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トリオとコンビ  作者: 若松ユウ
第1部
94/164

第94話「曲がり角の先に」

「彪子さん。この前に頼んだ夏物のワンピースは、仕立て上がったのかしら?」

「つい、今しがたに仕上がったところやから、これから連絡を差し上げようと思うてたところやったのよ、芙美子さん」

「ほんなら、寄らしてもろうて、ちょうどええ時分時やったんやね」

「夏らしい、紫陽花を連想させるグラデーションということで、こういう色合いにしてみたんやけど?」

「ええやない。涼やかで、上品な感じやわ。これなら、華梨那も喜ぶわ」

「それは、よろしいわぁ」

「彪子さんも。秋ちゃんの機嫌が直って、よろしゅうおしたなぁ」

「おかげさんで」

「秋ちゃんが分からず屋になった、って聞いたときは、珍しいこともあるもんやなぁと思うてたんやけど」

「秋も、あれで結構、わがままなんよ」

「へぇ、そうなんや。そう、そう。それで、いつ、お発ちなん?」

「秋が夏休みに入ったら、一足早く、お店をお盆休みにして、と考えてるのんよ」

「盛夏の倉敷は、ええやろうねぇ」

「ええ塩梅に晴れたら、申し分ないのんやけど」


「さっきまで、何を弾いてたのん、北条くん?」

「ショパンの、雨だれ。今年は、なかなか梅雨が明けないなぁって思ってさ」

「梅雨前線の動きが、鈍なってるそうよ」

「そうらしいね。これから、魚崎先生と面談だよね? 東京に行く決心がついたんだね、西園寺さん」

「そうなんよ」

「そっか。僕も、それが良いと思うよ。あぁ、そうだ。パンフレットは、参考になったかい?」

「いろいろ役に立ったわ。おおきに。もう少し借りといても、ええかな?」

「良いよ。何なら、旅行に持って行きなよ」

「ほんまに? それやったら、もうしばらく借りとくわね」

「地図もあるから、迷子になったら、誰かに聞くのに便利だよ」

「そうやね。彪子伯母さんとはぐれたら、一人では、絶対に道を間違うてしまうやろうし」

「ふふふ。それで、どの辺りを巡るつもり?」

「一泊二日で、美観地区を中心に、ゆっくり観光しようかなぁって」

「いいね。歴史のロマンと、ハイカラな赤レンガとの、相乗効果だね」

「今から、楽しみやわぁ」


「ほんなら、大学と併願で進めるわね、西園寺さん。あぁ、良かった」

「急に、無理なお願いをしてしもうたようで、ごめんなさい、魚崎先生」

「ええのんよ。小母さんから、事のあらましは伺うてたから」

「それでも、大変やったんと違いますか?」

「これぐらいで大変だと思うくらいなら、教師になんかならへんよ。他人のことは気にせんと、今は自分のことに集中せんとあかんよ」

「はい」

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