第9話「ピエロフォビア」
「あんなに大きな福笹や熊手を買う人が、どこにいるのだろうと思っていたら」
「こんなところに居るとはなぁ」
「お茶とお菓子をお持ちしましたよ。あら、正くんは?」
「『とっておきのコレクションをお見せしましょう』とか何とか言って、どこかへ行きました」
「ほんまに仕様のない子やわ。お客さんをほったらかしにして、どこへ行ったんやろう? さぁさぁ、冷めないうちに、お二人でどうぞ」
「美味しそうですね。いただきます」
「内田さん、いつも済みません」
「ええのよ。こちらこそ、いつも正くんに付き合うてもろうてる訳やねんから」
「お待たせしました、先輩」
「正くん、ちょっとお話があります。すぐ済みますから」
「後ほど、という訳にはいきませんか?」
「そうね。それでは、旦那様にお伝えしておきます」
「勘弁してよ、内田さん。父上に叱られながらやなんて、夕食を食べた気がせぇへんやん」
「まぁまぁ、内田さん。俺らは別に気にしてへんから。なぁ、冬彦」
「そうですよ、内田さん。許してあげてください」
「ほんなら今日のところは、お二人の優しさに免じて大目に見ることにします。せやけど、正くん。分かってるやろうね?」
「重々、承知いたしております」
「昔から、お返事だけは立派なんやから。そしたら、お二人さん、ごゆっくり」
「……あの熊手についてる能面だけどさぁ」
「冬彦もそう思うたか? 俺も今見て、どきりとしたんやけど」
「光の加減のせいかなぁ。何となく」
「内田さんに似てはるなぁ」
「二人して嫌なこと言わんといてくださいよぉ」
「一見、微笑みを浮かべているようだけど」
「背筋の凍るような陰がちらつくところが、そっくりやんなぁ」
「もう。今夜魘されたら、先輩らの所為ですからね」