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トリオとコンビ  作者: 若松ユウ
第1部
88/164

第88話「頃合いをはかる」

「瑠璃ちゃん」

「よぅ、華梨那」

「今日は一日中、雨やね」

「ほんまに、憂鬱になるわ。今日みたいに雨が降ると、寝癖で髪がはねてしもうて、出掛けるまで、洗面所でドライヤーと格闘せなあかんもんなぁ」

「うちも、癖っ毛やから、朝は大変なんよねぇ。右が、ちょうどええ感じになったと思うたら、左が波立ったりして」

「わかるわぁ、それ」

「よっこい、しょういちっと」

「あっ、用務員のおっちゃんや」

「こんにちは、塚口さん」

「おぅ、お二人さん。さぁて。こんなもんで、ええかなぁ」

「何をしてはるんですか?」

「メダカが、いっぱいや」

「事務室前の水槽の、水の入れ換えや。あと、メダカが増えすぎたから、適当に分けとる」

「仲間が減って、寂しがったりせぇへんの?」

「でも、あんまり多いと、棲みにくいんと違う?」

「そこが、塩梅に悩むところやねん。混み合うとると、どうしても、泳いでる時にぶつかってしもうて、喧嘩になってしまうし、さりとて、あんまりがらんとしてるのも、可哀想やしな」

「分けた片方は、水槽に戻しはるとして、もう一つのほうは、どないしはるんです?」

「どこか、他の場所で飼うてはるんですか?」

「違う、違う。楠川に持って行って、放してるんや。市のほうで、楠川を、子供が泳げるぐらいにきれいにしようって、取り組みがあるんやけど、その一環なんや」

「へぇ、知らへんかったわぁ。知ってた、華梨那?」

「うぅん、知らんかった。メダカが泳げるぐらいには、綺麗なんやねぇ」

「高度成長期に比べたら、格段に綺麗になっとる」

「そう言うたら、昔は、楠浜で水泳の授業をやっとったって、地域のお年寄りから聞いたことがあるわ」

「それは、聞いたことがあるわ」

「昭和初期までは、遊泳が禁止されてへんかったそうや」

「何で、川の水が汚れてしもうたんやったっけ?」

「市の人口が急激に増えて、生活排水の整備が追いつかへんかったんやなかったかなぁ」

「そう、そう。楠木市は、戦後に都市開発と宅地化が進んで、それまでは水田やったところに、雨後の筍のように建物が建ったもんやから、公共設備の整備が間に合わへんかったんや。上下水道の整備より、治安の維持のほうが、重要視されとったしな」

「あんまり狭いところに、たくさんが集まってると」

「揉め事が起きるし、濁ってくるんやね」


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