。つまり弓の腕はいい。充分冒険者としてやっていけると思うけど」


「その気がないから狩猟ギルドに登録したんだよ」


「だろうね。付き合いが浅いあたしでさえ、メガネが仲間と一緒に何かするってタイプには思えないもん」


 わかっているなら話は早い。


「お帰りはあちらです」


「まだ話は終わってない」


 俺の中では完全に終わってるんだけどなぁ……






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