第87話「ノスタルジア」
「古典柄ばっかりで、面白みに欠けるんやけど、我慢してね。白石呉服の頃やったら、もう、なんぼか変わった柄の御浴衣もあったんやけど」
「これでも、十二分ですよ。ねぇ、華梨那さん」
「そうやね、冬彦さん。この朝顔、きれいやわぁ」
「冬彦が着てるのんは、何ていう柄なんや、西園寺?」
「それは、笹柄って言うんよ、春樹くん。ほんで、春樹くんが着てるのは、虎柄なんよ」
「あたしは、これにするわ」
「俺は、この幾何学模様にするっす」
「隊長のは、菖蒲で、樟葉のは、麻の葉ですよね、小母さん」
「そう。覚えが早いんやねぇ。ちなみに、今、持ってるそれは、刺し子縞っていうのんよ」
「中之島くんは、それがええんと違う? あたしは、これにしよう」
「それは、撫子っていう柄なんだって、千林さん」
「秋ちゃんのそれは、何ていう柄なんよ?」
「うちのは、水仙よ、夏海ちゃん」
「……亡くなったお父ちゃんも、喜んどるやろうなぁ」
「男女のペアで、浴衣を着て入場すると、観賞料が半額になるって聞いて、こうして着て来たのんは、ええんやけど」
「誰とペアを組むかやね、春樹」
「そこは、二人で組んだら、ええのんと違いますか? ねぇ、冬彦さん」
「そうだね。僕は、華梨那さんと組むよ」
「うちは、あとは四人して、グッパで分かれたらええと思うんやけど、どない?」
「書記さんに、賛成」
「あたしも、賛成」
「俺も、それでええっすよ。恨みっこ無しで、決めましょう」
「ほんなら、いくわよ。ぐーすーとーんーぱっ。ぐす、とん、ぱっ。ぱっ。ぱっ」
「決まりっすね。俺が、書記さんで」
「あたしが、中之島くんやね」
「古き良き日本、って感じだったね」
「家族や仲間と支え合うて」
「たとえ物には、恵まれて無うても」
「清く、優しく、逞しく」
「懸命に、前に進んで行った時代やね」
「映画やから、理想化された過去像やとは、分かってるんやけど」
「心にジーンと残るものがあるっすね」
「あの皮肉屋で有名な、イギリスの映画評論家が絶賛するのんも、納得や」




