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トリオとコンビ  作者: 若松ユウ
第1部
87/164

第87話「ノスタルジア」

「古典柄ばっかりで、面白みに欠けるんやけど、我慢してね。白石呉服の頃やったら、もう、なんぼか変わった柄の御浴衣もあったんやけど」

「これでも、十二分ですよ。ねぇ、華梨那さん」

「そうやね、冬彦さん。この朝顔、きれいやわぁ」

「冬彦が着てるのんは、何ていう柄なんや、西園寺?」

「それは、笹柄って言うんよ、春樹くん。ほんで、春樹くんが着てるのは、虎柄なんよ」

「あたしは、これにするわ」

「俺は、この幾何学模様にするっす」

「隊長のは、菖蒲で、樟葉のは、麻の葉ですよね、小母さん」

「そう。覚えが早いんやねぇ。ちなみに、今、持ってるそれは、刺し子縞っていうのんよ」

「中之島くんは、それがええんと違う? あたしは、これにしよう」

「それは、撫子っていう柄なんだって、千林さん」

「秋ちゃんのそれは、何ていう柄なんよ?」

「うちのは、水仙よ、夏海ちゃん」

「……亡くなったお父ちゃんも、喜んどるやろうなぁ」


「男女のペアで、浴衣を着て入場すると、観賞料が半額になるって聞いて、こうして着て来たのんは、ええんやけど」

「誰とペアを組むかやね、春樹」

「そこは、二人で組んだら、ええのんと違いますか? ねぇ、冬彦さん」

「そうだね。僕は、華梨那さんと組むよ」

「うちは、あとは四人して、グッパで分かれたらええと思うんやけど、どない?」

「書記さんに、賛成」

「あたしも、賛成」

「俺も、それでええっすよ。恨みっこ無しで、決めましょう」

「ほんなら、いくわよ。ぐーすーとーんーぱっ。ぐす、とん、ぱっ。ぱっ。ぱっ」

「決まりっすね。俺が、書記さんで」

「あたしが、中之島くんやね」


「古き良き日本、って感じだったね」

「家族や仲間と支え合うて」

「たとえ物には、恵まれて無うても」

「清く、優しく、逞しく」

「懸命に、前に進んで行った時代やね」

「映画やから、理想化された過去像やとは、分かってるんやけど」

「心にジーンと残るものがあるっすね」

「あの皮肉屋で有名な、イギリスの映画評論家が絶賛するのんも、納得や」


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