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トリオとコンビ  作者: 若松ユウ
第1部
93/164

第93話「スウェット」

「高校前から西回りで、北町、西町、寿町、東町、南町、ほんで営業所やな」

「東回りだと、光町、橘町、桜町、浜町、港町だよ」

「山手新道との交差点にあるのんが、西町と橘町」

「私鉄線路付近にあるのが、寿町と桜町」

「それで、国道との交差点に、東町と浜町があるんやな」

「利用状況調査票を、僕たちで作ることになるとはね」

「全部、あの無責任男のせいやないか。『僕は自動車通勤やから、停留所名は分からん』とか、いけしゃあしゃあとぬかしよってからに」

「調べれば、すぐに分かることなのにね」

「あとは、徒歩の欄を作ったら、ええんかな?」

「そうだね。少数派だけど、副長くんみたいに、徒歩で通う生徒も居るからねぇ」

「よし。こんなもんで、ええやろう」

「やっと終わったね。お疲れさま、東野くん」

「お疲れ、冬彦」

「ずいぶんと力を込めたんだね。手の平が汗ばんでるよ?」

「これは、いつものことや。夏になると、もっと酷うなるんやけどな」

「手が温かいんだね、東野くん」

「そういう冬彦は、もうすぐ夏本番に近付こうっていうのに、えらく冷たい手をしてるんやな」

「手だけじゃなくて、足もそうなんだ。身体の末端が冷えやすい体質でね」

「真夏には、重宝しそうやな」

「東野くんは、真冬に助かりそうだね」

「まぁ、手袋は要らんな」

「冬場は、外した防寒具を、どこにしまうか悩むんだよねぇ」

「いつもの肩掛け鞄の、蓋ポケットに入れといたら、ええんと違うか?」

「そこは、まちが無いから、厚みのあるものは入れたくないんだよ」

「そうなんや」

「だからといって、あまり大きな鞄だと、車内で迷惑になるし」

「せやなぁ。バスの中での荷物は、通路の邪魔になるもんなぁ」

「リュックにしても、肩掛け鞄にしても、手提げ鞄にしても、置き場に困るんだよね」

「部活をやってる生徒よりは、幾分にマシやけどな。テニス部の大きなリュックとか、野球部やサッカー部の、エナメルバッグとか」

「吹奏楽のユーフォニウムとかね。部室に置いておけないのかなぁ」

「難しいんと違うか? 毎年、少なからず盗難被害があるみたいやし」

「ミレ、ミファ、ラーソー」

「副長くんだ」

「何で、どこぞの健康ランドのシーエム・ソングなんや、中之島?」

「気づきましたか、会長。こんにちは、会計さん」

「そのボールは?」

「幼稚園児や、小学校の低学年で、ドッヂボールとかに使うようなタイプやな」

「今日は、梅雨明け前にしては珍しく、雲ひとつない晴れ間が広がってますよ。御影さんからもらったこれでバレーボールをして、青春の爽やかな汗を、思いっきり流そうではありませんか。さぁ、こんな書類だらけで、埃っぽい部屋から、飛び出すのです」

「たしかに、健康には良さそうだね」

「ほんなら、外に行こうか。職員室に、これを届けてからな」

「先に、隊長と樟葉と待ってますよ。グラウンドの、砂場近辺で遊んでますからね」

「……向こうから走ってきた所為かもしれないけど」

「額の汗が、尋常やなかったな」


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