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トリオとコンビ  作者: 若松ユウ
第1部
99/164

第99話「円環」

「もう、九月も終わるというのに、いつまでも残暑が続くなぁ、冬彦?」

「本当。今年は夏が、なかなか終わらないね」

「暑さ寒さも彼岸まで、というのは嘘やな。もうすぐ、楠山祭。昨年、冬彦が女装してから、もう一年経つのんか」

「その思い出しかたは止めてよ、東野くん」

「好評やったんやけどなぁ。まぁ、ええわ。二組は、コントをすることになったんやけど、一組は、何をするんや?」

「映像上映。夏休みに、五、六人でちょくちょく集まって、植物園とか、厄除稲荷とかで撮影した映像があるんだ。それを、コンピューター研究会の子に加工して貰って、上映することになってる」

「理系クラスらしいな」

「そうかもね。三組は、何だっけ?」

「たしか、演劇やったと思う。西園寺が、チェーホフの『桜の園』をやるって言うてた」

「タイトルは、聞いたことがあるね。どんな話かは、よく覚えてないけど」

「俺も、よぅ知らんねん」

「悪い子は、いねぇがぁ」

「なまはげにしては、迫力に欠けるね」

「何やってるんや、中之島?」

「中之島正渾身の演技ですよ。どう見ても、幽霊でしょう?」

「幽霊なら、恨めしや、じゃないかなぁ」

「大根も、ええところやないか。そうや、中之島。『桜の園』は、知っとるか?」

「ロシアの劇作家、アントン・チェーホフが、一九〇三年に描いた戯曲で、『かもめ』、『ワーニャ伯父さん』、『三人姉妹』と並ぶ、チェーホフ四大戯曲の一つですよ」

「どんな話なんだい?」

「簡単に言えば、斜陽貴族が、桜の樹のある土地を手放し、貧しい農夫に競り落とされる話です。そこに、恋愛模様とか、社会の変革とか、複雑に絡み合ってくるわけです。ちなみに、四幕構成です」

「少し、硬そうな話やな」

「何でも知ってるんだね、副長くんは」

「冬彦さん」

「わっ。華梨那さん」

「鳳か。井戸から出てきたんか?」

「そっちも、完成したんやね、部長さん」

「幽霊役が二人、ということは?」

「二年一組が、お化け屋敷なんか?」

「ピンポン。大正解」

「展示は、二組に取られてしもうたから、第二希望やったんやけど、瑠璃ちゃんから聞く限り、展示は展示で大変らしいから、かえって良かったわぁ」

「おっ、ここは、四人いるっすね」

「樟葉くんか」

「会計の資料なら、文書庫の二段目にある、水色のファイルだよ」

「それは、知ってるっす。これを売り歩いてるんっすよ」

「食券やね。何を売ることになったのん?」

「今年の一年一組も、模擬店なんやな、樟葉」

「昨年も、模擬店やったんっすか。今年は、焼き鳥っす。一枚、どうっすか? 隊長さんは、一枚買うてくれたっすけど?」

「南方は、もう買うたんか」

「昨年の副長くんを思い出すね」

「一人五枚が、ノルマなんっす。一枚ずつ買うてくれたら、ちょうど捌けるんっすけど?」

「買うてあげようよ、冬彦さん」

「そうだね。買おうよ、東野くん」

「そうやな。中之島も、買うやろう?」

「大変さは、分かってますからね。買うたろう、樟葉」

「毎度ありっす」


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