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トリオとコンビ  作者: 若松ユウ
第1部
86/164

第86話「視野狭窄」

「モーニングセット、お待ち遠さん」

「おおきに。玄介くん、これを見なさい」

「今朝の、京阪神新聞やありませんか。これが、どうかしはりましたか?」

「この記事を、よぅ読んでみぃ」

「どれどれ。『教育・逆コースか? ――ブレザーから学生服へ』」

「とある公立の高校で、来年度から詰襟とセーラー服に戻すって言うて、えらい騒ぎになっとるんや」

「『生徒会は、教職員の傀儡でないことを宣言し、圧制に屈服してはならないとして、一斉制服放棄を強行した』 えらいことやなぁ」

「『アイテム数が少ないので、家計に優しいというお題目の裏に、管理体制の強化を嗅ぎ取った彼らは、私服化を要請』 昔から儂も、制服は、学校と繊維業者との、癒着の温床やと思うとったんや」

「『ついに、スーツを着用した教職員の、立ち入り禁止を断行する騒ぎにまで発展した』」

「ここには載ってへんけどな、別の記事では、校長が入院してる合間に、教頭が権限を濫用したかったんと違うかって、言われてるんや」

「何やら、教頭だけが悪いって言いたいみたいやなぁ」

「そこが、この学校の生徒会の、賢いところや。傷害行為や器物破損を、堅う禁じてな、暴力には訴えへんかわりに、絶対に言いなりにならへん姿勢を貫いてる訳や。授業も、よぅ出来る子が、あんまり出来へん子を教え合うてるらしい」

「非暴力、不服従かいな。どこぞのインド人みたいやなぁ」

「まさしく、玄介くんの言う通りや。きっと、大いに参考にしてることやろうって。火炎瓶を投げようが、角材で殴ろうが、根本では、何の解決にもならへんからな」

「実際に、経験された人の言葉は、重みが違うてるわ」

「昔は儂も、阿呆なことをしたもんや」

「この騒ぎ、このままやと、どないなるんやろう?」

「教頭が、生徒会の懐柔に出るか、何か生徒側の落ち度が見つかるか、やろうな。どっちゃにしても、制服改変は、見送られるやろうな」

「生徒あっての、学校やから、無理を通すのは難しいってことか」

「そういうことや。灰皿、貰えるか?」

「もう、置いてまっせ。右手の先ですわ」

「おぅ、すまん、すまん。最近、遠近両用レンズっちゅうのに変えたんやけど、どうも、近くのものを見落としてまうわ。はっはっは」

「……結局、人間は、自分の見たいものしか、見えへんのかもしれへんなぁ」


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