第95話「交差」
「国立大付属って、詰襟やったよね、中之島くん?」
「そうやで、部長さん」
「今でも、制服は、取って置いてあるのん?」
「取ってあるよ。上着も、スラックスも」
「差し支えなかったらで、ええんやけど、しばらく貸してくれへんかな?」
「別に構わへんけど、何で?」
「白蘭会の時の同級生が、今度の白蘭祭で、男装喫茶をすることになってね。ほんで、ブレザーは何着か集まったらしいんやけど、詰襟が全然集まってへんらしいのんよ」
「なるほどな。それやったら、会長と、あと樟葉にも聞いてみるわ」
「助かるわ。おおきに」
「俺の中学時代の制服なんか、どないする気やねん、中之島?」
「これも、部長さんのためなんですよ」
「鳳の? ますます、意味がわからへん」
「いいから、詳しい理由を聞かずに、貸してくださいよぉ」
「えぇい、離れろ。暑苦しい奴やな」
「痛っ。下敷きで叩くことないやないですか」
「この蒸し暑い時期に、へばりつくからや。こら、引っ張るな。服が傷むから、離せ」
「先方が、貸してくれると、確約するまでは、当方は、断固として、斗う所存であります」
「わかった、わかった。変なアジ演説をするな。帰りに、取りに来い」
「よっしゃあ。会長、おおきに」
「樟葉、ちょっと」
「何っすか、セイさん。漫画なら、朝に渡した分だけっすよ?」
「中之島先輩や。あと、それとは違うことで、頼みがあるんや」
「誰も聞いてへんから、問題ないっすよ。それで、何の用っすか?」
「中学の学ランは、まだ持ってるか?」
「あるっすよ。この春まで着てたっすから」
「貸してくれ」
「何でっすか? セイさんも、サイズ違いで、自分のを持ってるっすよね?」
「ええから、黙って貸せ」
「ちゃんと返してくれるんっすか?」
「用が済んだら、とっとと返す」
「それなら、ええっすよ。明日、持って来るっす」
「持って来たよ、部長さん」
「おおきに。二人とも、貸してくれたんやね」
「そうやねん。チェック柄の紙袋に入れてあるのが、会長。薔薇のリース模様の紙袋に入れてあるのが、樟葉。ほんで、斜めのストライプ柄の紙袋に入れてあるのが」
「中之島くんのやね?」
「そう。内田さんのアイデアで、百貨店で仕分けたんや」
「分かりやすいわ。楠川中学は、黒地に金ボタンで、国立大付属は、紺地に銀ボタンなんやね」
「国立大付属は、高校と一緒なんや」
「白蘭会も、中学高校とも、同じ制服なんよ。あら、樟葉くんのは、胸ポケットに名札が入れっぱなしや」
「ほんまや。そういえば、こんな名札やったわ」
「クラスがイロハなんやね、国立大付属は」
「三年間、ハ組やってん。白蘭会は、たしか、雪月花の三クラス制やったよね?」
「一時、星組があったらしいんやけど、基本は、その三クラスよ」
「何組やったん?」
「一年は月組で、二、三年は雪組やったわ。クラス章も、それぞれのシンボルマークで、雪組は、六角形の雪の結晶を表したマークなんよ」
「へぇ」
「せやけど、不思議な感じやわ。お互い、そのまま内部進学してたら、こうして話す機会があらへんかったやろうと思うと」
「ほんまに、そうやな。平行線が、どこかで曲がったんやな」