エミリ
フラド王国郊外の街、プティベルツ。
私がここに越してきたのは去年の冬の事。
母の療養のため郊外の静かな街を探していたところ、隣の家に住むダニエルおじさんがこの街に今は誰にも使われていない家があるとその家を譲ってくれたのだ。
正直な話、私はこの引越しが嫌だった。
別に別れを惜しむような友達がいたわけではないけど本当に何もない街であるのは家ばかり。
1番嫌なのは図書館も本屋も隣町へ行かなければ無い事だ。
母親のことだって、血が繋がってないしお母さんだけ出て行けばよかったのに、なんて、自分でも驚くくらい酷い事を考えてしまう。
そんな私の小さな抵抗は学校へ行かず毎日本を読む事だった。
コンコン—
今日もお父さんが部屋の戸をノックする。
「エミリ、今日は行ってみないか?昨日と違って晴れているし、学校の子たちも…」
「行かないって言ってるでしょ!!!それに、私は晴れが1番嫌いなの!いいから私のことはもう放っておいて!!!」
ドアの向こうで、お父さんががっかりと肩を落としているのが分かるけど、それでも絶対に嫌だった。
前の学校なら私だって通っていた。けれど、この街の学校は女子はみんな裁縫や料理のことしか学ばせてくれず、本を読もうとしたら手を叩かれ目の前でページを破られる。
1日目にそれをやられてから私は頑として学校に行かなくなった。
表向きは。
けれど、流石にこう何日も外に出ていないと気が滅入る。本は楽しいけれど同じものを1日に何度も読み返しているのもいい加減飽きてくる……
と言うわけで!私は本を求め家を出た。
久しぶりの太陽光に目を細める。家の中では感じることのなかった爽やかな風と、空気。人々の行き交う足音や話し声に生活音。…っとと、足音って生活音に入るっけ?…まぁ、いいか。誰に聞かせるわけでも無いんだし♪
それにしても、、本当に人だけは多いな…
久しぶりすぎて人に酔ってしまう。ふらふらと街中の掲示板の前に来た時、1つの広告が目に入った。
《夢幻図書館、本日よりオープン。》
夢幻…図書館?!ついにこの糞みたいな街には図書館が…!
場所は…森の中…。森ってすぐ隣のハイエルンの森の事かな…?
んー、まだ日が高いところにあるし、行ってみよう!
私はまだ知らなかった。図書館で起きる不思議な悲しい事件のことを…(探偵ものじゃ無いよ!)