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トリオとコンビ  作者: 若松ユウ
第1部
96/164

第96話「超過」

「ただいま、母さん」

「おかえり。途中で、玄介さんを見掛けなかった? 配達を頼んだんだけど、まだ帰ってないのよ」

「いいや、見てないよ。配達先に、連絡したら?」

「それが、配達は済んでるらしいのよ。どこに行ったのかしら?」

「どこかで、面白そうなことに、首を突っ込んでるんじゃないの?」

「まぁ、そんなところでしょうね。そうだ。麦茶、新しいパックを入れたから、二時間ぐらいしたら、出していてね」

「はい、母さん」

「夏は、洗濯物がすぐ乾くから、捗るわ。あら、電話。もしもし?」

『北条さんの、お宅ですか?』

「はい、そうです。どちらさまですか?」

『こちらは、市立総合病院です。北条玄介様のことで、お話がございます。お忙しいところ、申し訳ございませんが、今すぐ、こちらへ来ていただけますでしょうか?』

「玄介さんの身に、何か?」

『詳しくは、医師を交えて、こちらでお話いたします。よろしいでしょうか?』

「えぇ、すぐに伺います」

『では、のちほど』

「電話は、誰からだったの?」

「病院よ。玄介さんが、そこにいるそうなのよ。すぐに向こうに行かないといけないんだけど、冬彦、すぐに出られる?」

「すぐに出掛けられるよ」


「それで、先生。玄介さんは?」

「外科医として、最善は尽くしました。あとは、本人の回復力次第です」

「玄介さん」

「手術の内容と、現在の容態については、先程ご説明した通りです。他の患者がありますので、私は、ここで」

「どうも、すみません」

「僕だよ。冬彦だよ、玄介さん」

「こんなことなら、あたしが車を出して行けば良かったわね、玄介さん」

「起きてよ、玄介さん。ねぇ」

「あたしと付き合う男は、どうして、こうも死神に好かれるのかしら」

「こんな、お別れは嫌だよ。こんなのって、無いよ」

「そうね。これは無いわよ、玄介さん。あんた、冬彦の父親として、あたしとこの子の二人を、一生大事にするって言ったけど、期間が短すぎやしないこと?」

「うぅ。父さんを亡くすのは、こりごりだよ」

「ごめんね、冬彦。あたしが、再婚なんかしたばっかりに」


『八歳しか違わない人間を、父とは呼べない』

「そうやな、冬彦」

『もう、中学生なんだから、干渉が過ぎると、嫌われるわよ?』

「その通りやな、黒江」

『一回りも上の子持ちの未亡人と結婚なんて、認めへんからな』

「父ちゃん。まだ、それを言うのんかいな」

『玄介が大きゅうなって、大人になる頃まで、側に居てあげられるやろうかねぇ』

「祖母ちゃん。もう、立派な成人やで、俺は」

『父さん』

「冬彦か? いや。冬彦は、玄介さんとしか呼ばへんわな」


「……ゆ、か? ……げ、ば、な」

「父さん」

「んんっ? 冷たい手ぇやと思うたら、冬彦か。今さっき、何て言うた?」

「意識が戻ったんだね、父さん」

「そうや、冬彦。父さんやで。あれ? バイクで行ったら早いと思うて、配達しとったはずやのに。ここは、どこや?」

「帰りに、事故にあったんだよ。ここは、病院」

「せや、せや。ドライブ・スルーから飛び出してきた車と、鉢合わせしたんやった」


「丈夫に出来てたみたいね、玄介さん」

「黒江。今、何時や? 店は、ええんか?」

「こんな非常時に、お店を開けようとするとは、呆れて物も言えないわ。お休みにしてるに、決まってるじゃない」

「そうか。それは、済まん」

「良いわよ。コンビニじゃないんだから、年中無休である必要はないんだし。早めのお盆休みとでも、考えれば良いじゃない。ただ、一つだけ残念なのは」

「何や?」

「麦茶が、この通りになったことね」

「真っ黒やな。砂糖でも入れへんかったら、飲めたもんやないやろうな」


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